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終末のメスガキ  作者: 終乃スェーシャ(N号)
四章:血と幸せ
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罰の刃

「師匠ッッ!!」


 レーヴェが叫んだ。怒気に引き攣る頬。血走った黒い瞳で敵を睨み据え、地面が砕けるほどの力で蹴り込んで加速した。一瞬にして疾駆し、長い刀身で斬り上げる。


 直線的な一撃。エルクスは躱そうと横へ跳んだが、レーヴェは身を翻して斬撃を曲げ追尾した。


「何が罪の重さなの!? 師匠はわたし達を助けた! ルドヴィコのバカだって!! なのに、あいつが勝手に暴れまわってるだけなのに!」


 防御を強いる。双刃が苛烈な金属音を弾き鳴らし斬撃を受け止めようが関係ない。刃全体に込めた膂力、踏み込みの間合いがエルクスの全身を浮かし、上方へ吹き飛ばす。


「ッ――――!?」


 肺から押され空気が零れ出る。衝撃が下水道全体を響かせ揺らし、塵とコンクリートの破片が舞った。エルクスは全身を殴打し、体表に突き刺さった無数の石片によって出血しながらもすぐに構え直す。


「ッ…………。そうか。【緋刃】、貴方は可愛い弟子には何も言わなかったのですね。苦しませることがわかっていたから。そこの怪物にも何も語らなかったのですね。貴方を励まそうと、罪から逃がそうとしてしまうから」


 エストは何も答えなかった。沈黙したまま敵の異界道具と、体に纏わり付く呪いを一瞥する。


 ……手足を動かすことはできた。黒い鎖は物理的な拘束力を持っていない。ただ言葉には出来ない何かが胸の奥を深く抉る。思考を無力感で満たそうとする。精神的な虚脱感。


「――問題はない」


「常人ならそれだけでおかしくなるんですがね」


 エルクスを睨み据えたまま、エストは【緋色の剣】を落とさないよう強く握り直した。手足を動かすたびに鎖が揺れる。


「……レーヴェ、助けられたな」


「師匠が褒めるなんて久々ですよ。……師匠、一緒に戦いましょう。わたし達は師匠の間合いは分かっています。邪魔にはならないはずです。こいつの異界道具は特別かもしれないけど、わたし達より身体能力も実戦経験も下です」


 レーヴェは淡々と断言し、エルクスへ刃を向ける。


 ――わたし『達』、そこに自分が含まれているか一瞬不安になりながら、シルヴィも【緋の糸】を自身のナイフへ纏い付かせ臨戦態勢を保つ。


「女の子達がぁ……こーんなに、エストのために身も心も尽くしてるんだから甘えちゃえ♡ 戦えって言ってよ。……守られるよりずーっと嬉しいよ?」


 人ならざる虹彩の髪が煌めき、漂うように靡く。エストはガスマスクの奥で掠れた声を漏らすと、ゆっくりと首を横に降って腕を伸ばし制止した。


「……敵が奴一人とは限らない。シグナルジャマーが破壊される可能性も無くしておきたい」


 本心と胸を締め付ける何かがその言葉を言わせた。


「敵が一人じゃないかもって言うならそれこそ協力して――……ッ!」


 シルヴィは声を荒らげたが気圧されるように息を呑んで言葉が途切れた。


「……同じ過ちを繰り返したくはない」


 【緋色の剣】の刀身がより強く赤熱として光輝する。近づくだけで皮膚を蝕む熱に、シルヴィは目を隠し退いた。刃が宙を裂き、猛火が迸る。


「彼女にそうして接することができるなら……どうしてアーヴェにそうしてあげられなかったんですか!? 沈黙したまま、貴方は何も答えなかった!! あなたが作り出した問題なのに、【緋刃】の言葉が必要だったのに!」


 エストは沈黙を貫き通した。黒い鎖が心身を蝕み、諦めにも近い無力感を広げていくのを、戒めるように刃は燃え上がる。熱のこもった呼気がガスマスクから零れ出る。


「あのルドヴィコ・アーヴェは生きている。貴方のためだけに生き続けているのに、貴方はこうして逃げようとする」


「……」


 エルクスの問いかけを拒絶するように斬撃は苛烈さを増した。鋭く、ただ鋭く研ぎ澄まされた美しい軌跡は力を帯びて、死体を傷つけないという優しさを削ぎ落とす。


「どれだけ貴方が強く……異界道具が恐ろしいものでも罪の意識から逃げることはできないんです」


「…………」


 追従する火花の輪舞。エルクスは辛うじていなした。刃を押さえ止めようとも消えることのない熱が空気を燃やす。気道を覆う。躊躇の消えていく【緋刃】を前にし、儚く凶暴な笑みを保ち続けた。


「貴方は現実と向き合わず、苛まれ罰を受けることを望んでいる。……自分はそれが許せない。こんな便利屋にいいようにしてやられるなら、【緋刃】はとっくに死んでいるんです。――罰の痛みを知るがいい。【八咫白鴉】」


 次の瞬間、エストの身体を無数の白い刃が内側から突き破った。飛び散る鮮血が赤く刃を染め上げ、びちゃびちゃと汚水に広がっていく。


 罪悪感が身を引き裂く。抗おうとする意思を奪う。エストは俯いたまま膝をついた。痛みはない。ただ無力感に打ちひしがれるように力が抜けていった。



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