写真
翌日、便利屋の活動拠点でのことである。
つららは寧々のことを警戒していた。この警戒心は、決して大切な仲間に対する猜疑心ではない。
(寧々ちゃんと目を合わせたら、昨日一人で泣いていたことがバレてしまう。あんな姿、誰にも知られたくないんだけどなぁ……)
それが彼女の思いである。しかし当の寧々はと言うと、まだ昨日起きていたことを把握していない。彼女はカップ入りのコーヒーを木製のトレーに乗せ、それをつららの元へと運んできた。
「おはようございます……つららさん」
「お、おはよう! 寧々ちゃん!」
「……一体何をそんなに焦っているのですか?」
当然、何も知らない寧々は困惑する。彼女はつららの顔を覗き込もうとするが、つららは咳払いをするふりをして顔を逸らす。寧々は怪訝な顔をしつつ、ダイナの方にもコーヒーを運ぶ。
「おはようございます……ダイナさん」
「おはよ。いつもコーヒーありがとな!」
「こちらこそ、いつも守っていただいて、ありがとうございます」
彼女は穏やかな微笑みを浮かべ、軽く会釈をした。それから彼女は、すかさずダイナと目を合わせた。
(……昨日、ダイナさんがつららさんを励ました後、つららさんはすぐに事務室を出たようですね。もしかして何か、悩みでも抱えているのでは……)
少し外れてはいるものの、鋭い洞察である。寧々は再度つららの方へと歩み寄り、彼女の耳元で囁いた。
「……何か悩みがあるのなら、無理に隠さなくても良いですよ。だって、私たちは仲間じゃないですか」
「じゃあ……絶対に笑わないでね」
つららはおもむろに顔を上げた。彼女の記憶は、寧々の脳内へと流れ込んでいく。寧々は少し押し黙った後、彼女に一つ提案をした。
「三人で、写真でも撮りませんか?」
「写真?」
「幸せな今を、思い出として記録していくのです!」
「へぇ……それは良いねぇ」
「さあ、ダイナさんも来てください! 記念すべき、一枚目の写真を撮りましょう!」
二人はダイナの腕を引っ張り、窓際まで寄せていく。ダイナは少し戸惑っていたが、まんざらでもなさそうな微笑みを浮かべていた。
こうして便利屋の三人は一箇所に集まった。寧々は自撮り棒に携帯電話をくくりつけ、撮影する角度を調整していく。
「じゃあ撮りますよ! はい、チーズ!」
シャッターが切られた。一枚の写真には、楽しそうに笑う三人の姿が映っている。その中でも、つららの笑顔は特に際立って輝いている。
「つららさんたちは、これからも最高の仲間だよ」
「もちろんです」
「俺たち三人が揃ってこそ、天下の便利屋だぜ!」
この瞬間、三人はまるで家族のように一つになっていた。
――――そんな彼らのもとに新たな依頼が転がり込んできたのは、昼過ぎのことであった。
便利屋の事務室に、インターホンの音が鳴り響いた。寧々はモニターのボタンを押し、来客に応対する。
「ご来店ありがとうございます。こちら、便利屋です」
モニターに映る来客は、薄紅色の髪をした男性と、紫色の髪をした女性だった。二人はアルケミア軍の少将と中将――ランボルとメルだ。
「……つららっていう女がいると聞いてここに来た。その女に、アルケミア国の命運をかけた頼みごとがあるんだ」
「……詳しいことは後ほどお伝えします。どうか、少しだけお時間をいただけないでしょうか」
アルケミア軍はつららを雇うため、さっそく動き始めていたようだ。軍隊の大役を担う二人組から直々に依頼を受けられる機会は、そう何度も訪れるものではないだろう。
「少々お待ちください」
寧々はそう言うと、何の迷いもなく正面口へと向かった。彼女は扉の鍵を開け、二人を便利屋の中へと招き入れる。
「つららさん! アルケミア軍の重役の方々がお見えになりました! つららさんに用があるそうです!」
これは大仕事になりそうな予感だ。しかしどういうわけか、つららは気乗りしない様子である。
「軍隊……ねぇ」
何やら、彼女はあまり軍隊に良い印象を抱いていないらしい。だがこれはあくまでも仕事だ。つららは応接間へと足を運んだ。




