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共闘

 ディヴェルトは両腕を上げ、上空に巨大な魔力の球体を作りだす。

「森羅万象は醜くなければ栄えない。命、社会、金、言語、信仰など……この宇宙で繁栄してきた全てが欺瞞に満ちている。共に真実の世界を築き上げよう。僕たちは滅び、この宇宙を是正すべきだ」

 これ以上の対話は無意味だ。彼の生み出した球体から、無数の魔力の弾が放たれる。つららは瓶の中の血を注射器で採取し、自分の腕の血管に注入した。それから豪雨のように降り注ぐ魔力をかわしつつ、彼女はエドの方へと駆け寄っていく。それを目にしたエドは、彼女が自分に用があるということを察した。彼は即座に彼女の目の前に現れ、そっと首を傾げる。


 つららは襲い来る魔力を必死に避けつつ、彼に用件を伝える。

「エドくん、よく聞いて。ディヴェルトは『自分の魔力に触れたものを逆行させる魔法』を持っていて、タンパク質など相手の肉体の構成物を自然界に返してしまうんだ。これを使うと良い……何かの足しにはなるはずだよ」

「血液と注射器……だね」

「これはルイスの血さ。こいつを血管の中に注射すれば、一時的に不死身になれる」

「ありがとう。後のことは僕に任せて、君は寧々(ねね)を連れて安全な場所に避難すると良いよ」

「いいや、つららさんも戦う。ランボルさんが全財産をはたいて、つららさんに祖国の未来を託したんだから」

 その瞳には一切の迷いがない。彼女はディヴェルトと戦うことを決意した。エドは小さなため息をつき、自分の腕にルイスの血を注入する。次に彼は、自らの犯した罪について白状する。

「……実を言うと、僕はディヴェルトの復活を手伝ったんだよ。この闘争を楽しみたいがためにね」

「言いたいことは山ほどあるけど、説教は後回しだね。もしつららさんたちが共闘したら、大抵の敵は倒せると思うんだ。だけど今回の相手は、人類にとっての最大の敵だ。油断は禁物だよ」

「そうだね。だから戦うのが楽しくて仕方ないよ」

 嬉々とした顔でそう答えつつ、エドは二本のナイフから光を飛ばしては紫色の魔力の弾を狙撃していく。守りたいものが何もない彼にとって、この闘争以上に優先すべきものは何もないのだろう。


 そこでつららは考えた。

「こういう時にこそタッグを組まないと、共闘する機会を一生失うんじゃないかな? それはなんだかもったいないと思わない?」

 もっともな言い分である。最強の魔術師を相手にする時でさえ共闘しなければ、彼らが手を組む日は永遠に訪れないであろう。これが最初で最後の好機であることを強調したのは、この上ない好手であると言える。

「……わかったよ。今回は共闘だ」

 こうして二人は手を組んだ。両者ともに負け知らずであり、死線を潜り抜けてきた猛者でもある。


 つららの猛攻撃が始まる。

(あのディヴェルトを相手にするなら、本気で殺すつもりでかかるしかない。まずはVXガスで出来た氷で攻撃だ!)

 VXガスとは、人類の生み出した化学物質の中で最も強い毒性を持つ液体である。これは呼吸器のみならず、皮膚からも吸収される代物だ。そんな危険物で出来た氷に身を包まれてもなお、ディヴェルトが苦しみ始める様子はない。氷はすぐに魔力の状態に戻され、風の中へと消えていく。


 その直後、彼のすぐ後ろに現れたのはエドである。

(今だ……!)

 金色のナイフが横線を描くように勢いよく振られ、円弧型の光が放たれた。光はディヴェルトの体を腹部から切り裂き、上半身と下半身を完全に分離させた。しかし、ルイスの生み出した最高傑作は、そう簡単に打ち破れる相手ではない。二つの断片は互いを引き寄せるような挙動を見せ、それぞれの断面を正しい向きに結合させる。


 ディヴェルトの体は、何事もなかったかのように元通りになった。


 それからも激しい攻防が続いた。つららたちはまるでディヴェルトに歯が立たず、魔力の雨から身を守るだけで精一杯だ。

(四千五百度の超イオン導電体の氷……これならどうだ!)

 つららはディヴェルトを凍らせてみた。先ほどのVXガスの氷と同様、超イオン導電体の氷はすぐにただの魔力に戻されてしまう。

(今度は頭をぶった切れば、魔法を発動できないはずだね)

 エドは自分を空中に存在させ、二本のナイフから無数の光を放ち続ける。ディヴェルトは自分の身を紫色の魔力で包み込み、迫りくる光から身を守る。あの二人の力を束ねてもなお、彼に打ち勝つことは難しい。ディヴェルトは乾いた微笑みを浮かべつつ、世間を嘲笑うようなことを言った。

「社会が存在する限り、悪意の連鎖は決して途絶えない。悪意とは疫病のように伝播し、遺伝子のように受け継がれていくものだ。ゆえに美しい社会など絶対に生じ得ない。三権を行使する者も、結局は血の通った人間だ」

 彼の発言の節々には、彼自身の抱える心の闇が垣間見える。そんな彼の言葉に心を揺さぶられたのか、つららは真剣な顔つきで生唾を呑み込んだ。

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