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第三話


 それから2年後


「アイネ、アイネ! 帰ったよ」


 満面の笑みで駆け寄ってきたフィオンをアイネは微笑みで出迎える。


「おかえりなさい」


 2人は結婚したのだった。


 アイネは「はい」というしかなかった。

 

 爵位はあり地位はあるが経済的に困窮しつつあったカルサイト家と爵位はないが経営の才能に恵まれ国内全土に影響力のあるモルガナイト家、実はお互いに結びいた時のメリットが大きい。


 フィオンは親バカな父親を説得しいとも簡単に味方につけ、温厚で世間知らずなカルサイト侯爵夫妻に近づき外堀を埋めて行った。


 姉が大好きで邪魔をしそうな弟のアイルは生徒会長に推すことで多忙にし学校から離れられないようにした。


 アイネはというともう過去のフィオンに思い残すことはなかったので過去は過去、今は今というふうに割り切っていた。


 そのためフィオンに対する愛情もリセットされたとばかりに薄かった。けれどアイネも結婚適齢期をやや過ぎてきており、家の益も考えると悪い話ではなかったので承諾したのだった。


 今世でもフィオンはアイネに無償に尽くした。人よりずっとスローペースなアイネにはそれがとても有難たかった。


 そこに燃えるような恋愛感情はない。

 

 けれど、感謝の気持ちは次第に家族として、夫婦としての情を育んでいくだろう。

 

 1人では気が進まなかった社交にも夫婦2人での参加が増えると、フィオンが口数の少ないアイネをカバーしてくれるため以前ほどの居心地の悪さはなくなった。


 美人で家柄も完璧な妻を手に入れたフィオンにやっかみも多かったが、堂々と自慢する上、その度にアイネが愛らしくはにかむのでなんだか微笑ましいカップルとして受け入れられているのだった。


 そして結婚して盤石な基盤を得たフィオンは父親の事業を一部引き継ぎ、勢力的に仕事をこなすのだった。


 なかなか全てが順調だった。



「明日の夕方に帰るって聞いたけど…」


「アイネに会いたくて、ちょっと無理して帰ってきたんだ」


「そう」


 アイネの反応が薄くてもフィオンは特に気にしない。


「はい、お土産」


 フィオンは国中を商談のために駆け巡るので、1人待つアイネの為、まめに土産を買ってきてくれるのであった。


 毎回予想がつかないので密やかな楽しみだ。


 今まで受け取ったのは薔薇の香りの入浴剤から限定のチョコレート、ドレス、ストール、靴…時には自ら掘って見つけた宝石の指輪にネックレス。

 そのどれもがアイネをよりいっそう引き立てる。フィオンはセンスのいい男だった。


「ありがとう。……なにかしら?リコの実?」


 綺麗に包装された包みの中に入っていたのは木の実だった。フィオンの突拍子もない性格にも耐性ができているはずのアイネだったが、これがお土産とは理由が見当たらない。


「うん、好きだよね!」


 フィオンにはこれがアイネの喜ぶものだと思っているらしい。これを邸宅に遊びにくる小鳥にあげて楽しんで欲しいということか。


「えーと……ええ、そうね。 好きだった気がするわ。 うれしいうれしい」


 アイネの形だけの感謝もフィオンはにこにこと笑って喜ぶ。


「よかった、また買ってくるね」


 とてもご機嫌なので特にいらないとは言いにくかった。


「アイネはもう夜ご飯食べた?」


「いいえ、これからなの」


「よかった!一緒に食べよう。 今回はユークレースの方に行ってきたんだけどさ、そこも新婚で、色々楽しい話を聞いたからアイネにも教えたくて」


「ユークレース? 行ったことないわ」


「それなら今度行こう!」


 アイネとの会話を楽しみながらもフィオンは執事に食事の用意を指示する。

 アイネは食事用の衣服を整えるため、フィオンも仕事着から着替える必要があるためいったん別れた。


 フィオンのうきうきとした軽快な足音を聞きながら、実家から連れてきた侍女のネリーを連れてアイネも自室へ向かう。

 

 フィオンのお土産話を聞くのは結婚してからできた新たな楽しみだった。


 ネリーはアイネの楽しそうな横顔を見て嬉しくなる。


 変わった馴れ初めであれよあれよと言う間に結婚まで進んだアイネ。周囲にはフィオンの独断専行にしか見えなかった。アイネの気持ちがいまいちわからない周囲はこれでいいのかと最後までやきもきしていた。

 けれど最近の主人は以前よりも楽しそうに毎日を過ごしている。ネリーは内心ほっとしているのだった。



 ✳︎ ✳︎ ✳︎



「リコの実、さっそく撒いてみようかしら…」


「では準備をいたしますね」


 お土産のリコの実をそのままにするのも悪いので、翌日フィオンが仕事で出かけているのを見送ってから庭先に撒くことにした。小鳥が集まるので確かに楽しかった。


 そして自分の周りに集まる小鳥たちを眺めていると何だか既視感を覚える。


「わたしまだ何かを忘れているのかしら……」


 そしてアイネはその晩、夢を見た。



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