表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

77/77

22 意志無き刃

 ウチに案内され、俺がやってきたのは迷宮都市の地下に伸びる下水道だった。


 何度か入ったことがあるが、水を町全体に供給するという都合上、迷路のように入り組んでいて、一度迷子になればもう出られないなんて言われるほどだ。もちろん、地上に出るだけなら近くの適当な出口から出ればいいんだけど。


 ただ、ウチが案内する先は、既に破棄されたという区画だった。

 この先にサンドラがいる……偶然迷い込んだというには、あまりに出来すぎだ。

 誰か案内人がいる、というのが妥当か。


 そして、ここ最近のサンドラの不調……というか思い切りの無い態度の原因もそいつだと考えるのが、これまた妥当だろう。


「面倒くさいことになってなきゃいいんだけど……」

『もうすぐ、デス』

「サンキュ、ウチ」


 なんにせよ、あんな手紙一枚で手切れにさせるわけにはいかない。

 サンドラは仲間……家族だ。何か事情があるのなら――!


「サンドラっ!!」


 廃棄区画を進んだ先で、見慣れたサンドラの背中が見えた。

 

 思わず彼女の名を叫ぶ……けれど、反応は無い。

 代わりに――


「あら?」


 その向こう、ゴシックロリータを身に纏った、奇妙な女が立っていた。


「あら、あら、あらぁ?」


 妙に粘っこく、甘ったるい喋り方。

 ダンジョンの中なら、いや、この場にあっても酷く場違いで、耳障りな声だ。


「貴方、もしかしてノインのお仲間さん?」

「ノイン……サンドラのことか?」


 サンドラは動かない。

 ゴスロリ女の方を向いたまま、まるで人形のように固まっている。


 あの置き手紙を残し、後ろめたさがあるはずだ。

 サンドラは図太いが、その反面幼く、仲間を大事にしてきた子だ。

 俺が追ってきたとなれば、動揺せずにはいられないはず。少なくとも、肩のひとつでも震わせる程度の反応は見せると思うけれど……今はピクリとも動いていない。


 ただ、あれがサンドラを模した等身大人形であるわけもない。

 間違いなく、サンドラだ。


(と、なると……こいつが何かしたのか)


「どうしましたの、そんなに怖い顔されて。まさか、ノインを追ってきたのかしら。この子はパーティーを抜けると、しっかり宣言をしてきた筈なのだけど」

「やっぱり、お前が糸を引いてたのか。どこの誰だか知らないが……」

「どこの誰だか知らないのに、随分と不躾な目で睨んできますのねぇ」


 見たところ、サンドラと同じくらいの年齢。

 しかし、俺のことなど路傍の石くらいにしか見えていないのか、随分と余裕を見せている。


(妙な感じだな……)


 サンドラが全く動かないのも気になる。

 ここは、慎重にいくべきか。


「お前、サンドラをどうするつもりだ」

「どうするもなにも、ノインは元々わたくし達の同胞ですのよ。彼女は自分の意志で、わたくしについてきていますの。でしょう、ノイン」

「…………」


 サンドラはここで初めて反応を見せた。

 ゆっくりとこちらを振り返る……が、その目に生気は宿っていなかった。


「サンドラ……!?」

「さあ、見せてあげなさい。貴女の意志を」


 少女の声に応え、サンドラが一歩前に出て……担いでいた大剣を抜く。

 新調前の、これまで使ってきた使い古した大剣だが……しかし、その刃は対魔物用に研がれている。


 おいそれと、人に向けて良いものじゃないことは、サンドラ自身が一番理解している筈だ。


 それを、この状況で、俺に向けてくるってことは……!


「…………ッ!!」


 サンドラは言葉を発しないまま、地面を蹴った。

 向かうは……俺だ。


「ぐっ!?」


 動揺しつつ、咄嗟に後ろに下がり、躱す。

 地面に叩きつけられた大剣が、石造りの床を削り、その破片が俺の頬を切った。


 サンドラは本気だ。

 武器の合わせで立ち会った時とはまるで違う、魔物を叩き潰す時のような破壊力。


 それが今、俺に向けられている!


「さぁ、やりなさい、ノイン。その男を断ち切れば……いよいよ、くだらない情も消え果てるでしょう」


 ゴスロリ女が、まるで歌劇場の役者のように、優雅に歌い上げる。


 けれど、おかげで状況は大体理解した。

 レイン達を連れてくるべきだったかと悩んだが……連れてこなくて正解だったらしい。


 つまりは、そう。

 このゴスロリ女が全ての糸を引いていて、この女をなんとかすれば全て解決ってことだ。


 それなら、あいつらの手を患わせる必要も無い。

 これはまさに、俺向きの仕事だろう。



新作『バンシャク・バンパイア ~不死の吸血鬼、ビールを愉しむ~』掲載中です。

https://ncode.syosetu.com/n1836iv/

ぜひ、お読み頂ければ幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
SQEXノベル様のHPにて書籍版紹介ページがオープンしました(下の書影をクリック!)

WEB版第1章に該当する部分が丸まる読める試し読みも公開!ぜひご覧ください!


syoei



― 新着の感想 ―
[良い点] 続いていることとても嬉しく思います。 続き楽しみにしてます(*^^*)♪ [一言] 書籍を手にして読んで、とても楽しく拝見いたしました(●´ω`●) その後、なろうの作品を読み、途中までと…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ