15[epilogue] そして彼らは今夜も宴を開く
ワープポイントから地上へ戻ると、外は既に暗くなっていた。
明け方にダンジョンに入ったわけだから、ほぼ丸一日、中で過ごしていたことになる。随分と短く感じたが、途中寝てしまっていた時間もあったのだし、妥当と言えば妥当か――
「モノグ……スノウ……?」
「え?」
よく聞き慣れた声が耳を打った。
反射的にそちらへ顔を向けると、ダンジョンの入口前に固まって待機していたレイン、サニィ、サンドラの姿があった。
「あれ……? お前らどうしてここに」
「…………」
俺は思わずそんな言葉を漏らす。
スノウ、サニィ、サンドラは突然の状況に驚いたまま固まっていて――しかし、レインだけはすぐに驚きから解放されると、俺とスノウの間で交互に視線を彷徨わせ――そして、
「良かった……心配したんだよ、本当に」
そう言いつつ、スノウを思いきり抱き締めた。
「へっ!?」
「おおっ」
「あら」
「……?」
そんな突然の行動に驚き、再度固まるスノウ。
彼にしては珍しい、彼からの直接的なアプローチに感心してしまう俺。
そして、これまた驚いた様子のサニィと、あまり状況がよく分かっていないのか首を傾げるサンドラ。
優しく気遣うように、しかしもう離さないとアピールするように力強くスノウを抱きしめる様は、まさにイケメンならではの所業だった。イケメンだから許される、ではない。これができるからイケメンなんだと思い知らされる感じ。到底俺には真似できそうにない。
もしかしたら、「スノウは自分のものだ」という俺に対するアピールも含まれているのかもしれない。鈍感野郎にそんな意識があるのかどうかは定かではないが。
まぁ、そんな俺の邪推は今はどうでもよくて。
当のスノウはレインの腕に収まり困惑しつつも、借りてきた猫のように大人しくなってしまっていた。突然想い人から熱烈なハグを受けたのだ。無理もない。
まぁ、これは今日死地を乗り越え、冒険者としても魔術師としても、そして1人の人間としてもステップアップを果たしたスノウへのご褒美のようなものなのかもしれない。それこそ、レインは状況を知らないから、まさに神様の悪戯、天からの贈り物と言えるだろう。
うーん、これぞハッピーエンド!
「モノグ。説明してもらえるんだよね?」
「え? あ、ああ、もちろん」
うんうん、と少し感動しながら頷いていた俺に、レインは冷や水を掛けるように少し怒った感じの口調をぶつけて来た。
俺は彼のあまりの落差に戸惑いつつも、「問題無いよな?」とレインの腕の中のスノウとアイコンタクトを取りつつ、説明パートへと移行するのだった。
とはいえ、エクストラフロアがー宝箱がーなんて話を他の冒険者もいる場所でやるのは得策ではない。
情報とは冒険者の命だ。時に高額でやり取りされる商売道具にもなる。
それに――もしもエクストラフロアの話を聞いて、欲望に目を光らせた冒険者が現れ命でも散らせば……その仲間、知り合い、家族らからの非難はその話を最初にした俺達へと向けられるだろう。
ある意味盗み聞きされた俺達は被害者なわけだが、そんな理屈が通用するほど世の中は甘くはないのである。
そういうわけで、宿屋の、それも俺とレインの部屋へと移動し、改めて今日何があったのかを伝えた。
「そう、エクストラフロア……まさか本当にそんなものが存在していたなんて」
「2人とも、そんな状況だったのによく無事で……凄いわね」
神妙な顔をして頷くレインと、感心するように、ホッとするように微笑むサニィ。
ちなみにサンドラは俺のベッドで勝手にゴロゴロしている。指摘すると脱線間違い無しなので無視安定だ。
「……責めないの?」
どこか弛緩した空気の中、スノウはいじけるように口を開く。
当然会話に入らずマイペースな姿勢を見せているサンドラに対してではなく、俺達の勝手な行動についてだ。
ましてやスノウは周囲に自身の抱える悩みを隠し、今回の原因を作ったのだから。
俺にも、レイン達がどれだけ俺達を心配してくれていたのかは痛いほど分かる。
彼らは3人ともダンジョンに潜れる装備をしてあそこにいた。防具や武器の携帯はもちろん、普段は俺が【ポケット】で運搬しているようなダンジョン探索に役立つ道具や食料一式をそれぞれのリュックやポーチに詰めてもいた。
多分、町中を探し回っても見つからず、けれどこの街から外に出たという情報も無く、後はダンジョンのみ、という状況だったのだろう。もちろん、ダンジョンの中からノーヒントで人を見つけ出そうなんて途方もない話だ。それこそ入れ違いにでもなってしまったらと思うとぞっとする。
当然、レイン達には責める権利がある。スノウだけ、とは言わない。俺だって同罪だ。彼女の予測してなお、黙っていたのだから。
「責めないよ。だって、ちゃんと反省はしてくれているみたいだし……なにより、2人とも無事だったんだからね」
しかし、レインは責めないと言った。この懐の広さ……やっぱりハーレムの主たる器というやつか。
「もちろん、スノウがそんな悩みを抱えているって教えてもらえなかったのは少しショックだけど」
「う……ごめんなさい」
「ううん、冗談。誰だって、人には言えない悩みのひとつやふたつは持っているものだし、隠しておきたいって気持ちは分かるよ」
ぐぅの音も出ない程に寛容さを見せつけてくるイケメン。
そんなイケメンに見惚れていると、イケメンは今度は俺に視線を向けて来た。
「にしても、幼馴染のボクやサニィも気が付けなかったスノウの悩みをばっちり当てちゃうモノグはなんなんだろうね? いつかボクらも丸裸にされちゃうのかな?」
「いや、今回のはただの運で……って、なんでそう期待するような目してんだよ」
「そりゃあ、期待しているからさ。モノグならってね」
随分と意味深に言いつつ、ニッコリと微笑むレイン。
まるで自分にも深刻な隠し事があると言いたげだ。そういうのは女性陣に頼めよ、と思わなくもないが。
「まぁそれはそれだ。2人とも、勘違いしないでね。2人を責めないのは結果的に2人が無事で、ちゃんと問題を解決したからだから。そうじゃなかったらすっごく責めてたよ」
「う……」
「はい……」
上げて落とすを地で実行するレインに俺とスノウは再び肩を落とした。
「よぉし、じゃあ2人の無事を祝して酒場にでもくりだそっか!」
「そうねぇ、スノウちゃんにはちょーっと追加で聞きたいこともあるし」
「ごはん、ごはん」
そう、ここでハイ解散とならないところが我らストームブレイカーの良いところであり、厄介なところでもある。
酒が入ればもっと感情的につつかれることになるだろうし、今みたいに穏便にはいかないだろう。
そんなことを予期しつつも、俺とスノウに拒否することなどできるはずもないので素直に従う。
こうして、急遽明日の予定もオフに塗り替え、夜通し飲める環境を整えた上で、ストームブレイカーは夜の街へと繰り出した。
当然、予想通り先ほどまでの理路整然とした空気とは全く違う、いちゃもんとも思えるダル絡みや、日頃溜まっていたであろう鬱憤を(なぜかスノウからも)ぶつけられることとなったのだが、トータルで見たら楽しい時間になった。
生きていなければ酒も味わえない。馬鹿話に花を咲かせることもできない。だから余計に酒が美味い。
こんな時間が当たり前で、いつまでも続く……なんて、俺達は誰一人、口が裂けても言えはしない。
だからこそ、今を噛み締め、事あるごとに理由をつけて酒の席を設ける。
そして明日も明後日も、俺達は願い、全力を尽くす。
また、この当たり前に帰ってこられるように。
レイン、サニィ、サンドラ、そしてスノウ。
この4人と一緒にいられるように。
そのために必要なら、レインがほのめかしたような彼らの秘密にも向き合ってやるさ。
なんて思いつつ、同時に、できれば今回みたいにハードな奴は勘弁してほしいなぁとも思ってしまう俺だった。





