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第四話


 そしてアイネはその晩、夢を見た。


 ✳︎ ✳︎ ✳︎


 ー遠い遠い昔


 その鳥は美しい青色の羽を持って生まれた。人は鳥を" 幸せの青い鳥"と呼んで指差し、しまいにはそれを捕まえた。


 破格の高値で売られた鳥はある裕福な家庭の一人娘に与えられた。


 その娘の両親は忙しなく家を空けており、娘は孤独を埋めるように鳥に愛情を求めた。


「青い鳥はわたしを幸せにしてくれるんでしょう?」


「ねえ、どうして何もしてくれないの? 何も変わってないじゃないの!」


「痛っ! ひどい、噛むなんてッ」


「役立たず……」


「なんで…お前には私しかいないのに…」


 しかし鳥は娘に懐こうとしなかった。鳥籠から覗く娘のぎらぎらとした目が怖かったのだ。


 それが気に食わなかった娘は次第にエサも気まぐれにしか与えなくなり、鳥籠の中でも鎖に繋いだ。

 

 しかし、見るも無惨にやつれていく美しかった鳥を憐れんだ使用人が娘が留守の隙を見て籠を開け、鎖も抜いた。


 よれよれと飛びさっていくその鳥は、とても幸せの象徴などではなかった。


 遠くへ飛び去る力もなく途中で事切れるように落ちたのであった。


 ✳︎


「だいじょうぶ? どこがいたいの?」


 少年は家の庭の中で動けずにいる一羽の鳥を見つけて保護した。


「ぼくがたすけるからね!」


 そう言うと彼は動物を診れる者を探すように指示し、自らも甲斐甲斐しく世話をし始めたのだった。


 その鳥は人間の事がわからなった。また酷いことをされるのだと思っていた。

 しかし動けないので為すがままに受け入れるしかなかった。


 けれど狭い鳥籠に入れられなかったし鎖もなかった。新しく用意された籠は暖かさが一定に保たれ湿度も管理されて、弱った体を休めるのに最適だった。


 そこで時間をかけて鳥はゆっくりと回復していった。


「なまえをきめたよ!」


 少しずつ元気を取り戻し、美しい羽も生え変わった頃。


「アイネだ!」


 鳥は初めて名前を与えられた。


 少年は幼い頃から内向的で外に出たがらず何にも深く興味を示さなかった。そんな彼が一羽の鳥を、それはもう大事に大事に扱うのを見て、彼の裕福な両親は大層喜んだ。


 ✳︎


 一方、世間ではどこかにいってしまった青い鳥を探しているという話が話題になっていた。

 娘は購入したとき以上の報奨金を両親に用意させ、血眼になって探していた。


 少年の親はその鳥に関わった者にはお金を使ってでも口止めをしたが、どこからか漏れてしまうのは時間の問題だと知っていた。

  

 しかし愛情を知った少年の慈愛に満ちた横顔を見ると、何も言えなくなり夫婦2人はギリギリまで出来ることをしていこうと夜ごと対策を練るのだった。


「アイネ、 これ美味しいよ。 リコの実っていうの」

 

 鳥のアイネはリコの実をパクパク食べる。ほかの食べ物より食べるので、アイネを喜ばせたい少年は自分の足で実を探しに出掛けるようになった。


「アイネはこの実が好きなんだね」


「アイネ、ブラッシングは好きかな…」


「アイネ、大好きだよ」


「アイネ、出会ってくれてありがとう」


「アイネと出会えて本当に幸せだよ」


「アイネ、アイネはどうしたら幸せかな…」


 アイネは人の言葉に興味がなく、フィオンの言葉に気まぐれに指を甘噛みしたりつついたりしてみて反応するのだが、その度にフィオンは目を輝かせて喜ぶのだった。


 ✳︎


 けれど幸せで穏やかな時間は長くは続かなかった。逃げた青い鳥が少年の家で匿われていると密告があったのだった。


 少年の両親は少年に別れの時が来たことを伝える。


 そして、二つの選択肢を提示した。一つは、娘に鳥を明け渡すこと。もう一つは、国の外へ放つこと。


 少年の両親はありとあらゆる手を使い、鳥について調べ尽くしていた。その鳥はその国ではたいそう珍しかったが、離れた別の国ではよくありふれた鳥だと言うことを。

 

 少年に二つ目の選択肢に決めた。それしかないと分かっていた。


 アイネとの別れの旅は、少年にとって初めての旅でもあった。アイネを籠に入れて、2人は船からよく外を眺めた。閉じこもってばかりだった少年は、初めて世界が広いことを知ったのだった。


 そして旅の終わりの、最後の最後。


 アイネはフィオンに問いかけた。


 "あなたの名前は?"


 鳥の声にしか聞こえなかったが、フィオンにはわかった。



「アイネ、 僕はね、フィオン」


 フィオン。


「アイネ、もう捕まらないで、遠くに行くんだよ」


「仲間がきっとたくさんいるからね」


「そこでは青い鳥はたくさんいるんだって。」


「もう一人じゃないからね」


 アイネに届いているかいないのか、くりんとつぶらな黒い目をフィオンに向けて、ちゅっ、とくちばしで彼の頬を突いた。


「アイネ……ずっと僕のそばにいてよ……」


 アイネに人の言葉はわからない。


 しかし彼の手から飛び立つ時、アイネはひとつ願った。次また生まれてくることができたなら、フィオンと同じ人間として生まれ、彼の役に立つことができるようにと。


 傷ついた羽を癒し、また空を飛べるようにしてくれた。


 恩返しがしたいと。






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