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モテない男はつらいよ

やあ。

 「ハーレム作りたい」


 技術は嘗てより格段に進歩し、情報化社会が極まった状態とも呼べる2080年の現代社会。

 その中で、ゲーム業界も進歩している。そう、VRMMORPGの発達である。

 今やVRゲームの総合的なプレイ人口は世界人口の九割にも及び、各ジャンルの資金が潤沢な大会社は次々VR業界に参入。様々な人々が関わる中で次々と研鑽が重ねられ、今では触覚、嗅覚の再現までもが可能となっている。

 もちろんそんな進んだ技術が存在するとて、ゲームの進行にはモブキャラ……所謂『脇役』が居なくてはなりたたない。そしてそれは、ゲーム内の国家から正式に『ジョブ』として認められ、給料まで出ている。

 ギルドの食堂で駄弁っていた彼等、職業『荒くれ者』の三人組も、その大きな社会制度の中で苦労しているメンバーだった。


 「……おいノクティス、そう云えば聞いたか? ここらへんに下着ドロが出るらしいぞ」

 「ああ、ザッコス。何でも犯人は熟……少々年配の女性の下着ばかり狙うらしい。俺の母ちゃんも危ないな」

 「お前いくつだよ。お前の母ちゃん、最早熟女って齢でも無いだろ」

 「うるせえ」

 「でもできれば、年齢だけ教えてもらえると……」


 剣を腰にぶら下げた益荒男、ザッコスと、戦斧をテーブルの横の壁に立て掛けてそこに荷物を引っ掛けているノクティスは、そんな世間話と安酒で昼間っから時間を潰していた。

 そして、あともうひとり。


 「ハーレム作りたい」

 

 三人の中では一番小柄で、短剣を扱う荒くれ者・マッキーが、再び神妙な面持ちでつぶやいた。

 ノクティスとザッコスはゆっくりと顔を見合わせると、マッキーに心配そうな表情を向けた。


 「……おい、大丈夫かマッキー。疲れてるのか」

 「お前らしくもないぞ、悩みごとがあるなら聞くぜ」

 「……」


 ギルドの仲間たちが彼等を見る。

 こいつら何他人面してんだ、自分たちは普段ハーレムはもちろん、モテたいだの何カップだのセクハラ発言上等の癖に……。と、いう目である。

 だが、彼等はそんな事に気付くよしもない。


 「あのな、俺らはもうこの仕事を何年やってるんだ?」

 「えーと、確か俺が二十歳の時に同時に始めたんだよな。てことは、十年以上もやってる計算になるな」

 「考えてみりゃ、俺は未成年の頃から転生者にボコされてたのか……。感慨深いが、なんかこう、ちょっと複雑だぜ」

 「そうなんだよ。俺たちはもう、十年間もここで同じ仕事を続けてるんだ」


 発言を華麗に無視されたザッコスが、不満げな表情でマッキーに言った。

 

 「だから何だよ」

 「そろそろ、出来てもいいと思わねえか?」

 「何が?」


 ノクティスが聞き返す。

 対してマッキーは机をドンと叩いた。大きな音が鳴り、生み出された静寂の中でマッキーが手を押さえる。 

 二人がドン引きする中、やがてマッキーは深呼吸をして静かに言った。


 「彼女だよ」

 

 二人は目を逸した。

 マッキーはより近くにいたノクティスに詰め寄る。

 

 「そろそろここにいる女連中は俺達の魅力に気づいても良いはずだろ! 収入は少ねえが、荒くれ者はなり手が少ないから痛みさえ我慢すりゃずっと稼ぎ続けられる! 活かせてないとは云え歩合制でボーナスもあるんだ! そう考えれば、彼女の一人や二人、出来て当然だ! なんでこんな優良物件を放っておくんだあいつらは!」

 「そういうとこだと思うぞ」

 「あんな顔と強さ以外に何の魅力もない転生者がモテて、なんで芯のある俺がモテねえんだよ! モブだからか!?」

 「そういうとこだと思うぞ」

 

 ノクティスの冷静なツッコミも無視し、マッキーは騒ぎ続ける。

 ザッコスはマッキーに詰め寄られながら、思った。

 いや、普通にハゲは無理だと思うぞ。しかもお前、アレルギーのせいで頭皮が異様に荒れてるじゃん。誰がお前を選ぶんだよ。

 そんな事を考えるが、彼なりの優しさなのか、口には出さない。ザッコスは苦笑しながら、マッキーを宥め言う。


 「そもそも、俺らはモテるとかを目的に荒くれ者になったわけじゃないだろ。大事な所に気づけてねえんだよお前は」

 「そうだよな、それに決して女の子に合法的に触れて転生者に暴言吐くだけで金が貰える安い仕事だからって聞いたからじゃないよな。そんな薄っぺらい内容じゃなくて、もっと大切な何かがあったんだよ。荒くれ者は神聖な職業なんだから」

 「ザッコス、てめえはモテてるだろが! 何股もしてんの知ってんだぞ! それにノクティス、昨日あんだけゴネてたお前が何言ってんだ! お前は良いよな、可愛い妹が居るんだから!」

 「俺は暴言を吐きつつ、案外優しいって設定だからな。今稼いでる金も、病気の妹に半分渡してる」


 ノクティスのそんな発言に、場がしんと静まり返る。

 居たたまれない空気感に堪えきれなくなったのか、マッキーが恐る恐る口を開いた。


 「あー……。お前の妹、病気なんだっけ。なんかごめんな」

 「いいよ別に。命に関わるようなものでもないし、何なら毎日のように友達の家で遊んでる」

 「え? ……ちなみに、何の病気なんだ?」

 「確かけ……けびょう? とか言ってたな」


 再び場が静まり返った。

 周りの冒険者が同情の目を向ける中、ノクティスは不思議そうに首を傾げた。


 「皆、どうしたんだ?」

 「……うん。なんか悪かったな、ノクティス。そうだ、今日の飯は俺がおごるよ」

 「元気出せよノクティス、お前は優しい奴だよ」

 「隣町で盗ってきた下着シリーズでも見るか? 心が安らぐぞ!」

 「? ああ、ありがとう……。っておい、最後に発言したの誰だよ。出てこいよ」

 

 ノクティスがそう言うと、ザッコスが静かに首を振った。

 まるで、子の成長を見守る父のように寛大な目でノクティスを見る。


 「要らないと言うなら仕方ない。お前はやはり、選ばれし人間だったということなのだろう」

 「お前かよ」

 「おまわりさーん、ここに下着ドロの変態がいまーす」

 「あばよお前ら、死ぬなよ!」


 女冒険者の通報に、速攻で逃げ出すザッコス。

 ……何故こんなにモテないのか、という疑問に、答えが出た気がした。

 夕日が差す中、男達は友を見る。守るものの為に走り続ける彼の姿は、男達の目に深く焼き付いた。

 

 「見たかマッキー、あれがモテる男の姿だぞ」 

 「……俺、モテないままでいいや」




 下着を被って街を奔走する成人男性のお陰で、一人の男の夢が潰えたのであった。

 


 

 

 

ありがとうございました。

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