24 黒い空の上
「痛ぇ……」
ギリギリと、鳥の足が腹に食い込んでくる痛みについ呻きを漏らす。
などといっても、他の誰もいない空の上だ。弱音も吐き放題。こういう時に吐き出しておかなきゃ損……なんてルールはないが、カッコつけたって何にもならないのは事実。
誰も見ていない見栄なんて虚しさを倍増させるだけでしかない。
「あー、死ぬぅ……ん?」
不意に、真っ黒に染まった地上で眩い光が生まれるのが見えた。
あれは多分、泉の方だ。てことは……サニィのやつ、やりやがったな。
おそらく弓の神器化による光だろう。ウチも詳細は知らないとか言っていたから定かではないが、サニィなら間違いなく神器を手に入れると確信していた。
彼女は強い。冒険者、アタッカーとしての力量もそうだし、何よりも心が強い。
心の強さとは、決して何にも動じず崩れない硬さではない。たとえ折られたとしても再び立ち上がれるしなやかさがあるかどうかだ。
初めて会った頃の彼女は弱っていた。
自分の立場に疑問を抱き、レインやスノウに負い目を感じている。自己肯定感が弱く、自らを貶めてしまっている。
そんなか弱い女の子だったが、しかし、彼女は今、冒険者として大成している。
一度折られ、しかし再び立ち上がれることを知った者は強い。
何度困難にぶつかっても、乗り越えた先の未来を想像出来るからこそ、折れたままではいられない。
何度も立ち上がり、また歩き出す。歩き出さずにはいられない。前へと、栄光へと向かって。
「だから、サニィはたとえ武器を失っても、絶対に立ち上がれるってな」
まぁ、色々と苦労はしたが、普段迷惑をかけてばかりの相手だ。少し苦労を掛けられることに文句なんてありはしない。
「まぁ、それでも間に合うかどうかは際どかったが……っと!」
ひゅう、っと何かが風を切る音が聞こえた。
おそらく矢の音だが、怪鳥に着弾する様子はない。サニィの腕前ならもしも怪鳥が見えているなら外すことは無い筈なのに。
『モノグ、サン』
「っ……お前、ウチか?」
『そう、デス』
地上に送った筈のウチが、淡い光を放ちつつふよふよ寄ってくる。
そして、そのまま――俺の身体へとぶつかると、溶けるように消えてしまった。
「ウチ?」
『大丈夫、デス』
相変わらずたどたどしい声が、俺の頭に直接響く。
『ウチはモノグサンの中、デス』
「勝手に入ってくんな。家賃払え」
『サニィサンは、武器、手に入れた、デス』
「ああ、分かってるよ」
俺はドヤ顔を浮かべつつも、内心ホッと溜め息をついていた。
サニィのことを信じていたといっても、実際に手に入れたという事実を聞けばやはり安心する。
「さっきの矢が放たれた音……ウチはアレに乗ってきたのか?」
『ハイ、デス。モノグサンがやったみたいに、デス』
ウチが言っているのは俺がウチを地上へ送る時、スリングショットの弾に憑依させて飛ばしたことを言っているのだろう。
コイツとサニィ達が話せるようにする術式を組み立てる際、偶然、妖精にはそういう特技が備わっていると発見できたわけだが、初めてやったことをすぐにサニィと実践するとは……ウチのやつ、中々ふてぶてしいというか、柔軟というかだな。
「にしたって、お前はよく俺の位置が分かったな。妖精は真っ暗闇の中でも物が見えたりすんのかい」
『違う、デス。でもウチはモノグサンが分かる、デス。理由は、後で、デス』
「歯切れ悪いな。なにか隠してるのか?」
『後で、デス』
ウチはツンと俺の追及を躱してしまう。
自分から寄ってきたり、冷たくしたり、なんとも自由な奴だ。まぁ、今この状況においては特段気にするべきことでもないけれど。
「とにかく、今は地上のサニィに俺の居場所を伝えることが先決だな。あいつの射撃技術なら、この遥か上空を旋回する怪鳥も軽々と射抜いてくれるだろうし。どうしよう、光源でも焚くか? 姿を浮き彫りにできるわけじゃないから、最悪俺が射抜かれちまうって可能性も無きにしも非ずだけど」
『大丈夫、デス』
「大丈夫って、これもか?」
『ウチを通して、モノグサンの位置――正確にはモノグサンの持つハンマーの位置をサニィサンの武器、“モニカ”へと繋げた、デス』
「ん……つまり、俺が何もせずとも、サニィに位置が伝わってるってこと?」
『ハイ、デス。今ウチはモノグサンの中にいる、デス。なのでモノグサンの位置は、頭からつま先まで、ハッキリ届いてる、デス』
「へ、へぇ……」
俺の中にいると言われると、なんだかちょっと気持ちが悪いというか……妙な感じだ。
「ん? てことは、サニィはもうとっくに怪鳥を捉えて――」
そう、俺が気付きを口にしかけた直後、ズバァアン! とけたたましい音がすぐ耳元で鳴り響いた。
「え……?」
直後、怪鳥からの締め付けが緩み、全身を浮遊感が包む。
怪鳥に目を向けると、俺を掴んでいた足が根元からバッサリと砕き千切られている。
当然それはサニィが矢で射抜いたからだと思うのだけれど、それはあまりに唐突過ぎるというか――
「お、落ちる……!!?」
忘れてはいけないのは、俺が今、地上から離れた遥か上空にいるということで、当然、俺に翼があるわけではなく……
「うわあああああああああっ!?」
俺は突然に抗うことも出来ぬまま、黒い空の中へと放り出されることとなった。





