全ての始まり(プロローグ)
雲は、空にこびりつくように、上空に止まり、灰色の砂漠が広がっていた。鼻呼吸をすると、奥にほんのりと冷たい空気に紛れ込み、血の匂いが残る。
純白のフル装備を身に纏う四人と、使い編まれた白いローブで身を隠す一人は、睡眠を取らず歩き続けること、3日が経ち、灰の砂山を登っていた。
すると、青い宝玉が、光をうっすらと放つ魔法の杖を付きながら、ローブの男は、息が荒くなっていき、列から少し遅れ出した。
その者を気に掛け、長い耳が特徴的なヘルムを被る、鉄の弓に短剣を身につけた女性が問いかける。
「ねぇレン、大丈夫?顔色が少し良くないよ?」
フードの男『ザギル・レン』は、足を止め、呼吸を乱しながらも、精一杯笑顔を作り、地面に杖を刺す。
「大丈夫だよ、少し疲れただけだから」
顎に溜まっていた汗が、、ポタリと地面に落ちると同時に、足を一歩前に全身させた。
しかし、体はとっくに限界を迎えていたのか、杖を抜くと、バランスを崩して尻餅をついた。
エルフの女性は、慌ててレンの元に駆け寄り、声を震わせた。
「大丈夫じゃないよ!私も一緒に残るから、ここで少し休憩しよ?」
レンは、エルフの女性『アイレント・エリシア』の提案を飲もうとした時。山の頂上に到達した三人のうち、先頭に立つ勇者の血を引く女性が、怒鳴り上げる。
「ザギルレン!アイレントエリシア!早く登らぬか!敵は目の前なのだぞ!」
声が響いて聞こえる方向に顔わ向けると、エリシアは、ヘルムの中から殺気を先頭の者に飛ばした。
「僕は後から付いて来るから、エリシアは先に行っていいよ」
エリシアは、大きく息を吸い、血生臭い少しムッと頬を膨らませ、レンに何も言わず肩を貸し、登り出す。
「レンも一緒に行くの。置いてくなんて絶対にしない!」
レンはほっとした表情で、エリシアのヘルムの隙間から見える、青く綺麗で真剣な瞳を見ていた。
「私が新英雄になったのは、レンが無茶した後に、近くで支えられる様に……なんだからね」
レンは、自然と笑みを溢し、少しずつ足に力を入れて頂上を目指した。
ーーーーーーー
レンを支えながらエリシアが登る頃。
頂上いる3人のうち、声が少しガラガラで低く、人とは思えぬほどの、大きな鎧を身につけた者が、一礼をし、口を開く。
「勇者様、私もレン殿を向かいに行きましょう。
こういう事は慣れていますので、エリシア殿が連れて来られるより、私が下山してせよって連れてきたほうが早いと思いますが…」
レンとエリシアを怒鳴り、勇者と呼ばれている『レディアント・カルディ』は、見た目では、至って変わった特徴は無い。
しかし、勇者と認めざるおえない身体能力と、魔力量が、彼女の特徴ともいえる。
カルディは、勇者の剣を手に握り締め、複数の、形状が異なる城々が、中央の広場を中心に建てられた。敵の本拠地を見つめていた。
「構わん、すきにしろ。」
「ありがとうございます」
カルディは、ふと思い出すようにムーディアを呼び止め、視線を少し横にずらした。
「ワンダラスト・ムーディア、気をつけていけ、敵が待ち伏せしているかもしれないからな」
名を呼ばれた瞬間、体格の良い鎧の男は、執事に引けを取らない綺麗な一礼をし、下山した。
雲が、暗い夜の波打つ海を空に描く中、何も喋らず、腕を組んでいた鎧の者が、ヘルムの中でニヤついた。
「あのレンと言う男、周りから随分と愛されているのだなぁ。」
カルディに声を掛けた女は、背は高く、ほっそりとした鎧を着て、一眼見ただけでは使い方が想像出来ない武器を、複数所持背していた。
「お前もそう思うだろ?勇者カルディ」
カルディは、一瞬眉を上げると、さぁな、と適当に返答を返した。
同情を求めた女は、カルディの雑な対応に鼻で笑った。
カルディは声を掛けられた女に、ゆっくりと体を向けた。
「私は今、結構驚いている」
女は嘲笑う貴族の様に振る舞った。
「一体、何に対して驚いているのかな?騎士殿」
カルディは、意外にも苛立つことなく、平然としていた。
「この旅の間、一言も喋らないのかと思っていたからな。盗賊団災厄にして最強だと、吟遊詩人からも歌われる女隊長、ジムネ・ラミィ殿?」
まさか、やり返してくるとは思っていなかった女隊長『ジムネ・ラミィ』は、息を吐く様なかすめ笑いをした。
「はぁ、私は確かに、この旅間、喋るつもりなど微塵もなかった。だか、お前があの時、教会で言った事が本当だと確信した。と、言うよりも、現実になってしまった、の方が正しいか」
「だから言葉を交わしたと?」
「それもある、だか口を開いたのは、また別の理由だ」
二人の間に沈黙が生まれると、ラミィは、雲の中を覗く様に空を見上げた。
「私はお前の言う事なら、ある程度こなしてやる。飽きるまではな」
「なら、新英雄としての役割をしっかりとこなせ」
ラミィは何も言わず、カルディから少し距離を置くと、下の方から、ボロボロのレンをせよって、ムーディアが戻ってきた。
エリシアも、ムーディアの後に遅れる事なく、難無く頂上の四人と合流した。
するとカルディは、未だに息切れしているレンを見つめると、ヘルムの中で顔を歪め、声を低くする。
「うむ、残念だが、その状態では作戦に参加する事は認められない」
レンの瞳は、小さく震えた。
「ぼっ僕ならっ大丈夫です!はぁっはぁっやれっます」
カルディは、ヘルムの顎を摘む様にして、考えるそぶりを見せる。
「だが、そんな状態では戦えないだろう。作戦を一から考えなおさなければ」
ムーディアは、レンの足が安定するまで、体を支え続けていた。
「もう大丈夫だよ」
レンはそう言うと、杖を地面にねじ込むように突き刺し、生まれたての子ヤギように覚束ない足で、地面に立つ。
足を痙攣させながら、深呼吸で脈打つ心臓を落ち着かせ、朦朧とする意識の中、レンははっきりと口にする。
「禁忌の自己回復魔法を使います」
エリシアとムーディアは一瞬声を上げた。
その時ラミィは、二人の反応を見て、何となくこの旅の理由を理解した。
これが目的か、禁忌の魔法はあまりいい噂を聞かない、時には足りない魔力を補う為に、臓器を一つ神に捧げたとも聞く。
(二人の反応を見るに噂は本当なのだろう、だか、私たちの鎧を軽々と治すこの男が、禁忌魔法一つ唱えるだけで、死にかけるものなのか?)
エリシアは声が震え、瞳が微かに揺れていた。
「レン、冗談っだよね。あの魔法を使うなんて、嘘だよね?」
「レン殿、私も反対でございます。あれを使ったあと、役ニ日は身動きが取れなではございませんか」
レンは一生懸命、二人が納得する答えを考えていると、カルディが動き出す。
「レンの決意を尊重するのも、友としての役目ではないのか」
カルディの軽弾みな発言に、エリシアの溶岩のように滾る怒りを解き放った。
「あんたなんかに・・・」
背に掛けていた短剣を抜き、カルディの首に突き立てた。
「あんたなんかに、レンの何がわかるの!私たちの気持ちも分かるとでも言うの!」
灰の砂が風に流され、足元を無数の粒が打ち付ける。
「君たちの気持ちは分からないが、レンの覚悟は理解しているつもりだ」
エリシアは、今にも灰色の風景に飲まれてしまいそうなのに、瞳は強く色付くレンの目を見て、膝から崩れ落ちる。
「どうして・・・レンが苦しまなきゃいけないのぉ」
エリシアの絞り出した声は、風に打ち消され、誰一人として聞こえる者はいなかった。が、レンは心配させまいと、おぼつかない足取りで近づき、声をかける。
「大丈夫だよ。僕は絶対に死なないから」
エリシアは、分かっていた。レンが一度でも誰かを守りたいと思ったら、絶対に助けるまで諦めたりしなし人間だと。そして、そんなレンに自分は救われ、好意を仇いている事も。
エリシアは、浅くため息をつくと、短剣を収め、立ち上がる。誰に聞こえないほど、小さな笑い声を漏らす。
「やっぱりレンだね」
「え?」
エリシアは、ヘルムで見えていないが、にっこりと微笑み、手を後ろで組みながら楽しそうに
「うんん、何でもないよ」
と、言い首を振った。
そしてエリシアは、いつものようにレンを不安にさせぬよう、自身の感情を押し殺し、笑みを思わせる声を出した。
「絶対に生きて帰ろうね」