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【累計PV80万突破!!】出会い系アプリから始まる結婚生活 ~童貞ラブコメ作家が結婚したのが女子高生だった件~  作者: 結乃拓也
第3章 【 夏だ! 水着だ! 浴衣だ! (7月~8月編)】編
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第95話 『 晴さんをイジメていいのは私だけだからね 』



 昼食も終えた美月たちは、華が晴との親睦をもっと深めたいという理由で複合型のショッピングモールへと赴いていた。


「ごめんね晴くん。貴方も仕事があるのに」

「気にしないでください。これでもスケジュールの管理は得意なので」


 それも小説に特化された能力なので美月としては褒める箇所はないが、母はというと「素晴らしいわ」と拍手していた。

 微笑みを絶やさない華は美月の方へ視線を移すと、


「アナタにも申し訳ないわね。せっかくの夏休みで晴くんとイチャイチャできるのに、私が晴くんを取っちゃって」

「べつに全然気にしてませんけど……」


 本当は夏休み中晴に構ってもらう気満々だったので、虚を突かれて口ごもってしまった。

 娘の思考を読み取った母はひどくご満悦げに口角を上げながら、再び晴のほうへ向き直る。


「ところで晴くんは女性とのショッピングは楽しめる男性なのかしら」

「えぇ。美月ともよく服を見ますし、化粧品も嗜み程度ですけど知識はありますよ」


 あらまぁ、と華が歓喜の声を上げた。


「それじゃあ一緒に洋服見ましょう!」

「はい。美月もいいよな?」


 問いかけに無言で応じれば、晴はまた華へと視線を移してしまう。


「女の趣味に興味を持ってくれる男性ってなかなかいないのよ。私の元夫も洋服には全然興味なくて、だから一緒に見られて嬉しいわぁ」

「はは。華さんが楽しんでくれるなら何時間でも付き合いますよ」

「あらやだ。ねぇ美月。お母さん本当に晴くん誘惑してもいい? 正直女心掴まれすぎてキュンキュンするわ。いい年なのに」

「お母さん!」


 ラブコメ作家で執筆バカの言葉に惑わされる母に一喝すると、カラカラと笑われた。

 冗談よ、と華は言うが、ならさりげなく組んでいる腕を離すべきではないだろうか。


「(お母さんと晴さんを二人きりにするんじゃなかった!)」


 美月が昼食を用意している間、晴は華に部屋を案内していて、仕事部屋にも入れていた。

 美月だってまだ入ったことのない場所で、どうやらそこで二人は必要以上に打ち解けた様だった。本当にナニがあった。

 母だって男には抵抗をみせるが、晴に向ける顔はまさしく女の顔だった。


 ――これはマズい。非常に。


 美月の懸念は完全に杞憂な上に変な方向に想像が膨らんでいるが、それでも暴走少女は止まらなかった。

 カツカツ、と靴音を鳴らしながら無言で晴と華に近づくと、そのまま手刀を入れた。


「お母さん、そろそろ晴さんから離れて」

「あらま、母親に嫉妬かしら」


 何もしてないでしょ、と口を尖らせる母を美月はキッと睨んだ。


「嫉妬じゃないけど、でも――」


 この不愛想な男は誰にも渡さない。そう言わんばかりの瞳を母へ向けつつ、美月は無理矢理引き離した晴の腕に今度は自分の腕を絡める。


「この人は私のものだから。だから誰にも渡しません」

「――――」


 顔を真っ赤にしながらそう宣言すれば、華は目をぱちぱちさせた。

 それから、呆気取られていた顔が徐々に笑みを深くしていくと、


「あらやだぁ。アナタったら、いつの間にそんな嫉妬深い子になっちゃったの~」


 と娘の変化を物凄く楽しそうに見届けるのだった。


 △▼△▼△▼



「ねぇねぇ晴くん。晴くんはどっちが好みかしら?」

「お母さん! さっきの私の忠告聞いてた⁉」


 数分後。さっそく近くの洋服店に足を運んでいた三人。

 そして先程の忠告を無視して、華は過激な衣装を手に取って晴に問いかけていた。


「勿論聞いてるわよ。安心しなさい。娘の旦那を寝取る気なんてお母さんは微塵もありません」

「さっき誘惑していいか、って聞いてたでしょ!」


 その服も! と指させば、華はけらけら笑いながら言った。


「普段着よ」

「そんな訳あるか!」

「おおぅ。普段大人しいお前が珍しく荒れてんな」


 母親に調子を狂わせられる美月に晴は驚嘆としていた。

 そんな晴をジロリと睨むと、


「晴さん。選んだらお母さんを調子に乗らせるだけなので、絶対に選ばないでください」

「でもせっかく持ってきてくれたし……」

「反論は受け付けませんっ」


 口ごもる晴に美月は容赦なく言い切る。

 晴の想像力は豊かなので、きっと頭の中でその服を着た華を想像するはずだ。そんなのは絶対にしてほしくないので、強制的に想像を中断させる。

 ぜぇぜぇ、と荒く息を吐く美月を愉し気に見つめる華は「それなら」と突然美月の前に洋服を重ねてきて。


「私じゃなくて美月が着るとしたら、晴くんはどっちがい~い?」

「おか……っ⁉」


 にしし、と笑う華に美月は目を白黒させる。

 今すぐに母の腕を振りほどこうとするも、


「ふむ。どっちがいいか……」


 真剣な顔で考える晴を目にすれば抵抗力が削がれてしまった。

 どうせ美月ではなく小説に使えるから真剣に考えているのだろうが、それでも今、晴の頭の中に自分がいると思うと、美月としても悪い気はせずついジッとしてしまう。

 しっかり頭の中で両方の服を着た自分がいるな、と顔を赤らめつつ待っていると、やがて晴は片方の服を指さした。


「こっちの方が美月に合うと思います」


 その答えを聞いて、母はにまにまと小悪魔な笑みを魅せる。


「ふふーん。晴くんはこっちが好きなのねぇ」

「えぇ。肩や背中の露出度は高いですけど、その分妖艶さが強調されて女性としての魅力をぐっと引き立てますし、美月みたいな清楚系の子がこういう普段は控えている服を着るというのが男たちにはウケがいいです」

「あれ、なんか私の思ってる返しと違う……」


 晴の真面目な意見を聞いた母が意表を突かれたように呆気取られていた。

 ただ、晴が〝1年365日〟小説脳だと理解している美月だけはやれやれと嘆息して、


「お母さん。晴さんはこういう人だから」


 女性を無意識に口説くのは得意だが、女性の意図を理解しないのが晴でもある。

 晴という男は、照れとか恥じらいとか一切ないのだ。本人は「バカにすんな」と否定するが。


「(やっぱり他の女じゃ晴さんを理解できないな)」


 晴という不愛想でぶっきらぼうで淡泊な男を理解できるのは、きっとこの世で美月だけ。

 その事実を改めて認識すると、途端それまで感じていた焦りはすっと消えて。

 余裕の笑みがこぼれる。


「こういう服が好みなら、今度着てあげますね」

「ばかっ。華さんの前で何宣言してたんだ」


 イジワルに言えば、晴は狼狽する。

 こんな風に晴を揶揄えるのは、美月だけ。

 それを知らしめるように母へと顔を振り向かせると、美月は自慢げに口角を上げて高らかに告げた。


「晴さんをイジメていいのは私だけだからね、お母さん」

「いやお前もダメだからな?」


 晴の言葉には耳も傾けず、美月は実の母親にマウントを取るのだった。

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