第144話 『 金城くん。八雲さんて呼ぶの止めないかな 』
本日はモン〇トをリセマラするので更新は少ないです。
「それじゃあ、私たちは料理作り始めようか」
「はいっ。今日も宜しくお願いします、八雲さん!」
エプロンを纏い、髪も束ねて準備を整えれば、金城もエプロンを装着して脇を引き締めた。
「八雲さん? どうかしたの?」
「…………」
眉根を寄せる美月に、金城が怪訝な顔をしながら覗き込んでくる。
「ねぇ、金城くん。八雲さんて呼ぶの止めないかな」
「えっ……でも、学校じゃない時は「八雲って呼べ」ってきょ……お願いしてたよね?」
誰も脅迫なんてしてないわよ、と胸中でツッコみつつ、美月は「そうなんだけどね」と複雑な表情を浮かべる。
美月から始めたことではあるが、金城には学校では『瀬戸』で、プライベートでは『八雲』という苗字の使い分けてもらっている。
どうやら彼は器用なようで美月のワガママな要求にもしっかり応えてくれたが、しかし、これは金城に神経を使わせているようでずっと申し訳ないと思っていた。
なので、
「この際だから名前で呼んでよ」
「え、僕なんかに名前呼ばれて気持ち悪いと思わないの?」
「思う訳ないでしょ。というか、なんでそういう発想になるの」
「僕、小学校の頃に友達だと思ってた子の名前で呼んだら『きもっ』と引かれたことあるんだ」
「……うん。なんかごめん」
金城は何事もなさげにさらっと言ったが、美月からすれば地雷を踏んだ気がしてならかった。
二人の間に哀愁が漂えば、美月は空気を切り替えるように「安心して!」と笑顔を魅せて。
「私からお願いしてるんだし、全然キモイなんて思わないから!」
「本当に?」
「なんで疑うのよっ」
心外だ、と睨めば金城は委縮してしまった。
いいから、と名前呼びを促せば、金城は明らかに緊張し始めた。
最近は女性と関わっているから少しは慣れたと思っていたが、やはり簡単にはいかないようだ。
それでも、金城は息を整えると、勇気を振り絞って美月の名前を呼んだ。
「み、みとぅきさん」
「誰それ」
精一杯の勇気を振り絞ってくれた努力は認めるが、そんな名前の人はいない。
なんとなく彼が小学校の時の女子に『きもっ』と言われたのが理解できた気がして、美月は頬を引きつらせる。
「ほら、もう一回」
「み、美月……さん」
「慣れるまで言ってごらん」
「鬼畜⁉ ミケ先生より怖いよぉ⁉」
「あはは。それ、どういう意味?」
笑顔で聞いたつもりだが、何故か金城は顔を真っ青にしていた。
そんな金城に痺れを切らせば、美月は頬を膨らませながら腰に手を置くと、
「ほら! そろそろ料理の特訓始めるよ! 料理中に私のことを苗字で呼んだらほっぺ抓るからね!」
「ひぃぃぃぃ! 鬼コーチ⁉」
「誰が鬼だ!」
それとコーチじゃなくて美月! と圧の籠った語調で言えば、金城は戦慄しながらこくこくと頷く。
「美月さん⁉」
「よろしい。これからよろしくね、金城くん」
「あ、僕のことは変わらずに苗字呼びなんだね」
「下の名前で呼ばれたかったら呼んであげるけど」
金城の呟きにそう反応すれば、彼は「いいよ!」と全力で首を横に振った。
「もし八雲さんから下の名前で呼ばれたら、僕二学期から学校に行けなくなっちゃうよ⁉」
「キミは私をなんだと思ってるの? あと八雲呼びしたので罰を実行します」
「いはいんだけど⁉」
罰なので、当然結構強めに頬を捻っている。
涙目を浮かべる金城の抗議を無視して、美月は学校での自分を述懐する。
美月は彼が思う程カースト上位には位置していないので、金城の懸念は杞憂だ。無論、女子の友達は多いが、本当に仲が良いのは花蓮や千鶴くらいだ。ただ、金城からすれば、美月は十分陽側なのかもしれない。
そして金城がクラスでは日陰側だというのはまた事実で、それが美月としては悩みの種だった。
「金城くんはもう少しシャキッとすれば女子にモテそうだと思うけど……」
「ひうっ⁉ いきなり髪上げるの止めてよ。ボコられると思ったよ」
「キミは私をヤンキーだと思ってるの?」
「うぅ、睨むのも止めてください……お願いします」
「ただ観察してるだけだよ⁉ ヤンキー扱いしないで⁉」
徐に金城の前髪をかき上げると、美月はじっくりと観察する。
金城の顔は本人が評価するほど低くないと思うし、気にしている肌色だって晴より健康的な色をしていると思う。
「やっぱり、自分で卑下する程酷い容姿じゃないと思うんだけど」
「いやいや、やぐ……美月さん、ちゃんと見てるかい? よく見てごらんよ、この幸薄い顔を」
そう言われてまじまじと見るも、やはり金城は自分を過小評価していると思ってしまうのだが。
「うん。やっぱり金城くんはもう少し自分に自信を付けた方がいいかもね」
「うぅ、そうなれるように努力はしてるけど、でもやっぱり上手くいかなくて」
「ならその弱気な姿勢から直していく!」
バシンッ、と強く背中を叩けば、金城は「いたっ⁉」と悲鳴を上げて、
「ぼ、暴力反対だよ⁉」
「暴力じゃありませーん。弱気な友達に喝を入れてるだけでーす」
「うぅ、鬼だぁ」
「あ?」
「いえっ、凄く立派なお嫁さんだと思います!」
「よろしい」
有無を言わさぬ圧を放てば、金城は姿勢を正して敬礼した。
立派なお嫁さん、そんな響きに内心喜びながら、美月は気合を入れ直せば、
「さっ、私は晴さんの為に。冬真くんは愛しのミケ先生の為に頑張るよ!」
「べ、べつにミケ先生を愛しいとは思ってないよ⁉ ……尊敬はしてるけどっ」
「はいはい。そういうことにしておくから。準備するよー」
「スルーされた⁉」
美月の言葉に赤面する金城は、ちゃっかり名前呼びに変更したことに気付かないまま料理の特訓を開始したのだった。
???「磯野! 料理開始の宣言をしろ!」
???「料理開始ぃぃぃぃ!」




