仲間というもの
それからもディヴェルトとの攻防は続いた。つららとエドは様々な戦法を試していくが、彼らの勝機は極めて薄いと言える。二人は紫色の魔力の弾から己の身を守り続けているが、そんな彼らがタンパク質の粉末と化すのも時間の問題だろう。つららはもう一度、ディヴェルトとの和解を試みた。
「ディヴェルト……もうやめよう! こんなことをして何になる! 誰を守れる! 何を守れる!」
「この世界に、守るに値するものなんかない。美しい命なんか、この世のどこにも無いんだよ」
「守るに値するから守るんじゃない! 守りたいから守るんだ! 共に笑い、共に怒り、共に泣き、虹の美しさを分かち合えるような仲間が出来た時、君にもその意味がわかるはずだ!」
彼女の脳裏に、便利屋として過ごしてきた日々の記憶が蘇る。闘技場でダイナと出会い、雨上がりの虹の美しさに魅入られた日もあった。麻薬組織の調査を終え、寧々が仲間になった日もあった。ルイスとの因縁に決着をつけ、自分が幸せになれたことを噛みしめて泣いた日もあった。便利屋の三人の映った最初で最後の写真を撮った日もあれば、仲間の死に涙した日もあった。それら全ての思い出が、今の彼女の言葉を作り上げたと言っても過言ではない。
それでもディヴェルトの心は揺るがない。
「人の心は、ひとつまみの火種で憎しみの炎に包まれる。紙切れに惑わされるような脆い良心で、一体どんな友情を築けると言うんだい?」
醜い心――それが彼の知る「人間」の全てだ。彼の周囲に、竜の姿を象った紫色の魔力が三つほど出現する。魔力で出来た竜は一斉につららの方へと襲い掛かり、まるで意志を持って連携しているかのような動きで彼女を翻弄する。
「それでも! いつまでも一緒に居たい気持ちは同じだ! それが仲間だ! それが友なんだ!」
かつては独りで生きていくことを心に誓っていたつららが、今では仲間の大切さについて熱弁している。しかし彼女の攻撃では、紫の魔力を破壊することは出来ない。彼女は眼前の二体の竜による突進をかわした矢先、残りの一体に背後を取られてしまう。
――――この刹那、つららは振り向きながら死を覚悟した。
彼女が目を開くと、そこにはエドの後ろ姿があった。彼は左腕を失い、肩から血を流していた。
「危ないところだったよ。もしナイフを振っていなかったら、僕は全身に魔力を浴びて死んでいただろうね」
彼はそう言いつつ、つららの方へと目を遣った。つららは状況を呑み込めず、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をするばかりだ。
「エドくん……どうして……」
「守りたいから守ったんだよ。僕はいつまでもつららと一緒にいたいと思ったんだ。だけど僕は、つららと戦いたいとも思ってる。これを仲間と呼んで良いのかは……僕にもわからないね」
「エドくん……」
「僕はディヴェルトの血管内に自分の血液を、彼の脳の内側に自分の体液を存在させた。だけど、それもまるで通用していないみたいだ。彼を倒すには、一回の攻撃だけで命を奪う必要がありそうだね」
「仲間というものがどんなに素晴らしいか――ディヴェルトはそれを知らない。彼は、人間にしか作れない温もりというものを何も知らないんだ。どんな言葉を用いても、彼を説得することは出来ないかも知れないねぇ」
攻撃は通用しない。説得も通用しない。このままでは、二人ともこの星の養分にされてしまうだろう。そればかりか、ディヴェルトを放っておこうものならば、この世界からほぼ全ての生物が消し去られることとなる。
更地と化したウィザドに、突如巨大な魔法陣が出現する。
この地では既に、ディヴェルトが何かを仕組んでいたらしい。宝石のように美しい瞳を青く光らせつつ、彼は言う。
「時間稼ぎはもう充分だ。完全なる生命体――『アイディアル』が、じきにこの宇宙の生物を一掃するだろう」
今までの戦闘は、彼にとっては時間稼ぎに過ぎなかったようだ。辺り一帯は眩い光に呑まれ、嵐のような強風にさらされる。予期せぬ事態を前にして、つららは少しばかり取り乱している様子だ。
「一体何をした! ディヴェルト!」
「ウィザド市はこの星で最も龍脈の集中した場所だ。龍脈というのは星のエネルギーの通り道のことでね……僕はこの場所から星のエネルギーを吸い尽くしたんだよ。この世に究極の頂点捕食者をもたらすためにね」
「究極の……頂点捕食者⁉」
「この儀式を完了する条件は、術者が自らの命を捧げることだ。さあ『アイディアル』よ! 僕の命をもってして、この宇宙を正すが良い!」
直後、ウィザドは激しい爆風に包まれた。




