合流
同じ頃、つららもステアの本部に到着し、エントランスの前で寧々と合流した。突如ビルの窓ガラスが融け、そこから炎が勢いよくあふれ出たのは、まさにそんな時であった。
「おっと! どうやらダイナくんが戦っているようだね」
「敵は目の合った対象の免疫を暴走させる魔法を持っています! 強烈なアレルギー反応や自己免疫疾患を引き起こし、相手をじわじわとなぶり殺すのです! 早いところ加勢しましょう!」
「それは厄介な魔法だね……」
さっそく、つららはステアの本部へと乗り込んだ。しかし彼女は少々出遅れたようだ。エントランスを潜り抜けた先では、全身の皮膚の腫れあがったダイナと火だるまのセレスが倒れていた。
「遅かったじゃねぇか……つらら」
ダイナはつららの方へと振り向き、どことなく力無い笑みを浮かべた。彼は無事、死闘に勝利したようだが、その体は酷く弱っている。彼は震える両腕で上体を起こそうと試みるが、体が持ち上がる様子はない。
つららは言う。
「……ダイナくん。君は、本当によく頑張ったよ。報酬金はちゃんと山分けにするから、動けるようになったら早退しなよ」
かつては敵同士だった二人も、今となってはかけがえのないビジネスパートナーだ。互いを気に掛けるのも当然のことである。
「すまねぇな……つらら。後のことは任せた」
「引き受けた!」
「俺は信じるぜ。お前なら大丈夫だってな。何しろ、お前は絶対王者を負かした唯一の女だからな」
「危うく、君を負かした女がもう一人増えるところだったわけだけどね」
「けど、あの女は俺の唇を奪った唯一の女にはなった。何しろ、アイツはとんでもないド変態だったからな。一歩間違えりゃ、俺は墓標に『オカズ』って書かれることになっていたかも知れねぇな」
……それは本当にセレスならやりかねないことだ。二人が話している傍らで、寧々は苦笑いを浮かべていた。何はともあれ、三人は再び合流した。そして彼らが今いる場所は、ステアの本部だ。
――――残す仕事もそう多くはない。
寧々は話を切り出した。
「……そろそろ行きましょう。ボスの部屋は最上階にあります」
「つららさん一人で行くよ。戦えない寧々ちゃんを危険なことに巻き込むわけにはいかないからね」
「いいえ、私も同行します。目的はあくまでも麻薬組織の情報を手に入れることですし、そもそもあなたがたを危険な仕事に付き合わせたのは私の方ですから」
便利屋の二人がそうであるように、彼女もまたプロフェッショナルだ。その眼差しには、仕事に対する熱意がこもっていた。
(ああ、やっぱりその目だよ。ダイナくんと結託した時もそうだった。どうにもつららさんは、熱意のある奴に弱いみたいだね)
そう――あの時と同じだ。つららはまたしても熱意に負け、寧々に同行を許してしまう。
「……わかったよ。ついておいで。その代わり、ボスの目を見たらすぐにその場から逃げるんだよ」
「はい! ありがとうございます!」
二人はエレベーターに乗り、本部の最上階へと向かった。
*
その頃、最上階では一人の中年男性が葉巻を吸っていた。男はサングラスを着用し、高価なスーツを着崩していた。彼が腰を降ろしている黒いソファには重厚感があり、その周囲の内装からは財力を見せびらかすような高級感が漂っている。男はスマートフォンを取り出し、ある人物に電話をかけた。
「はい、もしもし」
「エド・マクスウェル……やはり無事だったようだな。つまりお前は、またしても俺の命令を無視したというわけか」
「ボスが僕をスカウトした時、僕は忠告したはずだよ? 僕を飼い慣らすのは、そう簡単なことじゃないってさ」
「……まあ良い。我々に手を出した便利屋も、多くを知りすぎた情報屋も、俺が直々に始末する」
「あはは! それは良いね。まずはボスとつららが戦って、勝った方が僕と戦うわけだ。いつでも受けて立つよ」
「やれやれ、生意気なガキだ」
彼は呆れたような顔で通話を切り、深いため息をついた。