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1.役立たずの荷物持ち、追放される

気が向いたタイミングで更新していくつもりです。

よろしくお願いします。

「リュート……君には今、この時でこのパーティを抜けてもらう」


 ついにこの時が来たか、と俺は思った。

 中央の大迷宮、その50層フロアボス、レッドドラゴンの攻略を終え、一息ついた所。

 俺は突然パーティリーダーのアレンからクビを言い渡された。


「一応、理由を聞いてもいいか?」


「ああ……次回以降は深層の探索になる。そこに戦えない『荷物持ち(ポーター)』は連れて行けない」


 そう、俺は『冒険者』ではなく、『荷物持ち』としてこのパーティ、《銀色の光》へ参加している。

 俺が取得している職業(ジョブ)商人系職業(バックパッカー)でこそないものの、非常に特殊な職業であり、所持している荷物の重量をある程度まで無視する事ができたからだ。


「その、一度でいい、深層にチャレンジさせてもらう事はできないか?役に立たないと思ったら見捨てて貰っても構わない」


 俺は無理だと分かっていながら、アレンへと提案するが、アレンは首を横に振る。


「すまないが、『荷物持ち』が倒れればその場からアイテムを持ち帰る手段がなくなり、パーティにとって大きな損失になる」


「そう……か」


「それに、中層まで攻略した荷物持ちをむざむざ死なせたとなればギルドの評価も落ちる。悪いけど、連れていくことはできない」


 アレンのいう事が正しい事は俺にも理解できる。

 戦闘力がない『荷物持ち』が凶悪なモンスターがひしめく深層に行くなんてただの自殺行為だ。

 いや、むしろ中層までであっても戦闘力のない『荷物持ち』をパーティに加えているなんてのは、ごく一部の、使い捨てを前提としたパーティに限られる話だ。


「でも、『荷物持ち』はどのみち必要だろう、戦闘ができる奴が加入するまででもいい、一緒に連れて行ってもらうわけには――」


「リュート、ダメだ。許可できない」


 未練がましく縋りつこうとした俺の言葉を遮り、アレンは再度首を振る。


「見てくれ、ギルは戦えないお前を庇って負傷したんだ」


 アレンは左腕をだらん、と力なく垂れ下げたままで、得物のハルバードを杖替わりに立っているギルを指さす。

 治療のため鎧を外したその腕は大きく腫れあがっている。

 それを見て、俺はアレンの言いたい事を理解し、息をのむ。

 ギルは俺を庇ってドラゴンの一撃を真正面から受け止めなければならず、俺の命と引き換えに負傷したといっても過言ではなかった。


「ギル……その、悪い、俺のせいで」


「ハッ、こいつは俺の力が足りなかった結果だ。でもな、『重戦士』としての仕事といっても本来は後衛のヒョロい奴以外のヘイトは無視がセオリーだ。てめェがトロくなけりゃそもそも守る必要もねェんだがな」


 頭を下げる俺にギルはぶっきらぼうにそう言い、荷物から添え木になるような素材と布を片手で取り出す。

 まだ少数の下級ポーションは残っていたが、下級ポーションで骨折は治せない。治療には中級以上の治癒魔術かポーションが必要だ。


「おい、イリス、手当してくれ。適当に固定するだけでいい」


「ごめんなさい、ギル……魔力が回復次第、すぐに治癒魔術をかけますから……」


「必要ねェよ、どうせ後はポータルで帰るだけだろ。スッカスカのお前の回復待つより治療院行くわ」


 ヒーラーのイリスも満身創痍で、ほとんど魔力枯渇の状態ながらギルの手当をしていく。

 彼女の魔力が枯渇したのも、戦えない俺への補助のために決して少なくない魔力を回したからだ。


「……私も、リュートさんがこれ以上、このパーティで探索を行うのは賛成できません」


 ギルの腕と添え木を固定する布をきつく結びながら、俺に視線を向ける事もなく、イリスもはっきりと自分の意見を告げる。


「リュートさんのレベルでは、多分、深層では即死のリスクが大きすぎます……それを知って、なお死にに行くのは、治癒術士として、なにより神に使える者として見過ごすことはできません」


 役立たずの俺にも優しかったイリスにまで拒絶され、本当に終わったんだな、と実感する。

 胸が苦しい、このパーティは役立たずの俺を拾ってくれて、ここまで連れて来てくれた。

 本当にいい奴らだと分かっているから、本気で拒絶していることが分かってしまう。


「なぁ、アレン……次の荷物持ちはもう決まったのか?」


「ああ、何故かはわからないけど、Sランクの『空間収納(アイテムボックス)』持ちの魔術師、あの『黄昏の魔女』がパーティへの参加を希望しているらしいんだ」


 高レベルの『空間収納』は収納した物体に対しての時間の停止を持ち、また、容量もとてつもなく大きいという。

 であれば荷物持ちとしても俺の完全な上位互換のような存在になるだろう。

 Sランクの魔術師という話だし、このパーティでアタッカーとしても活躍できるはずだ。


「そっか、じゃあ俺はもう、本当にいらないんだな」


 もう大分前から自分の力不足は感じていた。

 だからいつかはこうなると覚悟はしていたものの、いざその場面を迎えると心が沈む。


「せめて、宿まで荷物を運ばせてくれ、それなりに長い付き合いだし、それくらいは良いだろ?」


 せめて深層入りした仲間を祝福しようと、作り笑いを浮かべる。


「ダメだ、言っただろう。今、この時でお別れだ」


 アレンはそんな俺の提案をきっぱりと断る。


「つってもこの荷物はどうするんだよ、俺が運ばないと。ギルも怪我してるわけだし」


 俺の背中にある、馬鹿みたいに膨らんだリュックを揺らして見せる。

 この中には、長期間の探索に必要な道具と、この探索で得られたすべてが入っている。


「だから、それはリュート、君が持って行ってくれ。僕たちはこいつだけで十分だよ」


 背後のレッドドラゴンの死体をちらり、と見ながらアレンが信じられないことを言い出す。


「な!?」


「どうせ消耗品はほぼ使い切ってるし、戦利品ならフロアボスの素材と討伐報酬だけで十分だ」


 フロアボスの素材は運ぶ必要がない。ギルドに連絡すれば、帰還用の転送ポータルで素材保管庫に職員の手で運びこまれる手はずになっているからだ。


「『荷物持ち』にそんな報酬を出す奴があるか!それに荷物の中には今後も探索で使う道具もあるだろ!」


 俺が運んでいた荷物には道中で手に入れた魔物のドロップはもちろん、ダンジョン内でしか取れない貴重な資源や、テントやカンテラ、ロープなどの探索の必需品も含まれている。

 それらははっきり言って、『荷物持ち』に渡していいような金額では収まらない価値がある。


「深層冒険者になった記念に、新しいのに買い替えるつもりだったから、気にしなくていいよ」


 アレンはそういうが、 それらを買い替えるとなると、かなりの金額が必要になるのは明らかだ。


「それだけじゃない、ギルの装備だっていくつかあるだろ、せめてそれだけでも」


 ボス戦でこそ高威力のハルバードを使うギルだが、むしろ雑魚戦相手では小回りが利く装備を好んで使っていた。

 そのためギルのサブウェポンは量産品ではなく、れっきとした名匠の作である業物だ。

 それに魔物のドロップを含めれば、ドラゴンの素材は確かに高額だが、俺の取り分は明らかにその報酬を大きく超えている。


「そいつもくれてやるよ、餞別だ。まぁ古いし処分すんのも手間だから丁度良かったぜ。とっとと持っていけ」


 ギルは怪我していない方の腕でしっしっ、と俺へと手を払う。

 そんな訳がない。ギルは装備の手入れを欠かしたことはないし、使うのはどれも一流の武器だった。 


「道具も装備も金も、必要だろう、これから……リュートが『荷物持ち』じゃなくて、『冒険者』になるにはさ」


 アレンの言葉に、俺はバッと顔を上げる。

 アレン達に語り、そして自分自身ではどこか諦めていた冒険者になるという夢。

 仲間達の優しさに、声が震える。俺は溢れる涙をこらえるので精一杯で、顔を上げる事ができない。

 俺は涙を手の甲でぬぐい、気合を入れる。


「ありがとう、アレン、ギル、イリス。俺は、いつか必ずお前たちに追いつく。いや、きっと追い越して見せる!俺は、大迷宮を完全攻略した初めての『冒険者』になってやる!」


 そう宣言する俺に、かつての仲間達は笑顔を浮かべながら見送る。


「ああ、急げよ。じゃねえと俺らが先に攻略しちまうぜ?」


「リュートさん、また会える日を楽しみに待っていますからね!」


 そして俺は冒険者になる、という強い決意をもって《銀色の光》から追放されたのだった。





 ――後に、この決意のせいでとんでもない目に会う事も知らずに。

多分真面目なのは最初だけです

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