まさかの出会い
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9年後
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誰かの怒鳴る声が耳元で響き渡り、世界がぼんやりと色付く。
「レン殿!逃げてください!」
焦点がくっきりと合うと、俊敏に首を動かして辺りを見渡した。
人が踏み付けて出来た道に、草木が生茂、道の先にはウォーリアン・ヘーテの城壁が、薄らと見えていた。
「レン殿!早く!早くお逃げ下さい!」
ムーディアはレンに怒鳴り付けるが、体が動かなかった。
レンはムーディアと目線を合わせると、カルディとラミィが剣を構え、切り掛かってきた。
ムーディアはレンを背負いながら、間一髪のとこで後ろに下がり、二人の一撃を避け切った。
「グヌゥ、仕方がない」
絞り出したムーディアの声を聞くと、意識が飛び、辺りは真っ暗になった。
冷たい液体が頭の中にポチャリと落ちる。
レンは思わず目を開け、早口でつめたっと言った。
「また……あの夢かぁ」
大粒の雨が強く、雨除けがされている荷馬車に打ち付ける夜。ランタンがほんのりと周囲を照らす。
タルや木箱に身を隠すように座り、ボロボロのフードに、杖を手放さないレンの姿がそこにいた。
「ふぅぅぅ、寒いぃ」
レンは体をぶるっっと震わせると、何も気にせず深い眠りにつこうとした。
瞼を閉じると、馬車の車輪が立てる音に、打ち付ける雨の音が催眠を遮る。
(寝れない……)
レンは仕方なく軽い瞼を上げると、そこには何故か、さっきまでは無かったボロボロの布が置かれていた。
子供一人隠れるぐらいの山なりに置かれており、こちらを見ているような空洞が見える。
レンは触れてはいけない事は分かっていた。触れてはきっとまた何かに巻き込まれる、そんな気はしていた。
しかし、レンの中で、危険性より好奇心が上回り、恐る恐る布に手を掛ける。
「触るな、愚か者」
冷たい少女の声が布の中から聞こえると、レンは伸ばしていた腕をビクっと動かし、そのまま硬直した。
「私の声が聞こえなかったの。早く離れて」
レンはそっと、元の位置に腰を下ろした。
雨は勢いを更に強くし、波打つ役に馬車を立ち付ける。
馬車が大きく揺れると、積み上げられた木箱の中身が動き、様々な音が聞こえた。タルの酒がピチャピチャと音を立てた。するとレンは不思議な事を思った。
(そいえばこの子、どうやって動く馬車の中に入ってきたんだ?)
少女はきっと人間ではないのだろう。
レンは首を傾げた。
可能性として最も高いのは獣人、彼らは奴隷にされることが多く、きっと奴隷商人から逃げてきたのだろう。
上を向き、少女を先に助けるか考えていると、ふとある可能性が頭の中をよぎった。