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終末のメスガキ  作者: 終乃スェーシャ(N号)
四章:血と幸せ
33/60

怪物達

表紙がつきました! プロローグのほうにイラストを貼っています。神絵なのでぜひ見てくださるとうれしいです!

 四章:血と幸せ



 ゆっくりと、ルドヴィコは目を開けた。朦朧とする意識。曖昧な視界。ぼんやりと熱が身体を包む。……アドレナリン、セロトニン、ドーパミン。科学的な多幸感が全てを有耶無耶にするみたいに身体に巡る。


 ――気持ち悪い。


「…………ッ、これが幸福剤の作用ですか。レーヴェには……少し悪い事をしましたね」


 だが知っている。こんなものよりも、師匠との思い出が一番の幸福だ。辛いこともあった。意を決して想いを告げたとき、師匠は《沈黙を貫いた》。《何も言ってくれなかった》。


 それでも満たされている。師匠と本気で剣を交えたときのこと。ガスマスクに覆われていた表情が見えた気がした。それに、今回も。より一層師匠のことが愛おしく思えた。


 ――手加減してくれた。殺したくないと思ってくれている。こんな想いを向けられているのは僕だけに違いない。そんな確信がどうしようもない幸福をズタズタに引き裂いて、斬り刻んで。


「ハハ……! ハハハハハハ!!」


 どうしようもなく笑いが込み上げる。視界が鮮明に澄み渡る。そのとき初めて、この病室のような真っ白な部屋に自分以外の誰かがいることに気づけた。


「……嗚呼、見苦しいところを見せてしまったじゃあないか。いるなら、いると言ってくれればよかったというのに」


 ふらつきながらもすぐに立ち上がった。視界に映る長い髪が無数の光を反射するように虹彩に煌めく。青、赤、白。あの少女の髪よりも鮮やかに色が変わり続ける。


 その女は穏やかな微笑んでから。牙を見せ、嘲るようにルドヴィコを見下ろした。


『幸福剤の効能は打ち消しておいた。だが、貴様は怪物だな。我々の幸福を受けながら理性を保ち続けているとは』


 玲瓏とした声が幾重にも重なってノイズ掛かる。薄気味悪い音だった。


「嫌なことを言うじゃあないか。僕は人間だとも。師匠と同じさ。それより聞きたいことがあるんだ。……顔を合わせてくれたってことは、あの小娘について教えてくれるんだろう?」


 虹彩を纏うその種族は肯定するように頷いた。名刺を取り出すと指で弾き渡す。ルドヴィコは手に取って一瞥したが、ゴチャゴチャと文字が詰められていて読む気は湧かなかった。


 エスコエンドルフィア製薬の重役。そして、人間ではない種族。それだけ理解できればいいだろう。


『もう理解してしまっただろうが。我々が回収してほしかったのは同族、あの少女だ。名前はシルヴィ・ラヴィソン。彼女は不完全な肉体を気にかけ、それを治す協力をしているはずだったのが自称パパの、貴様が殺してくれたあの外道だ』


 ――人間を薬で掌握した怪物が人間を外道と呼ぶのか。


 恐怖や怒りというよりは感嘆が湧いてくる。怪物に怪物と呼ばれた男のことを思い出そうとしたが、生憎、唾をかけられたことしか思い出せない。


『あの男は、いうなれば原理主義的だろう。人食いの解体屋や、我々のような、本来この星に存在しなかった者を嫌悪し、我々の支配体制を壊そうとした。同胞を騙し、記憶を奪い、犯し、愛玩動物にまで貶め、同胞の血を利用したのだよ』


「生憎さぁ……僕は君達の支配だとか、胸糞の悪い話に賛同とか同情とか、否定とか。そういう感情と感想を抱くつもりもないんだ」


 彼女は素直な苛立ちを滲ませた。軽蔑の眼差しがジッと見下ろす。嗚呼、彼らの種族は強いのだろう。今まで何かを穢されたこともない高位な存在だったのだろう。


 だから許せない。人間以上に純粋に怒る。それを隠そうともしない。怪物への理解が進むと僅かに緊張していた筋肉からゆっくりと力が抜けた。


「便利屋にとってそうした事情は些細なことなんだよ。感傷を生むからマイナスかもしれない。重要なのは君達の仲間を回収するには、人間の力でどうすればいい? それに、何故人間ごときの力を借りるんだい?」


『それを明かすことは我々にとって不利益である。しかし人間、我々は存分に手を貸そう。何せ貴様は異端だ。幸福剤の原液を受けながら意思を自力で保ち続けるなど、ありえないことなのだよ』


「御託はいいさ。手を貸すって、具体的に何をしてくれるんだい?」


 ルドヴィコは得体のしれないものを手渡された。ぶよぶよとした不快感。手のひらに収まるそれは路傍の石ころのように変哲のない形をしていながら、彼女達の髪に似ている。いくつもの虹彩を放ち、光を反射してサイケデリックに光輝し続けていた。


「……これ、なに?」


 ルドヴィコは不快感に顔をしかめる。【緋色の剣】や【白影】にも似た異質さ。異界……それも彼らからもたらされた何かであることだけは理解できた。


『我々と同じ存在になるための、貴様らの表現を使うならば異界道具だ。食べるだけでいい。それだけで我々に等しい力を得る』


「はは……。使わないまま終わりたいものだね」


 冷ややかな笑いが出た。


 異界の怪物に成り果てる道具? 使えたものか。


「それじゃあ、善処はするとも。仕事だからね」


 ドクン、ドクンと。酩酊していた意識が醒めてくる。


 師匠と早くまた会いたい。


「さぁ、わたしたちは手を繋いで? 熱から伝うのさ。大好きさって♪」


 燃えるような熱が欲しくて無い腕が疼き続ける。


 歌姫の唄を口ずさみながら部屋に出た。一番までしか聞かない。


 二番までの間奏が長くて我慢できないから。そこばかりループさせるんだ。


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