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血の呪い

 今から十九年前、フォルクスはノーウェルスという発展途上国からアルケミアに亡命してきた男女の間に生まれた。


 ノーウェルス人という人種は少し特殊で、彼らは頭部に角が生えているという特徴を持つ。当然、元ノーウェルス人の母親に産み落とされたフォルクスにもその特徴はある。彼はこめかみと後頭部の間に大きな角が生えており、生涯を通じてこの特徴に悩まされてきたものだ。アルケミアで生まれ育った彼は、自分自身のことをアルケミア人だと思って生きてきた。


 一応、彼の両親はアルケミアに帰化している。ゆえにフォルクス本人はアルケミアに国籍を持っている。しかしアルケミアにはノーウェルスから流れ着いてきた難民が多く、彼らのほとんどは物乞いで生計を立てている浮浪者なのだ。当然、ノーウェルス人の特徴である大きな角を生まれ持ったフォルクスは、周囲の人間から様々な差別を受けてきた。


 それは彼が小学校に通っていた時のことである。当時の彼を追い詰めたものは、同じ学校の子供達ではない。むしろ彼は元々明るい性格で、本来ならば誰とでも仲良くなれるような子供だった。そんな彼を孤立させたのは、他の生徒の保護者たちだ。彼らは自分の息子や娘がフォルクスと戯れようものならば、決まってそれを戒めてきた。

「ノーウェルスの子供と遊ぶな!」

「ノーウェルスの子供と仲良くしていると、ろくな大人にならないぞ」

「先生! うちの子にノーウェルス人を近づけないでください!」

 そんな心無い声が罪の無い子供たちを縛り付け、否が応でもフォルクスの存在を無視しなければならない空気を作り上げていた。結局、彼は学校を卒業するに至るまで、誰一人として友達を作ることが出来なかった。


 ノーウェルスの血のもたらす孤独は、学校の外でも彼に付きまとった。身分証を持った両親が同行しない限り、フォルクスはいかなる施設にも自由に出入りできなかった。国中から浮浪者のイメージを抱かれているノーウェルス人は、その場に存在しているだけでも他の客人に嫌悪感を与えてしまう。ノーウェルス人が少しでも表を歩こうものならば、通行人から卵や石を投げつけられることも珍しくない。フォルクスは物心がついた時からずっと、自分の血を呪いながら生きてきた。



 彼はやがて、「アルケミア人らしさ」に執着するようになった。



 彼は国中に虐げられながら生きてきたが、それでもアルケミア国を愛し続けた。アルケミアは彼にとっての祖国であり、愛国心を持つことは自分がアルケミア人であることの裏付けになるからだ。先ずは「祖国」について熟知するため、彼は祖国の歴史について猛勉強するようになった。


 歴史を学んでいくにつれ、フォルクスの中である考えが固まってきていた。

(戦争、戦争……そしてまた戦争。世界史もアルケミア史も、戦争の話ばかりだな。歴史を動かすものは、いつの時代も戦争なのだろう……)

 どの教科書を見ても同じだ。どの資料を見ても同じだ。何を是とし、何を非としているか――そこに思想や視点の違いはあるものの、歴史を語るものが戦争を語っていることに違いはない。

「俺はアルケミア人だ! 俺がアルケミア軍に入隊して、俺が祖国の歴史を作るのだ! もはや、それでしか忌まわしき血は克服できないのだ!」

 彼は必死だった。彼は先ず魔法を鍛え上げるために、齢十歳にして「ヘキサマギア」という魔術師ギルドに加入した。無論、ヘキサマギアは無条件でフォルクスを受け入れたわけではない。移民などの仕事に困っている外国人は、アルケミア人からしてみれば安い労働力にうってつけなのだ。


 彼は必死に依頼を受け付け、死を覚悟しながら戦ってきた。彼の生まれ持った魔法は単なる闇魔法だったが、その強さは日に日に常軌を逸したものへと昇華していった。やがてフォルクスは、ギルド内でも一目置かれるほどの実力者となり、労働者からギルド長まで上り詰めた。この当時の彼は、まだ十四歳である。まだ年端もいかない子供が、ノーウェルスの血を持つ子供が、ギルドの頂点に立ったのだ。当然、それを面白く思わない者は多かった。彼は実力こそは買われていたものの、結局はヘキサマギアという集団の中ですら孤立していた。


 それから一年が経ち、フォルクスは十五歳になった。彼は大きな病院で手術を受け、自分を悩ませてきた大きな角を医師に切除してもらった。しかし角の根元の部分は脳と直結しているらしく、完全に取り除くことが出来なかった。彼は角の生えていた痕跡を隠すべく、ベージュ色の髪を伸ばし始めた。それこそが、彼の髪型が長髪である所以である。角を切除したフォルクスは、過去と決別すべくヘキサマギアから脱退した。それ以降の彼は自分がノーウェルスの血を継いでいることを隠し通し、一人のアルケミア人として第二の人生を歩んできた。彼は軍学校で優秀な成績を収め、順調に軍人としての道を突き進んでいった。



――――かつて道端で卵と石を投げつけられてきた子供は今、齢十九にしてアルケミア軍の大将という重大な役割を担っている。

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