作戦会議
その頃、とある軍事基地の一室では会議が行われていた。
そこは高級感のある内装の、やや広めの部屋。重厚感のある大きなテーブルを囲うのは、三人の男と一人の女だ。計四人の軍人は皆、衣服か装飾に振り子時計を模したロゴを施されている。どうやらこのロゴは、彼らのシンボルマークらしい。この場を取り仕切るのは、よく鍛え上げられた肉体をした禿げ頭の男性である。
「我々はすぐ目の前に、ルナステラ国との戦争を控えている。しかしルナステラは、ハルマゲドンの書を使いアルケミアを滅ぼすつもりでいるらしい。こうなれば我々も、切り札を切る他ないだろう」
彼はヴェルファ・イアルディス――アルケミア軍の元帥だ。最終的な決定権は彼にありそうなものだが、それでも国の未来が第一であることに変わりはない。当然、ヴェルファの意見に反対する者もいる。
長髪の男が発言した。
「祖国の未来を、祖国に仇なした『あの男』に託すのか? 俺たちは、もう二度とあの悲劇を繰り返してはならない。国を背負う者は、愛国者でなければならない」
彼はアルケミア軍の大将――フォルクス・ワーゲンハイト。この男はアルケミア軍屈指の愛国者であり、彼がアルケミア軍のシンボルマークを縫い付けているのはコートの右胸だ。フォルクスの表情は乏しく、切れ長の眼差しもどことなく冷たいものだ。しかしその胸に宿る想いは、人一倍熱いと言っても過言ではない。
そんな彼に続き、ラフな格好をした褐色肌の男もヴェルファに反対する。
「俺様もあのガキの封印は解くべきじゃないと思うぜ。先人たちはアルケミアを守るため、命懸けでアイツを封印したんだ。国を背負う軍人ともあろうものが、先人の勇姿を無碍にする気か?」
男は薄紅色のはねた髪をしており、腰には黄色い上着を巻いている。だが、その不真面目そうな風貌に反し、彼は祖国のことを真剣に考えている。男の名はランボル・ギーニザルト――アルケミア軍の少将である。
残すところは紅一点だ。彼女が反対すれば、多数決によりヴェルファの案は取り下げられることとなる。彼女の意見は――――
「私は元帥閣下の案に賛成です」
――――ヴェルファに賛同するものであった。
メル・セデスフォード。それが中将である彼女の名だ。メルは黒いローブと眼鏡を着用した、一見冴えない雰囲気の女性である。しかし彼女は暦とした軍人だ。彼女のまっすぐな瞳は、妙な威圧感を放っていた。
ランボルはメルの説得を試みる。
「おいおい……メルちゃんはあの事件を知らないのかい? 『あの男』は、たった一人でアルケミアを壊滅寸前まで追いやったんだぜ? 魔導書なんざ一切使わず……アイツ自身の特殊魔法だけでだ!」
「いつまで過去に囚われるつもりですか? 我々アルケミア軍のロゴの意味を今一度説明しましょうか?」
「時間が前にしか進まないのと同様、我々も前進あるのみ。退くことは許されない……だろ?」
「それを理解しているのなら、過去へのこだわりなど捨てるべきです。我々はこの世から消えた先人の背を追うのではなく、先人の屍を吸い尽くした土を踏みながら生きるべきです」
……この調子では、説得など到底通用しないだろう。ランボルは肩を降ろしつつ、深いため息をつく。
こうして、四人の軍人は二つの派閥に分かれた。
相手を完全に説き伏せることは、双方にとって難しいことである。そこで、フォルクスは妥協案を提示する。
「決断を下すにはまだ早すぎる……もう少し様子を見るのはどうだ? 例えば害獣の駆除のために外来種を持ち込むことにより、その外来種が生態系を乱す新たな害獣となることも珍しくはないだろう? リスクを伴う案を取り扱う時は、慎重になりすぎるくらいでちょうどいいのだ」
なお、メルは彼の案に納得がいかない様子だ。
「今は一刻を争う事態です! そんな悠長なことを宣っている場合ではありません! 戦争の勝敗が、今後の社会情勢にどれほどの影響を及ぼすと思っているのですか?」
時間の感じ方は千差万別だ。迫りくる未来は同じでも、残された時間を長いと思う者もいればそうでない者もいる。ヴェルファは両腕を組み、少しばかり考えた。そして数十秒間の沈黙の後、彼はフォルクスの案に同意を示した。
「……『あの男』を生み出した科学者は、他にも様々な魔術師を世に送り出したはずだ。祖国を守り抜ける新たな人材の登場に賭け、もう少しだけ案を保留する」
結局、この会議によって導き出された答えは「保留」であった。ルナステラ国との戦争の日は、刻一刻と近づいている。




