昼下がりのテラス
あれから約二週間、便利屋の三人は順調にビジネスをこなしていった。寧々もつららたちに受け入れられ、すっかり便利屋の中に溶け込んでいた。言うならば、三人は運命共同体だ。彼らは各々の魔法を活かし、様々な依頼をこなしていった。しかし裏社会で生きている以上、当然ながら彼らには敵が多い。一つの組織を潰せば、その残党がこちらに刃を向ける。汚い金を稼いでいれば、冒険者ギルドでクエストの依頼を受けた魔術師がこちらに手をかけてくる。もっとも、アルケミア国の裏社会を牛耳る麻薬組織と戦った彼らからすれば、大抵の敵は恐れるに足らぬものだ。彼らの便利屋としての仕事は、まさしく順風満帆であった。
ある日の昼下がり、寧々はダイナを呼び出した。曰く、二人きりで話をしたいとのことであった。
(お……俺にもついに春が来ちまったのか? 締まりのねぇ顔にならないよう、気をつけねぇとな)
待ち合わせ場所の喫茶店のテラスにて、ダイナは期待を抱いていた。彼も男だ。異性を意識することもある。なお、当の寧々にその気は更々ない。数分後にテラスに到着した彼女が切り出したのは、仕事の話であった。
「……ダイナさんに、私の護衛を依頼しようと思います」
それが彼女の第一声だ。ダイナはまだ勘違いをしている。
(それって、一生守ってくれってことか? 便利屋同士だからって、ずいぶん粋なプロポーズをしてくれるじゃねぇか!)
どうやら彼は、あまり女に慣れていないらしい。勝手な妄想により、彼は耳まで赤くなっていた。当然、目の合った相手の記憶を把握できる寧々には、彼の心も読めているということになる。
彼女は少し呆れざまに仕事の話を続けた。
「私の本業は便利屋になりましたが、それでも情報屋をやめたわけではありません。これから、ジェネティカ人体実験場を調べに行きます。プライバシーに関することなので理由は説明できませんが、これはつららさんには頼めないことです」
いよいよ話は本題に入る。ダイナはようやく自分の勘違いに気づき、恥じらいを誤魔化すように愛想笑いを浮かべた。
「あ……ああ、そういやアイツ、人体実験場で育ってきたって言ってたな。詳しいことは知らねぇけど……」
「あなたがどこまでのことを知っているのかも把握しています。あなたはただ、私の護衛を引き受けてくださればそれで良いのです」
「わかった……俺に任せな。アイツが何を抱えていようと、俺たち三人は仲間だ。それだけは絶対に揺るがねぇし、本人が話したくねぇと思ってることを無理に詮索する真似もしない」
「話が早くて助かりますよ」
「まあな。俺が真実を知る時は、アイツがアイツ自身の意思でそれを打ち明ける時だけだ。その真実が例えどんなものであったとしても、俺は絶対にアイツのことを受け止めてみせる」
彼は筋金入りの仲間想いだ。彼が歯を見せて笑うのにつられ、寧々も優しさに満ちた微笑みを浮かべる。
「さっそく出発の準備をしましょう」
「ああ、俺たちで人体実験場の実情を暴いていこうな」
「はい!」
こうして依頼は受理された。二人はこれから、つららに内緒でジェネティカ人体実験場へと向かう予定だ。
「……そーんな危険なところに、君たち二人だけで向かわせるわけにはいかないねぇ」
――すぐ真横から、よく聞き慣れた声がした。ダイナたちが振り向いた先では、つららが仁王立ちしていた。
二人は彼女を止めようとする。
「つらら……お前、まさかついてくる気なのか?」
「ダイナさんを信じてください。彼は闘技場の元絶対王者です。私たち共々、必ず生きて帰りますよ」
「そうだ、俺たちを信じろ」
彼らはそう言うが、つららの意志は決して揺るがない。何しろ、彼女もまた仲間のことを想っているのだから。
「過去の記憶よりも、今ここにいる仲間の方が大切さ。君たちを守るためなら、つららさんは喜んで過去と決別するよ」
「俺はお前の過去を知らない。だから、お前がどんなに精神的に無茶をしていても、それを察してやることは出来ないんだ。俺は怖いんだよ……お前が俺たちのせいで壊れちまうことがな」
「ふぅん……なるほどねぇ」
つららは少し考えた。彼女は二人の身の安全を案じているが、二人は彼女の精神状態を案じている。
そこでつららは覚悟を決めた。
「いよいよ、つららさんの過去について話す時が来たみたいだねぇ」
ついに、彼女の抱え込んできた過去が明かされる。




