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頂点捕食者

 アイディアルは口から青白い魔力のビームを吐き、もはや完全に壊滅してしまったウィザドの土地を削り取っていく。その巨体から電流のように放たれる魔力は、地面を通じて遠方まで伝達していく。時に、魔力は地面から槍を生やしては歯向かう者たちを襲い、液体のようにそこらかしこにある物質に浸透したりもする。アイディアルの魔力は属性を持たず、それゆえに一つの性質には縛られないようだ。


 空は雷雨に包まれた。


 アルケミア中に振り撒かれる光の弾が、次々と地形を破壊していく。山も、街も、命も、平等かつ無慈悲に破壊されていく。人々は我先にと逃げ惑い、逃げ遅れた者たちは成す術もなく無属性の魔力に焼き払われる。


 人々はあの悲劇を思い出した。

「悪夢だ……ディヴェルトはやっぱり人類の敵なんだ!」

「一体何が起きているの! 誰か説明して!」

「もう終わりだ……今度こそ、アルケミアは滅びるんだ!」

 二十年前、この国で何が起きたのか。それを知らない者はいない。ディヴェルトという存在は、アルケミアの歴史に焼き付いているのだ。不可逆性を克服し、生命を作りだす技術を生み出し、祖国を滅亡寸前まで追い詰めた――そんな強者が語り継がれないはずもない。


 持ちうる限りの力をもってして、つららたちはアイディアルへの攻撃を試みる。しかし究極の頂点捕食者には、並大抵の攻撃は通用しない。凍らされても、毒を浴びせられても、持ち前の体温や免疫力によって全てを無力化していく。最強の金属で出来たナイフによる斬撃を受けても、熱い氷による火傷を負っても、この竜は驚異的な再生能力によって瞬時に肉体を修復する。これらの現象は魔法ではなく、アイディアルの肉体そのものの強さによるものである。


 つららは怪訝そうに首を傾げた。

「妙だねぇ、コイツ。見た目は竜のようだけど……どうやら体の構造は爬虫類のそれではなさそうだねぇ」

 曰く、眼前の怪獣が爬虫類に非ざる生物である可能性が浮上しているとのことだ。エドには彼女の言っていることが理解できた。

「そうだね。本来、爬虫類は変温動物のはずだ。それが氷漬けにされた直後に、自らの体温をもってして氷を溶かした。アイディアルはおそらく、自らの魔力で熱を発生させることで、体温を調整しているんじゃないかな」

「……いや。アレはあのディヴェルトが、自らの命を捧げてまで作り上げた代物だ。もしかしたら、哺乳類だとか爬虫類だとか、アレはそういう『既存のカテゴリー』に分類されるような生物では……ないのかも知れないね」

「どうだろうね。現時点では、ユートピアの書を完全に解読できた人間はいない。ディヴェルトが亡くなった今、アレの正体を知る術は完全に絶たれた。いくら寧々(ねね)でも、死んだ人間の記憶までは把握できないだろうしさ」

 真相はブラックボックスの中だ。彼らはそれからもアイディアルと戦い続けたが、勝機はまるで見えてこない。相手がディヴェルトであれば、まだ不意打ちで彼を仕留める算段は辛うじて成り立っていた。しかし相手は魔法ではなく、体に備わった機能として驚異的な再生能力を誇っている化け物だ。意志の有無に関係なく、アイディアルの肉体は自動的に修復される。


 しばらくして、国中から優秀な魔術師たちが駆け付けた。五十人ほどの軍勢が力を合わせ、様々な魔法を駆使して究極の頂点捕食者を倒そうとした。統率の取れていた彼らは決して烏合の衆ではなかったが、全員の力を合わせてもなおアイディアルにかすり傷を負わせるのが限界であった。そればかりか、彼らは一方的に追い込まれているも同然だ。魔術師たちは眼前の化け物の吐く青白い光に焼かれ、次々と強風に吹かれた砂山のように消し炭にされていった。このままではアルケミアが滅びるのも時間の問題だ。この化け物が世界を股にかけようものならば、全地上の命は一週間も経たないうちに根絶されてしまうであろう。



 そんな中、国の権力者たちはある決断を下していた。



 ウィザドから遠く離れた場所にて、権力者たちを乗せた大型のヘリコプターが空を駆け回っている。彼らにはもう、手段を選んでいる余裕など残されていない。彼らが囲っている水晶には、瓦礫の山の上で暴れている巨大な白い竜の姿が映されている。どうやら権力者たちは、この水晶を使ってつららたちの戦いを眺めていたようだ。

「……元々、アルケミア軍がディヴェルトの封印を解いたのは、ハルマゲドンの書に対抗するためだった。しかし皮肉にも、その魔導書は今、現状を解決し得る唯一の手段となってしまった」

「やむを得ない……これも人類のためだ」

「犠牲なくして、平和は成り立たぬ!」

 その場に異論を唱える者はいなかった。アルケミアはいよいよ、灼熱の炎に包まれることとなる。

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