06 商人の褒め言葉は信用するな
「う、わぁ……」
ベルの工房は普段よりも随分と荒れていた。
部屋の四隅には成功か失敗か分からない大量の武器が雑多に積み上げられていた。
「これ、全部試作品か?」
「はいっす。でもどれもしっくりこないんすよねぇ」
ベルはそんな残骸の山を漁り、幾つかの武器をこれまた雑に投げ捨て――否、仕分けていく。
それはどれも大剣の形状をしている。要するにデカい。
「普段だったらモノグ氏に最終調整は手伝ってもらうんすけど、今回は物が物っすからね。当たりをつけて成形しちゃうのが怖いんすよ」
「まぁ、滅多に手に入る品物じゃないからな」
俺は部屋の中央、台座に置かれたそれを見て溜め息を吐いた。
ベルに渡したのは結構前だが、手が加えられた様子はない。
「ダンジョン産の大剣……まったく、モノグ氏と組んでいると退屈しないっすねぇ」
「組んでるわけじゃねぇだろ。お得意様はやらせてもらってるけどな」
俺がベルに加工を頼んでいるのは、以前スノウと共にエクストラフロアに落ちた際に遭遇した甲冑の魔物、ガーディアンが持っていた大剣だ。
使えそうなものは何でも使うが俺達冒険者というもの。何かに使えないかと【ポケット】にぶち込んで持ち帰っていたのだ。
「見たことない金属っすけど、さすがはダンジョン産っすね。鍛冶屋としては不本意ながら、ぶっちゃけ、弄らないのが一番だと思うんすよね」
「お前ほどの鍛冶師でも、手を加えたらそれだけ質は落ちちまうってことか」
「腕を買ってくれるのは嬉しいっすけど、神器に分類される武器を弄るのは初めてのことっすから。自信はあまりないっす」
「つってもなぁ……」
2メートルほどある刀身を眺め、つい溜め息を吐いてしまう。
これだけのデカブツ、余程の大男でもなければ扱うのは難しいだろう。
ストームブレイカーなら、割かし高身長なのは俺、レインになるが、男性からの平均身長からしても小柄な部類だし、何より俺は無能、レインは戦闘スタイルが全く違う。大剣を扱うのはマイナスが多すぎる。
そして、大剣使いとなればサンドラになるのだが――彼女は小さすぎる。身長150㎝程度しかないため、2メートルの大剣は必然的に引き摺ることになってしまう。
「あっし、一つ案を考えたんすけど」
「ほう」
「サンドラさんにはモノグ氏を背負ってもらうんすよ。そして、要所要所でモノグ氏が【ポケット】からこの大剣を取り出すっす」
「あーーーなるほどね。大剣を運べないなら俺を運ぶってわけだ……どう考えても現実的じゃないだろ」
「っすねー」
人間ってのは結構重たい。それを背負って戦うっていうのはそれなりのハンデを抱えるのと同義だ。
俺は大剣を吐き出しても器用に消えれるわけじゃない。
当然ベルも理解しているのだろう、大して反論することなくあっさりとアイディアを取り下げた。
「まぁとにかく、弄れば弄るほど質は低下してしまうので、使用者となるサンドラさんに一番合った形に、できるだけ工数を削って加工する必要があったんすね」
「はえー」
「気の抜けた相槌っすねぇ」
「お前しかいないのに気合の入った相槌はいらないだろ」
次々と積み上がっていく武器、一部ガラクタを眺めつつ、俺は近くにあったイスにどかっと腰を掛けた。
「ま、こんなとこっすかね。後は――」
大剣を粗方選び終えたベルは、なぜか次に片手剣や槍、斧などを見繕い始める。
「おいおい、なんだか嫌な予感がするんだけど……」
「今回は普段と違って、お客さんを働かせないといけないっすからね。折角ですし、モノグ氏にも役立ってもらおうかと」
「武器の調整はサンドラ本人にやらすんだろ?」
「はいっす。だから、モノグ氏には仮想敵として役立ってもらうっすよ。これから、ダンジョンを下層に進めば進むほど、人型の魔物と接敵する機会も増えるらしいっすから。当然モノグ氏も知ってるっすよね?」
「まぁ、噂くらいだけどな」
実際、ボスクラスだと二腕二脚の魔物はこの間のゴーレムのように現れている。
そして、俺達よりも先を行っているパーティーの上げてきた話によれば、人間と同じような武器を使うトカゲの姿をした兵士みたいなものも現れるとか。
「なぁに、対人戦ならモノグ氏に勝る者はいないっすよ。良い訓練になるんじゃないっすか?」
「買い被り過ぎだから……」
「むふふ、ご謙遜を。そもそもあっしが最初に惚れこんだのは、他ならぬモノグ氏の腕になんすよ? まぁ、サポーターでアタッカー適正無しと聞いた時には酷い詐欺とも思ったっすけど」
「悪かったな」
「でも、おかげでストームブレイカーっていう面白い人たちが集まるパーティーとお付き合いできるようになったっすから、トントンっすかね?」
にしっと歯を見せて笑顔を浮かべるベル。
額に汗を浮かべながらも、その表情は清々しく楽し気だ。
「なんだよ、今日は随分と褒めてくるな」
「当然っすよ。モノグ氏はあっしのヒーローなんすから」
ゴンっという重たい音が響くのと同時に、ベルはぼそっとそんなことを呟いた。
床に投げ落とした重たそうなハンマーで掻き消そうとしたのは照れ隠しのつもりだろうか。照れ隠しにしては、なんというか、あまりしおらしいものを感じないけれど。
「……絶対裏あるだろ」
「さすがモノグ氏。やっぱり、バレちゃいます? ハイ。これ、今回の請求書っす」
ああ、いやだ。
おだて、おだてて、高い請求をするのがこいつら商人という生き物だ。
ただ、俺としても今回の依頼は相場が全く分からない範囲になるので、どんな額が来てもぼったくりなのか良心的なのか判断できない。
「う……ぐ……? ぐぉっ……! た、高い……!」
「神器の加工なんすから当然っすよ。ていうか、下準備とか諸々の手間を考えれば十分良心的っす」
「そ、そう、だな……なんとか支払えるし……」
「ん? ストームブレイカーさんくらいなら、なんとかってほどでもないと思うんすけど……え、もしかしてモノグ氏が自腹でやってんすか!?」
ベルからの指摘に、俺はつい視線を逸らす。まぁ、それが答えだ。
「はぁ……なんというか、モノグ氏の悪いところが出てる感じっすねぇ」
「あくまでこれは俺の興味本位だからな。全員の共有財産に手つけるほどのもんじゃない」
「そういうことなら分割払いでもいいっすよ。まけたりはしないっすけど」
「えー、ケチだなー」
「はぁ!? いつ死ぬとも分からない冒険者風情に分割払いなんて、とりっぱぐれのリスクを一方的に負ってやってるこっちの身になってほしいっすよ! モノグ氏だから手数料も要求しないんすからね!?」
「分かってるよ。友情に乾杯」
「じゃあさっさと請求書を懐に収めてくれっす。あと、ここに積んだ武器もこのラベルを順番に貼って【ポケット】に入れてくれっす」
「あいあい」
言われた通りに、粛々と従う俺。
普段の武器のチェックはこの工房で済ませるが今日はそうではないらしい。
まぁ、普段ならそこそこ広いスペースが空いているが、今は随分と窮屈だしな。
「あー、いいっすよねぇ。便利っすよねぇ、【ポケット】。ねぇねぇ、モノグ氏ぃ。モノグ氏がパーティー追放された暁にはうちで働かないっすか?」
「不吉なこと言うなよ。それに俺じゃなくても【ポケット】なら支援術師は大体習得してるさ。暇な奴なら探せばいくらでも見つかるよ。紹介しようか?」
「モノグ氏だから勧誘してるんすよ。分からないっすかね、この乙女心」
「へーへー、ありがたき幸せー」
そう何度も見え透いたおだてに騙される俺じゃあないぞ。
俺はベルの言葉をいなしつつ、引き続き散らばった武器を【ポケット】に詰めていくのだった。





