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13.眼鏡復活計画! からの、お忍びショッピングフラグ!?

「あの学生は?」


 放課後、ロジェ=ギルマンが自由時間を楽しむ学生の中から、適当に一人選んでわたくしに問いかけてくる。わたくしは指定された学生にじっと目を懲らした。


「水魔法……いえ、それを利用して植物学……うーん、薬学の方かな? その辺りに造詣が深いかと思われます」

「へえ。根拠は?」

「本人の基本属性は、青なので水です。ただ、手の辺りに……黄土って言えばいいんですかね、残滓が見えていて。あれは確か、温室で見たことがある気がするのですよね。マンドラゴラの育成土が、あんな色をまとっていたような……」

「はあん、マンドラゴラは基本的に素材用の植物だもんな。土いじりから植物、種類から薬学……皇子サマ、合ってそうか?」

「名簿には、薬学部員って記載があったかな。得意な魔法属性も水で合っているよ」

「すげー、また当てたじゃん! 本当におもしれえなあ、その目」


 今何をしていたのかといえば、精霊眼とやらの実験のようなものだ。


 皇子殿下曰く、わたくしの目には他の人には見えない魔力の流れを見る力があるらしい。

 だから殿下のこともまぶしく見えるのだろうとか。

 極めると精霊に接触して契約することも可能なのですって。


 いやいやそんな……と思っていたら、試しにその辺の学生を見て、光か煙を纏っていないかと尋ねられ……あの人は何色、この人は何色、とか答えていったら、横でやりとりを見守っていたロジェがさらに質問のバリエーションを増やした。


 ということで、最終的に見える色からその学生がどんな魔法使いか推理する、クイズ大会のようになっていたのだ。


 ちなみに答え合わせ係は殿下だけど、彼曰く独自に入手できた学生名簿の情報とやらと付き合わせているらしい。

 どこにそんなものあるのだろう、なんでそんなもの持ってるんだろう、というかもしかしなくても当たり前のように顔と名前と基本情報を丸暗記してますね? などという突っ込みは、心の中でのみしておくことにする。


 ロジェはわたくしが当てると素直に賞賛し、外すと露骨に残念なものを見る目を向けてくるので、我ながらこの短時間で随分観察力の精度が上がったように感じる。

 というか、わたくし自身もこんな特技が自分に備わっているなんて知らなかった。見て考えてその通りだと答え合わせが来ると、非常に大きな達成感を得られる。


 こめかみを軽く揉んでいると、殿下が膝の上に広げていた本をぱたんと閉じた。


「大丈夫、シャンナ? 目が痛い?」

「いえ……少し頭が重いかな? と」

「見過ぎたんだね。今日はこのぐらいにしておいた方がよさそうかな」


 殿下曰く、精霊眼の持ち主は常人より視覚情報が多いため、目とか頭とかがその分疲れやすいらしい。面白がって人の色を見過ぎたりすれば、翌日激しい頭痛にさいなまれるということもあるのだとか。


 今日はもうクイズができないと聞き、ロジェがため息を吐く。


「ちぇー、もう終わりかあ」

「きみも魔法訓練の時、一日に使える魔法の量は限られているでしょう? 同じことだよ」

「まあ、なんとなくイメージはしやすいけど。にしてもそんな面白いもん、なんで今まで無自覚だったんだ? どんくさいのか?」


 ロジェくんは本当に、なんというかずかずか人の領分に踏み入ってくる子ですねえ……。


 何故でしょう、貴族のみなさま相手だと「はいはいそうですね」と思うしかないわたくしの短所が、ロジェ=ギルマンに言われると、だんだん「そんなことないですよ、わたくしもうちょっとぐらいはできる子だもん!」と返したくなってくる不思議。


「そうですねえ……眼鏡をかけていたせいかな? って気がします」

「ああ、あのダッさい瓶底ね……」

「ちょっと? 前も思いましたけどそこまで言うことなくないですか?」

「だって本当にひっでーデザインだったじゃん。台無しだぜ? 普通にいい顔してるのに、あんなもんで覆うなんてさ」


 こやつめ、褒めてるんだか貶してるんだかわかりにくい言い方を……。


「あんた目力あるし、視線感じるとそわっとはするから、お貴族サマ達はその辺敏感だったのかもしれねーけど。にしたって、あの眼鏡はないぜ?」

「ないですか」

「ないだろ」

「そんなに……」


 わたくしが目を遠くしていると、ふむ、と殿下が顎に指を当てて考え事をしている。


「シャンナは元々、目元を隠すために眼鏡をしていたのだっけ」

「はい」

「もしかするとその眼鏡に、精霊眼を抑制する働きもあったのかもね。だから今まで、魔力が目に見える実感がなかったのかも」


 なるほど、とわたくしは納得します。

 外部からわたくしの目が見えないようにするための矯正器具でしたが、同時にわたくしの目から外部の方々を守ってもいたのかもしれない、と。


「……やっぱり、買いに行こうかなあ。次の眼鏡……」


 ふっとつぶやきがこぼれる。


 瓶底眼鏡は度が入っていたわけではないから、裸眼で過ごしても不自由はない。


 ただ、魔力の流れ? とやらがはっきり見えるようになった結果か、わたくしは今、なんとなく常にまぶしい環境に置かれているような状態なのだ。


 日中はまだそこまで気にならないけど、クイズのために目を懲らせば頭は重くなるし、最近寝る前はなんとなく肩が凝っている。


 普段は眼鏡をしていて、必要な時だけ外して見る――ということができるのなら、より快適に過ごせるのかな、と思った。


「魔道具……になるのかね、そうすると。なんか聞いた感じオーダーメイドの高い奴になりそうな気もするけど。商店街に取り扱える店、あったかねえ」

「わたくし、そんなに高価なものは買えませんよ。普通のレンズでいいです」

「効くのか? 普通ので」

「さあ……? 少なくとも、にらむなとは言われなくなるかなと」

「ふーん。もったいねー気もするけどなあ。やっかみだろ? 勝手に言わせときゃいいのに」

「いやいや、ご冗談を……」


 ロジェと話していると、にわかに殿下がそわそわし出す。


「シャンナ。街に買い物に行くの?」

「あ、はい。そうです。南通りの方に学生向けのお店が集まっているので。今度の休日にでも――」

「ぼくも行く!」


 あ。

 ……これはわたくしが悪いですね。庶民文化に多大なるご関心をお持ちの殿下ですもの、そりゃあ行くって言いますよね。眼鏡買いに行きますなんて、普通は誰もついてこないから、油断していた……。


「はあ? あのなあ、学園内うろつきたいとは話がちげーんだぞ!?」


 ロジェが顔をしかめてくどくど言おうとしていたけど、わたくしは我が身の迂闊さを反省しつつ、そっと殿下込みのお出かけ計画を頭の中で練りだした。


 だってもう知ってるんです。こうなった時の殿下はものすごく手強くて、どんなに渋ろうがこちらが折れる結果になるのだと……。

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