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在り方

 ディヴェルトは徐々に反抗的になり、周囲の命令に背くようになっていった。彼の周囲では相変わらず、数多の命が弄ばれていた。全ての命は美しいなどと宣う者が、まるで何かに取り憑かれたかのように悪趣味なキメラを作り続けている。自分の意志はまるで尊重されず、生まれ持った命と魔法は国のために利用されていく。この頃、ディヴェルトはすでに我慢の限界を迎えていた。


 やがて彼は十三歳になり、人目を盗んでジェネティカ人体実験場から脱走した。


 この頃から、ディヴェルトはある一つの思想に傾倒していた。

「この宇宙に存在を許されるべき生命は一体だけだ。いかなる罪も、複数の生命の間にしか発生しない」

 否が応でも命の優劣というものを目に焼き付けられてきた彼にとって、この世に複数の命が存在することは決して好ましくなかった。彼は生計を立てるべく、様々な闘技場に姿を現した。しかし闘技場の経営は、観客たちが大金を賭けることによって成り立っている。確実な勝利を約束されたディヴェルトという存在は、どの闘技場にとっても招かれざる客である。当然、彼は自分の訪れた全ての闘技場から立ち入りを禁じられてしまう。


 幸い、彼の優秀さは世間に知れ渡っている。ディヴェルトを欲しがる大人はいくらでもいる。街を宛もなく放浪していた期間中も、彼は様々な魔術師ギルドから勧誘を受けてきた。しかし彼は「自分を利用してくる大人」を酷く憎んでいる。そんな彼が大人に心を開くはずもない。そもそも、ここで妥協しなくともディヴェルトは充分生きていける。彼は様々な廃品を格安で引き取っては、それらを新品同然の状態まで逆行させてきた。これにより、彼は様々な高価な製品を手に入れ、それを売り飛ばすことによって稼ぎを得てきたのだ。生ごみの状態を逆行させれば、無償で食べ物を入手することが出来る。ありとあらゆる不可逆性を克服しているディヴェルトにとって、生活費を確保することは決して難しいことではなかった。


 それでも彼は家を持たなかった。元より、彼は人体実験場から脱走した身だ。その周囲には、いつなんどきも追手が張り付いている。ディヴェルトは毎日のように追手を瞬殺し、そのたびに平穏な生活に焦がれてきた。

「僕はただ、自由に生きたいだけなのに……連中はそれを許してはくれない。これが命の在り方……か」

 日に日に、彼の中で何かが膨れ上がっていく。それは憎悪であり悲哀であり、痛みでもあった。



 世界を震撼させる事件が起きたのは、あれから三年後のことだ。



 当時、ディヴェルトは十六歳だった。彼は持ち前の魔法を生かし、アルケミア全域に及ぶ規模のクーデターを起こした。このクーデターはテロリスト集団によって引き起こされたものではない。計画から実行まで、何もかも彼一人によるものである。彼の放った魔力は空高く舞い上がり、雨のように地上に降り注ぐ。人や街は次々と粉末にされ、世界のあちこちへとばら撒かれていく。すでにこの時点でジェラトの崩壊以上の被害が発生していたことは、もはや言うまでもないだろう。


 同じ頃、ルイスはヴェルファとともに海外に避難していた。前者はアルケミアの頭脳であり、後者は当時アルケミア軍の大将を務めていた。この二人が命の危険にさらされることは、祖国にとって計り知れぬ大打撃になるだろう。ルイスは魔法により若さを保っているため、その姿はつららと再会したあの日のものとさして変わらない。そうでないヴェルファは今よりうんと若い姿をしており、この頃はまだ頭髪も生えている。二人は高級ホテルのレストランにて、赤ワインを飲みながら話をしていた。

「私の最高傑作が、一つの国を滅ぼそうとしている。言うならば、この世界には今、新たな抑止力が生まれようとしているのだ。ヴェルファ大将……お前にもわかるはずだ。大いなる力は国を守ることができ、国を滅ぼすこともできるものだ」

「無責任なことを仰いますね。私の愛した祖国が滅びようとしているのは、ルイス博士……他ならぬあなたのせいですよ」

「何を言うのだ? お前だって、散々ディヴェルトの力を利用してきたではないか。私たちは同志だ……何を争う必要がある」

 曲がりなりにも、ルイスは自分に責任があることを認めてはいるらしい。彼の指摘に対し、ヴェルファは何も言い返すことが出来なかった。


 二人が会話を弾ませている間にも、アルケミア国は徐々に更地へと変わっていく。ディヴェルトという脅威を前にして、権力者や資産家たちは次々と国から逃げだしていった。そんな中、彼を倒すべく十人の魔術師が集められた。彼らは皆、アルケミア国における魔法学の権威を担う精鋭だ。彼らのうちの一人が、ディヴェルトに問う。

「この世の生物を滅ぼしたいのなら、ただ全宇宙の時間を原始まで戻せば良いだけだ。一度消費した魔力を無限に再利用できるお前にはそれが出来る。それでもこの世界を壊そうとするお前は、ただ憎しみを晴らしたいだけなのではないか?」

 この憶測は邪推でしかない。ディヴェルトが宇宙の時間を逆行させないことには、暦とした理由がある。


「……人類には、先人という反面教師が必要だ。過去の痕跡が滅びようものならば、再び同じ歴史が繰り返されてしまう。ゆえにあなたたちは物質としての死を迎え、情報として生き続ける必要がある」

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