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Oh! my teacher!!  作者: 飯島 里佳
1/1

幼馴染は外国人

高校時代とは人生の中でも一番思い出に残りやすい時期。

良くも悪くも生涯記憶に残りやすい時期とも言えます。

特に、恋愛に関しては。


主人公の真夏も恋や進路に悩むお年頃。

何のとりえもない全くの普通な女の子の真夏ですが、二人の男性から好意を持たれ悩んでいます。


人生で一番楽しい高校時代。

子供でもない、大人でもない。

微妙な世代。


きっと共感してもらえると思います。




うだるような暑さ。

ミンミン鳴くセミ。

高い青空。

入道雲。



高野真夏。

17歳、花の女子高生。

特技は…アイスの早食い。

部活はバスケットボール部マネージャー。

勉強は中の若干下。

性格は明朗活発。

趣味はYouTube鑑賞。

将来の夢は、未だ無い。

強いて言えば大好きな人のお嫁さんになること?


「あー…暑い…。夏休みに部活なんてやってられないよ…。」

「仕方ないでしょ、真夏はほんとにぐうたらね。」

「加奈子はいいね。しっかりモノで。」

真夏と一緒に居るのは、大河加奈子、幼なじみ。

保育園の頃からの盟友だ。

真夏にいつも突っ込みを入れてくれる頼もしい友だ。

学校の中では加奈子は頭も良く、美人の部類に入るが本人は全く気にしていない。

真夏にとっては自慢の幼馴染だ。


「高野ー!職員室から保冷剤持って来い!。」

真夏は大声で言われた。

「げー、相沢キャプテンだ。めんどくさー。」

「何か言ったか?」

「何もありません…今すぐ持ちに行かせていただきます。」

真夏は相沢に言われ、イヤイヤ返事をした。


バスケットボール部キャプテン相沢海斗。

いつも真夏に用事を言いつける。

真夏本人は気付いて居ないが、相沢は真夏に一目惚れで2年近く片想いをしている。

本人も口には出して居ないが…見ていたらわかる程の教師や全校生徒の知る所だ。

だが、思われている真夏は相沢の事はただのドSの意地悪な人だと思っている。

相沢自体も好きな女の子に対しての扱い方が小学生並みの為、真夏からは敬遠されている。

「真夏、相沢キャプテンにほんとに愛されてるわね。」

加奈子がニコニコして面白がって言う。

「やめてよ!私は初恋の彼を待ってるの!大きくなったら迎えに来てくれるって言ったの!」

初恋の昔隣に住んでいたアメリカ人の男の子の事が未だに真夏は忘れられず、健気に約束を信じていた。

「あー…アイル君だっけ?真夏の家の隣のお父さん海軍の?」

加奈子も一緒に遊んだりしていたのでうっすらと覚えていた。

「そうよ!アイルの事。私、待ってるんだから!他の男なんて興味ないわ!とりあえず職員室行ってくる!」

真夏はそう言って職員室へ走って行った。


校舎へ入ると物凄く静かだ。

夏休みのせいで校舎の中はシンと静まり返っている。

職員室の前まで来ると教師たちの笑い声や話し声が聞こえてきた。

「失礼しまーす!」

真夏は元気よく職員室へ入った。

「神田せんせーい!」

神田先生、バスケットボール部顧問だ。

「神田先生いないのー!」

「おー、高野。どうした?」

「松下先生、相沢キャプテンが保冷剤持って来いってうるさくて。」

「またお前パシリかー。」

「酷いでしょ?」

「ほんとだなぁ。あ、神田先生は今来月から来る英語の臨時講師の先生と話してるよ。隣の会議室に居るから呼んでみろ。」

「いいの?話してる最中に。」

「今、雑談しているだろうから。いいよ。」

「って、言うか…神田先生英語話せたっけ?」

「神田先生は一応話せるぞ。」

「えっ!?初耳!てか意外!見てみたいから行ってくる。」

真夏は隣の会議室をノックした。


「失礼しまーす。」

真夏は扉を開けた。

「おー、高野。どうしたー。」

開けた瞬間。真夏は固まった。

クセ毛の黒髪に白い肌。どう見ても大きそうな体。目は薄いブラウン。そこに居るだけで存在感バッチリの外国人。

「………アイル?」

「高野知ってるのか?」

「あっ!?あの、昔私の家の隣に6歳歳上の外国人の男の子が居て…で…おじさんが海軍だったんだけど…日本での活動が終わって…11年前にアメリカに帰って…それ以来会えて居ないんですけど…まさかね。似ているけどきっと、他人の空似ですよね。すみません、英語の先生。あ!神田先生!保冷剤ください!相沢キャプテンに早くしろって怒られる!」

「また、お前に頼んどるのかぁ。相沢は高野が好きじゃないのか?話したくてやたら言うんだろ?」

「やめて!先生!相沢キャプテンなんかに好かれるぐらいならゾンビに好かれた方がマシです!」

「相沢可哀想だなぁ…片思いだわ…。」

「は!?マジ無い。」

冗談じゃないという顔をして真夏は神田先生と給湯室へ行った。

「高野は相沢イヤなのか?」

「私…さっき話した11年前に離れちゃったアイルの事が未だに好きなんです。私が大きくなったらアイルが迎えに来てくれるって言ったんです。子供の約束だからもしかしたらアイルも覚えてないかも知れないけど…待ちたいから待っているんです。」

「高野も切な過ぎる片思いだなぁ。」

「先生ありがとう!じゃあ鬼キャプテンの所に戻ります!」

真夏は体育館へ走って行った。



「相沢キャプテン!はい!保冷剤!」

真夏は相沢に保冷剤を放り投げ、盟友加奈子を探しに行った。

「加奈子ー!加奈子ー!」

「何?真夏。」

「かっ!加奈子!ちょっ、ちょっと来て!」

「ちょっと真夏!どこ行くの!?」

真夏は加奈子の手を引っ張り会議室の窓の所まで走り出した。

「真夏!どうしたの!」

「かっ!加奈子、アイル!!」

「あー!?何言ってんの!?」

「アイルが居た!!」

「はあっ!?」

「らっ、来月から臨時講師で英語の先生で来るんだって!」

「アイルが?」

「まだ確定じゃないけど、顔が似ていて…加奈子に見てもらおうと思って!」

「えーっ!?ちゃんと覚えてないし、大人になってアイルだって顔変わってるでしょ!?」

「そうだけど…。加奈子見て!お願い!」

加奈子は真夏に押し切られ会議室の窓を覗いた。

「…居ないけど…。」

「えっ!?うそっ!?」

会議室はもぬけの空だった。

「うそーっ!ショック…。」

「とりあえず、体育館に戻ろう。相沢がまたキレるよ?」

「うん…。」

真夏はトボトボと体育館に戻った。


「高野…お前は大河連れて何処へ行っていた?」

「しょ、職員室へ…。」

「何の為に?」

「外国人の先生の顔をチェックしに…。」

「何で外国人の顔のチェックへ行くんだ?…高野、お前今日全部ボール磨いて帰れー!あ、大河はいいから。高野、お前全部やれよ。」

「…はい…。」

真夏は暑い体育館で一人残りボール磨きする事になった。

真夏はボールを磨きながら考えていた。

さっきの外国人はきっと絶対アイルだと。

もしかしたら、迎えに来てくれたのではないかと考えていた。

ボールを磨いていると…


「高野、まだやってんのかよ。」

「げ!相沢…。キャ…キャプテン…。」

「げ!とは、随分な挨拶だな。」

「………すみません…。」

「っとに、世話の焼けるヤツだな。」

「頼んでません。」

「可愛くねーなー。」

「私はスマートな外国人男子が好きなんです。日本人には興味ありません。」

「……さっきの、話していた英語教師かよ?大体知らねーヤツだろ?」

「昔、幼なじみにアイルって6歳歳上の外国人の男の子が隣に住んで居たんです。アイルと最後お別れの日に…私の好きなアイルのぬいぐるみくれて…大きくなったら真夏とこのぬいぐるみ迎えに行くから待っていてって言われて…。それでずっと…現在に至ります。」

「……やっぱ外国人は言う事違うな。俺はそんな事言えねーや。」

「…日本人は無理ですね。特に相沢キャプテンは未来永劫無理ですよね。」

相沢は真夏に言われてムッとした。

「まぁ、一生独身で頑張れ。そんな都合良く迎えに来ないだろ。今頃彼女とよろしくやってるよきっとな。」

相沢は皮肉たっぷりに真夏に言った。

「じゃあ、俺はもう帰るから。あっ、これやるわ。」

相沢は真夏が好きなカプリコアイスを土産に置いて行った。



「真夏〜、終わった?」

「加奈子ぉ〜。やっぱり加奈子は私の盟友だわ〜!」

「あー。もー!早く片付けて帰るよ!」

「はーい!」

真夏は加奈子と帰宅した。


「相沢が愚痴ってたけど…真夏さぁ、アイルの事話したんだね。」

「…うん。って言うか相沢キャプテン何で加奈子に愚痴るの?」

「…バカ…アイルは6歳も歳上だし。今…あー、社会人かぁ。彼女くらい居るんじゃない?それに、11年も音沙汰ナシだよ。希望薄いでしょ。」

「…っ。ひぃっく。っく。」

「え!?泣かないでよ!はぁー、ほんとに外国人の男の子は期待させる事言うから…真夏みたいな純朴なのは…信じちゃうから困るのよね。」

「アイルはそんな人じゃないもん!加奈子のバカ!」

「バカって…とりあえず二学期になったら今日の外国人の正体わかるから。あと、二週間夏休みの宿題頑張れ。」

「!!!!!…ヤバイ…英語が…数学が…。」

「あんたそんなんで大学から留学するなんてよく言ったわね。どの口が言うのよ。本気でやらないとヤバイよ。あんたの事だからアイル探しに行くとか言うんだろうけど。」

「さすが!加奈子。よくわかってるね!」

「あんたの友達何年やってると思ってんの?あんたの頭の単細胞はよくわかっているつもりよ。」

「加奈子ひどーい!でも加奈子もアメリカ一緒に来てくれるよね?」

「…私、イギリス行きたいんだけど…。」

「えっ!?」

「しかも二学期に進路希望の書類出す事になってるの忘れてないわよね?」

「え……そうだっけ……。」

真夏は加奈子からの話で唖然とした。



「ただいまー。お母さん居るー?」 

「あー。真夏お帰り。遅かったわね。」

「うん。色々あって。今日ね、昔隣に住んでいたアイルにそっくりな…男の人が学校に居たの。神田先生と話していて…二学期から臨時講師で来るって。お母さん、アイルのお家から手紙とか連絡とかこの11年の間に無かった?」

真夏は母親に何か聞いてないか知らないかを期待を込めて聞いた。

「あー、アイル君?一年に数回はアイルのママとこの11年間で文通していたわよ。言ってなかったっけ?スマホ普及してからはよくメールしてるわよ?」

「えっ!?聞いてない!!じゃあ、アイル今何してるの!?」

「何って…。アイルのママから内緒って、サプライズしたいからって…言われてるから…内緒です。楽しみにしていなさい。」

「お母さん…それサプライズにあんまりなってない…。何かあるの匂わせ過ぎ。」

「あら。そうね。…真夏、宿題は?」

「あ…。」

真夏は部屋へ戻った。

真夏の部屋には11年前にアイルが真夏に渡したクマのぬいぐるみがある。

それに、アイルと撮った写真。

「アイル…会いたいよぉ…。…あ…宿題やろ…英語…喋れないと…アイルとお話しも出来ない…。」

真夏は、諦めて宿題に取りかかった。





二学期ー

「おはよー!加奈子〜。」

「おは。宿題終わった?」

「うん!わかんないとこデタラメだけど!」

「…はぁ…あんた今学期は来年の受験に向けて進路相談とかめちゃ始まるよ?どうするの?留学するなんて言ったら我が校始まって以来のバカって先生に嘆かれるわよ?」

「…加奈子の毒舌って愛があるよね!」

「そう思っているのはあんたくらいよ。」

真夏と加奈子は学校玄関についた。

そこに神田先生が真夏に声をかけてきた。

「高野〜、職員室に来てくれ〜。」

「神田先生おはよー。えー…また?」

「どうせ相沢が何か用事頼んでたんじゃないの?」

「…あの鬼か…。もー!先生何ー?!」

真夏と加奈子は職員室へ行った。



職員室ー

「すまんなー、朝から。相沢が…」

「やっぱ相沢キャプテンか…で、何ですか?」

「このプリントを印刷して相沢のクラスへ…。」

「えーっ!?私がやるんですか!?」

「高野…お前マネージャー…。」

「あ、そっか…。って、言うか加奈子もマネージャーじゃない!プリント印刷なんて…だったら夏休み中に言って欲しかった!」

「まぁ、そうだな。相沢も二学期早々お前の顔が見たいんだろ。仕方ないからやってやれ。」

「モーっ、先生も酷い!私ゾンビの方がマシって言ってるじゃない!」

そう言って真夏が勢いよく廊下へ出た途端…

"ドンっ"

真夏は何かにぶつかって後ろへ倒れそうになった。

だが倒れる前に誰かに腕を掴まれた。

「ったぁー。もぉー!朝から何よー!」

真夏は顔を見上げた。

見た瞬間、真夏の時間は止まった。

夏休みに見かけたアメリカ人の英語の臨時講師だ。

何となく見覚えのある雰囲気。

ちょっとクセ毛な黒髪、薄いブラウンの瞳、高い鼻、優しい顔立ち…長い手の指。

背は随分高くなっているが…


加奈子が口を開いた。

「アイル君!?アイル君じゃないの!?真夏!やっぱアイルだよ!随分おっきくなったのね。190センチくらいあるんじゃない?」

加奈子はびっくりして喋りだした。

「ダイジョウブ?」

カタコトの日本語で外国人講師は言った。

「だっ!!大丈夫です!ありがとうございます!…ってか…アイルなの?ほんとに?アイル・ダグラス・ウィルソン?」

真夏はびっくりなのと信じられないのとで涙目になった。

「高野…やっぱお前の初恋の人か…。」

「神田先生…うるさい、黙って。感動の再会なのに。」

加奈子が神田先生に鋭いツッコミを入れた。


「yes.that'slight.」

「アイル…。会いたかっ…」

と、真夏が言いかけた時…


「高野ー!お前プリントいつになったら出来…」

相沢が職員室に居る真夏に向かって走って来た。

「もーっ!!相沢キャプテン最悪!!アイルごめんね、また放課後ね!!」

真夏はダッシュで廊下を走って逃げた。

「高野ーっ!まてーっ!!」

アイルの前を相沢も俊足で駆け抜けて行った。

「お前ら始業式始まるぞ〜!!」

神田先生がのんびり言った。

加奈子とアイルは唖然としていた。




「はぁ、はぁ…ここまで来たら相沢キャプテンも来ないでしょ。」

真夏は全力で女子トイレへ逃げ込んだ。

しかも奥の校舎の一番隅のトイレだ。

だが…

「高野ーっ!!」

「きた…何で〜…しつこい〜…。」

真夏は息を殺して身を潜めた。


"キンコンカンコーン"

「3-A、相沢海斗君。至急教室まで戻ってください。」


相沢を呼ぶ校内放送が入った。

「チッ。あと少しで捕獲出来るところだったのに!高野!お前部活の時覚えとけよ!」


相沢は真夏が居るトイレから去った。

「やっと行った…。アイルと話したかったのに…。」

真夏は心底残念そうに凹んだ。


「まーなーつー。そこでしょ?迎えに来たよ。」

加奈子が探しにきてくれた。

「か〜なぁこぉ〜!」

真夏は加奈子に抱きついた。




「あーあ、アイルと話したかったのに。」

「まぁまぁ、今日の夜とかあんたの家に来るかもよ?」

「…お母さん何も言ってなかった。」

「んー…サプライズ?」

「私にとっては相沢のやたら追っかけて来られるのが要らないサプライズだよ…。」

「いや、あれ愛だから。」

加奈子は真顔で言った。

「あれ、愛だったの?????」

真夏は顔面蒼白になった。

「普通気付くだろ・・・。」

加奈子は頭を抱えたくなるような気分になった。



始業式が始まった。

校長の長い話が終わり、いよいよ二学期から来た先生の紹介になった。

「では、二年生の英語を担当していたメアリー先生が産前産後休暇に入りそのまま育児休暇に入るので、今日から二年生の英語の担当は『アイル・ダグラス・ウィルソン先生』が担当されます。アイル先生は先月アメリカから来たばかりです。お歳はまだ23歳です。では、先生自己紹介をお願いします。」


「ミナサン、ハジメマシテ。アイル・ダグラス・ウィルソンデス。ミナサントエイゴヲベンキョウシテイキマス。ヨロシクオネガイシマス。」

アイルはカタコトの日本語で話した。

「真夏。一応あの人日本語話せたっけ?」

「私も小さかったから覚えてないけど…カンタンな日本語ならじゃない?」

真夏はアイルをじーっと見ていた。

「高野、お前外国人好きなの?」

隣に座っていた同じクラスの佐野圭吾が聞いてきた。

「えっ!?あの人多分私の幼なじみなの。」

「えっ?!お前帰国子女なの?頭悪いのに。」

「頭悪いは一言余分よ!それに、逆。アイルが昔私の家のお隣さんだったけど、お父さんの仕事でアメリカ帰ったの。」

「ふーん…幼なじみかぁ。」

「加奈子も知ってるよ、アイルの事。」

「ふーん…。」

圭吾も興味深そうにアイルを眺めていた。


始業式が終わり教室に戻ると、担任がアイルを連れてきた。

「はーい、お前ら席着けよー。」

担任の鈴木先生が言った。

「今日からウィルソン先生が2 Bの副担任についてくださる。お前ら困らせるなよ〜。」

鈴木先生が言った。

真夏はアイルをじっと見た。

アイルは私の事を覚えているんだろうか?

アイルは相沢の言う通りもう彼女はいるのだろうか?

アイルは……アイルを見ながら考え事をしていると…

「高野!高野!大丈夫か?お前。朝から相沢に追っかけられて疲れとるんか?」

鈴木先生がいきなり話しかけて真夏は我に帰った。

「違います!で、何ですか。」

「おまえ…何ですかって、みんなウィルソン先生に一人ずつ自己紹介していて、次高野の番だぞ。」

「え!?あー…高野真夏です。8月19日生まれです。真夏に生まれたから真夏って名前です。特技はアイスの早食いです!小さい時に家の隣の外国人のお兄さんとよくやっていました。それからの特技です。バスケットボール部のマネージャーです。目下の悩みは3年の相沢キャプテンにやたら追っかけられる事です。」

真夏は自分の事とアイルに悩みを言った。

相沢の悩みに関してはクラス中大爆笑になった。


「Nice to meet you, too. I am good at speed eating of the ice cream, too. In addition, will you compete with me?」

アイルは全英語で答えた。

真夏は最初の方はわかったが後は分からず…加奈子の顔を見た。

「僕もアイスクリームの早食いが得意だから、また僕とも競争してくれる?って!」

「は!あ!yes!yes!」

「thank you.manatu.」

「あ、はい。」

真夏は席に座った。

他の生徒が自己紹介を始めた。

『僕もアイスクリームの早食いが得意だから…。』

真夏はアイルが自分の事を覚えているのか不安になった。

アイスの早食い…色気の無い事をみんなの前で言ってしまった…真夏は若干落ち込んだ。



11:30

「真夏!部活どうする!?」

「ごめん!相沢に用事あるから帰るって言っておいて!」

真夏はダッシュで教室を出た。

アイルは?

職員室に行くと松下先生が居た。

「せっ、先生、アイル先生は?」

「アイル先生は…帰られたよ。」

「へ?」

「一応非常勤だからな。」

真夏はとぼとぼと自宅へ帰った。



「ただいまー。」

玄関を開けるとやたら大きいスニーカーがあった。

「誰の?これ?」

「真夏、お帰り。あんた早く上がりなさい!」

「へ?」

「あなたが会いたかった人が居るわよ…」

母の含み笑いで真夏はリビングへ急いだ。

扉を開けると…


「hi!manatu!」

「アイル!!」

真夏はアイルにハグした。

アイルは立って真夏を11年ぶりに抱きしめた。

「I always wanted to see you.」

(ずっと君に会いたかった。)

「私もアイルに会いたくて、会いたくて苦しかった。」

(I also wanted to meet you)


「あら、真夏英語話せたっけ?」

母が不思議そうに聞いた。

「……話せません。簡単な単語拾ってそうかな?くらい?」

「あんた…アイル君と話すのは無理じゃないの?」

「…っぐ…。」

アイルは日本語の理解は出来るが、長年日本を離れていた為日本語は簡単な言葉くらいしかわからないらしい…。


話せるかわからないが、真夏はアイルと真夏の部屋へ行った。

子供の頃の自分達の写真。

そして、アイルが真夏に置いて行ったぬいぐるみ。

「ヌイグルミ…。」

アイルは日本語で言った。

「アイルだと思って持っていたの。ずっと。」

「マナツ、エイゴデキナイ?」

「…ぐっ…。ア、リトル?」

真夏は苦し紛れに言った。


「バカはさっさと勉強しろ。」

アイルは流暢な日本語を話、真夏の部屋を出て行った。


「…へ?…はい?…何?今の?」

真夏はアイルの日本語に呆気に取られた。


「日本語はなせるんじゃーん!!」


真夏は悔しくて叫んだ。

真夏は加奈子に電話した。


『かなこぉ!!』

『ウザっ…何?』

『ウザって言わないでよ!アイルが!アイルが!』

真夏は事の顛末を加奈子に話した。

『つまり、アイルは日本語しっかり覚えていて、しかも流暢な日本語だったと。とどめにバカはさっさと勉強しろね。ウケるわ、アイル。』

『かなこぉ〜ひど〜い。』

『で、あんたどうすんの?英語マジ勉強しないと…アイルに更にバカ認定されるわよ?』

『もうされてるよ…。』

『はぁ…YouTubeの英会話初級編見て勉強しなさい。あんたはそこからね。』

『あぁ〜い…。』

真夏は加奈子に言われYouTubeの英会話初級から始める事にした。




翌日-

「たーかーのー!」

「ひっ!!出た!!」

真夏は相沢が昇降口で仁王立ちして待っていたのに出会したので逃げの体制に入った。

が、即座に首根っこを掴まれた。

「相沢キャプテン…あの、猫じゃ無いので首根っこ掴むのは…。」

「高野、俺は昨日お前に何を頼んだ?」

「…ぷ、プリントの印刷…です…。」

「で、昨日お前は学校終わった後どうした?」

「き、…帰宅しました…。」

「部活も無断欠席だよな。」

「かっ、加奈子には伝えました。」

「あぁ、大河からは聞いたが…当の本人からは何も聞いてない。」

「………じゃ、じゃあ1時間目が始まっちゃうんで……。」

真夏はそのまま逃げようとした。

だが、相沢は簡単には離さなかった。

「今から部員分プリントの印刷をしろ。」

「…さっ、30枚ですよね…。」

「あぁ、わかったらさっさと印刷室に行けーっ!」

「きゃーーっ!!」

真夏は叫びながら印刷室に走って行った。



"ガシャン、ガシャン、ガシャン…"

「おー、高野。とうとう相沢に捕まったかぁ。」

神田先生が真夏に話しかけた。

真夏は涙目で、

「神田先生…あの人、ドSですか?しかも三年生なのに…何でまだ居座っているんですか…?」

「うーん、本人の希望だからな。後任育てさせて欲しいって。」

「それ、二年生のキャプテンの柚木は了承しているんですか?」

「うーん。どうだろう?まぁ、そうは言っても12月の終業式までって言ってあるし。」

「…まだそんなに居るんだ…。」

真夏は絶望的気分になった。

まだ後三か月半も付き纏われるのか…。

プリントを印刷しながら遠い目をした。



「真夏ー!担任が真夏は休みかよ!?って。まだ教室来られない?」

加奈子が心配して呼びに来た。

「…加奈子ぉ…相沢は鬼だよぉ〜…。もう授業始まるって言ったのに…直ぐやれって…。」

「さすが相沢だわ。とりあえず、もう行こう?遅刻になっちゃうよ?」

「でも!印刷やらないと、部活の時にまたしつこくネチネチ言われるよ!」

「真夏、内申の方が大事よ。」

加奈子はそう言って真夏を連れて教室へ歩いた。

一時間目の授業が始まる所だった。

副担任のアイルは職員室に居るようで、教室には居なかった。

真夏は昨日アイルに言われた言葉がこびりついて離れなかった。

『バカはさっさと勉強しろ。』

真夏は暗い気持ちになった。

留学したいと思っていたが…アイルにあんな暴言を吐かれたら…もう側に居たくなくなる。

でも、アイルの本心では無いと信じたい自分も居る。

真夏は授業中そんな事を考えながら過ごした。


「真夏、次英語だね…。」

「うん、バカだから困ったわ…。」

「気にしてる?」

「してないって言ったら…うそよね。」

真夏はそう言って薄く笑った。


英語の授業が始まり、真夏は黒板をぼーっと見ていた。

アイルが流暢な英語で教科書を読み、カタコトの日本語で説明する。

でも、真夏の耳には全く入ってこない。

昨日の言葉が頭から離れない。

真夏は急に立ち上がった。


「先生、体調が悪いので保健室へ行って来ます。」

真夏はアイルが返事をする前に教室を出て行った。

廊下を歩いていると、涙が溢れてくる。

どうして加奈子の様に賢くないんだろう。

どうして頑張れないのだろう。

どうして…あんな酷い事を言われたのだろう。

どうして…迎えに来るって言ってくれたのに…。


真夏はフラフラと保健室に入った。

養護の佐藤先生が真夏に気付いた。


「あらー、真夏じゃん。どうしたの?熱?」

「さどぉじぇんじぇー…」

真夏は保健室に入った途端大泣きしだした。



佐藤先生は真夏の話を辛抱強く聞いてくれた。

小さい時の約束。

11年間ずっとアイルを待ち続けたこと。

アイルに再会出来て嬉しかったこと。

それなのにバカ呼ばわりされて悲しかったこと。

だからアイルの授業を聞くことが堪らなく悲しいし耐えられなかったこと。


「そっかぁ。それは悲しかったね。まぁでも成績イマイチなのはほんとだからさぁ。」

「先生酷い…。」

「ごめん、ごめん。でも、アイル先生もこの11年で彼を取り巻く状況も色々変わったわけだからさ。そりゃ子供の頃とは違うと思うよ。」

「そうですよね…。私もいつまでもしがみついていちゃダメですよね。」

「うーん、そこまで言っていないけど。期待はし過ぎずかな?」

真夏は暫く保健室で過ごした。

とても教室に戻る気持ちになれなかった。

そこに天敵相沢が来た。


「高野、何サボってんだよ?」

「げっ!!」

「…ほんとに失礼な奴だな。」

「すみません…。相沢キャプテン何で居るんですか?」

相沢は真夏の声が聞こえたからとは口が裂けても恥ずかしくて言えないと思った。

そんな事言えばまた真夏に変態だの、ストーカーだのめちゃくちゃ言われてメンタルがやられそうだと思ったからだ。

「…たまたま用事あって来たらお前が居ただけだよ。」

「ふーん…。」

「お前こそどうしたんだよ?」

「恋煩いです。」

「厄介な病気だな。」

「そうですね。」


真夏はほうっておいてくれと思った。

相沢は真夏の頭をぽんぽんした。

「…っな!何するんですか!?」

「まぁ、元気出せよ。俺は煩いお前の方がいいと思うよ。」

相沢はそれだけ言って保健室を出て行った。


「ヒュー♩アオハルだね。」

「さっ!佐藤先生!!」

「まぁ、学校内で相沢君があんたの事好きなのは有名だからねー。じゃなきゃ引退試合終わってるのにバスケ部に顔出し続けないもんねー。」

佐藤先生は真夏に言った。

「…何ですか?その話は?私、知らない。」

真夏がそう言うと佐藤先生は呆れた。

「あのさ、あれだけかまってちゃんみたいな事して来たら普通気付くわよ?あなた本当に相沢君の事嫌い…イヤ…苦手なのね。」

「……あれだけしつこくされたら…鬱陶しいですよ。さすがに。」

真夏は率直な感想を述べた。

「相沢君も切ない恋をしてるわね。思いが全く通じてない。まぁ、いいわ。とりあえずゆっくり休んでなさいな。」

佐藤先生はそう言って保健室を出て行った。



「まーなーつー。」

加奈子が見舞いに来た。

「加奈子…。」

真夏は加奈子の顔を見た途端涙が流れた。

「あーもー、泣かないの。真夏は笑顔の方がいいよ。」

「珍しく加奈子優しー…。」

真夏は加奈子に抱きついて思い切り泣いた。

加奈子は真夏の頭を撫でながら、

「さっきさ、相沢キャプテンが教室に来てね…真夏が泣きそうな顔しているから、大河側に行ってやってくれって言いに来たのよ?」

真夏は涙と鼻水を垂らしながら加奈子の顔を見た。

「相沢キャプテンが?」

「うん。…相沢キャプテン、ほんとにあんたの事好きなんだね。」

加奈子は微笑みながら真夏の涙と鼻水を拭いてやった。

小さい頃から真夏は泣き虫で加奈子がいつも涙と鼻水を拭っていた。

加奈子はその頃の事も思い出しながら、

「大丈夫。きっと色々大丈夫。笑顔でいたらいい事たくさんあるよ。」

加奈子は真夏にそう言い聞かした。


真夏は加奈子に連れられて教室へ戻ってきた。

丁度お弁当の時間だ。

「真夏、ご飯食べられる?」

加奈子が心配そうに覗き込んだ。

圭吾も心配そうに来た。

「高野、大丈夫か?加奈から聞いたけど…あのアイル先生って、例の外国人の幼馴染みだったんだってな。」

「…うん…。そう。しかも始業式の日の夕方にさ、家に来てたの。それで…英語あんまり出来ないって言ったら…流暢な日本語でバカはさっさと勉強しろって言われて…ウケるでしょ?」

「…あんまり笑えないよな…。」

「真夏、いいじゃん!相沢先輩いるよ!!」

加奈子は励ますつもりで言ったが…

「加奈子…それ、あまり励ましにならない…。」

真夏は笑えなかった。

「とりあえずご飯食べよ!昼休み終わる!」

加奈子は弁当箱の蓋を開けた。



-放課後

真夏は気が乗らなかったがバスケ部に顔を出した。

珍しく相沢キャプテンの顔が見えない。

「相沢キャプテン居ないんだね…。」

真夏は近くに居た部員に聞いた。

「あぁ、今日は何か委員会があるそうで来ないみたいですよ。」

「そうなんだ…良かった…。」

真夏は少しホッとした。

佐藤先生に言われた事が頭に残っていた。

真夏がバスケ部の仲間と話しているとアイルが来た。

「タカノサン、チョットイイデスカ?」

真夏は気が乗らなかったがアイルに付いて行った。


アイルは会議室に真夏を招き入れた。

真夏は緊張していた。

「真夏、体調大丈夫か?」

アイルは流暢な日本語で聞いてきた。

「…アイルさ、どうして皆んなの前だとカタコトなの?普通に話せばいいじゃない?ディスる言葉までしっかりわかってるんだから!」

真夏はイラっとして少し語気を強めて言った。

「…英語講師で日本語ペラペラだと面白くないだろ?ワザとなんだから、真夏も皆んなにバラすなよ。それだけ憎まれ口叩ければ元気だな。部活に戻れ。」

「…言われなくても戻るわよ!!」

真夏はアイルのモノの言い方に腹を立て会議室を出て行った。

イライラし過ぎてどうかなりそうだった。

昔はあんなに優しかったのに、何で今はあんなに性格悪いの!?

イライラして歩いている所に丁度相沢と出会した。


「高野…またサボりか…。」

相沢は呆れて真夏に話しかけた。

「相沢キャプテン…また会いましたね…。」

真夏は顔が引きつった。

「…そんな見るからにイヤな顔するなよ…。俺でも凹むわ。」

相沢は少し困った顔をして真夏に言った。

真夏はそんな相沢を見て少し心が痛んだ。

「ごめんなさい…。」

「…どうしたんだよ?珍しいな高野が大人しく謝るなんて。」

相沢はいつもと違う真夏の様子に少し戸惑った。

「たまにはきちんと謝りますよ。」

「たまにかよ?」

相沢は笑った。

真夏もそんな相沢に釣られて笑った。

真夏はアイルに言われた事をポツリポツリと相沢に話した。

相沢は黙って真夏の言葉に耳を傾けていた。


「それは…酷いな…。初恋クラッシャーだな。」

相沢は真夏が気の毒でそう言った。

「ほんと、酷いですよね?しかもほんとは日本語ペラペラですよ?それで皆んなの外国人イメージ壊したくないからってワザとカタコトで話して…詐欺ですよね?」

真夏はそう言って笑った。

相沢も笑顔の真夏を見て笑ってしまった。

「詐欺は良かったな。まぁ、黙っていてやるよ。」

「はい。聞いてくれてありがとうございました。」

真夏がそう言うと…

「俺の卒業式にアイツにとっておきのサプライズしかけてやるよ。」

相沢はニヤッと笑った。

「…ちょっと…相沢キャプテン…何するつもりなんですか…?」

真夏は蒼ざめた。

「高野、面白いモノ見せてやるから。楽しみにしてろ。」

「…ふっ、相沢キャプテンほんとにやりそう。」

「やるよ?そんな面白い事聞いたら?」

「わかりました。楽しみにしてます。」

真夏はそう言って笑った。

相沢も真夏が笑ってほっとした。


「真夏〜!見つけた〜。」

加奈子があまりに戻りの遅い真夏を心配して探しに来た。

「加奈子、ありがとう。相沢キャプテンと少し話してたの。」

「…え!?あんたが!?あんなに毛嫌いしていたのに!?」

加奈子は目の前に相沢がいる事に構わず言った。

相沢は若干凹んでいた。

「加奈子…目の前に居るよ?相沢キャプテン…。」

真夏は恐る恐る言った。

「あ…すみません…。」

加奈子はやってしまった感満載で言った。

「いいよ…高野が俺の事嫌いなの全校生徒の知る所だから…。」

相沢は少し寂しそうに言った。

「ごめんって、相沢キャプテン…。」

加奈子は珍しくしどろもどろしていた。

真夏は焦る加奈子を見て笑った。



部活も終わり帰宅した真夏はリビングに入るなり固まった。

アイルが居た。

リビングの入口で固まっている真夏を見て真夏の母は、

「おかえりー、真夏。アイル君遊びに来たわよ?あなたも早く着替えて来なさい。」

そう言ってそのまま夕ご飯の準備をしていた。

アイルは真夏をチラッとだけ見てそのままテレビの画面を見ていた。

真夏はそんなアイルを見てイライラして二階へ上がって行った。

二階へ上がって着替えていると部屋の扉のノック音がした。

「真夏、入っていいか?」

アイルだ。

「どうぞ!」

真夏はイライラ口調で答えた。

「何怒っているんだよ?」

アイルは意味がわからないと言うような顔をした。

「別に!」

「怒ってるじゃないか?」

アイルもイラっとして言った。

「…アイル先生さ、どういうつもりなんですか?」

「何がだよ?」

「人にバカって言って悪態ついたり、嫌味言ったり…。」

「傷ついてんの?」

真夏はアイルにそう言われ、彼を睨みつけ部屋を出て行った。

どういうつもりか本当にわからない。

アイルの理解不能な行動に真夏はイライラを隠せなかった。



「あれ?真夏、アイル君は?」

「アイル先生なら二階のトイレじゃない?」

真夏がそう言うとアイルが降りて来た。

「おばさん、ご飯出来た?」

アイルはさっき迄と全く違う顔をしてリビングへ入って来た。

「アイル君、もう直ぐ出来るから待っててね。」

真夏の母はそう言うと鼻歌を歌いながら食事の支度をしていた。


『いただきまーす!』

食事の支度が出来、夕食の時間になった。

「おばさんの唐揚げ相変わらず美味しいね。」

アイルが笑顔で言った。

「アイル君子供の頃から家に来ると必ず、唐揚げ食べたい!って言っていたわね。それで真夏も一緒に唐揚げー!って叫んで。」

真夏の母は懐かしそうに笑顔で言った。

真夏は二人の話を聞いていたが、全く頭に残らなかった。

それよりもアイルに対してのイライラが募るばかりだ。

淡い恋心を抱いていた自分に腹が立つ。

11年も想っていた。

なのに、目の前のこの外国人は…。

平気で悪態つくわ、腹の立つ事言うわ…。

考えたら考えた分食欲が無くなる。

「御馳走様。」

「あら真夏、珍しく少食ね?もういいの?」

「うん、今日ちょっと調子悪くて…保健室で寝ていたくらいだから…部屋で宿題する。アイル先生ごゆっくり。」

真夏はそう言って部屋へ戻った。


部屋へ戻り宿題に手をつけた。

漢字、数学プリント、英語の英訳。

「数学と英語なんて最悪…。」

ブツブツ真夏が言っていると…

「俺が教えてやろうか?おバカな真夏ちゃん。」

またアイルが部屋へ入って来た。

「…断りたい所だけど、わからない所もあるので遠慮なく教えて貰います。」

真夏はしれっとした顔をしてそう言った。

アイルは目を細め微笑んだ。

「ズルイよね。飴と鞭よね?本当にアイル先生の意図が分からないわ。」

「別に何の意図も無いけど?」

「無いなら尚更悪いわよ。」

「…さぁ、やるぞ。数学からか?英語からやるか?」

真夏はアイルのペースにすっかり巻き込まれて宿題を始めた。

11年振りに会った日のバカ呼ばわりされた時と違いアイルは優しかった。

勉強を教えてくれるアイルの顔を真夏はじっと見た。

「…何だよ?真夏、どうした?」

アイルは自分をじっと見る真夏に気付いた。

「ううん。別に。」

「何だよ?別にって。変なやつ。」

「へっ!?変って何よ!?」

「ほら、そこの問題さっさと解け。」

「あ、あぁ。」

真夏はアイルに教えてもらい何とか宿題をやり終えた。


「じゃあ、俺そろそろ帰るわ。明日も学校だし。」

「アイル先生ありがとう。」

「…家に居る時くらいアイルでいいよ。」

「…考えとく。」

「何だそれ?はは、まぁいいや。じゃあな、真夏。」

アイルはそう言って帰って行った。


「真夏、アイル君と喧嘩したの?」

「別に。喧嘩はしてない…ただ距離があるだけよ。」

「まぁ、11年も離れていたからね。歳も向こうが上だし。」

「うん…。何か淡い恋心もあっという間に消えそうよ。」

真夏は母親にそう話した。




「で、アイルに大人しく勉強教えてもらって終わりなわけね?」

加奈子は真夏にするどく突っ込んだ。

真夏はショボンとしていた。

「でさ、教えてもらって分かったのか?高野?」

圭吾も面白がって突っ込んできた。

「何と無くは理解出来たわよ。今テストやってくれたら多分結構まぁまぁな点数取れると思う。」

真夏はふざけて言った。

「高野が点数良かったら他は皆んな100点だよ!」

圭吾が爆笑した。

「そうねー、学年でも割とおバカ争いに入るかもしれない点数が多めだものね。」

加奈子も圭吾に同意した。

「二人共酷いわ…。」

真夏は凹んだ。

「でも、アイルよく解らんわ。難解に近いわよね。」

加奈子もアイルの心が解けないと言う顔をしている。

「本当にわかんない…混乱してるよ?二学期始まってからずっとよ?アイルの事簡単に諦められればいいけど…。」

真夏もお手上げだ。

「おっ、アイル先生来たぜ。英語のお時間だ。」

圭吾はふざけながら席に着いた。

アイルはいつも通りのポーカーフェイスで教室へ入って来た。

真夏はアイルをじっと見ていた。

幼い頃のアイル、学校でのアイル、昨夜の素のアイル。

どれが本当で、どれが虚像で。

全くわからない。

本当の気持ちを言ってくれない。

読めない。

見えない。

会えなかった時間は二人の気持ちを遠ざけるのには十分だった。

11年…長過ぎた。

「長いな…。」

真夏が呟くと、

「マナツサン、ナニガナガイノデスカ?」

アイルが真夏にカタコトの日本語で聞いてきた。

真夏はびっくりして立ち上がった。

「あっ!あの、と、トイレ行きたいなぁって…。すみませんトイレ行ってきます!」

真夏は走って教室を出て行った。

「マナツサン、チョウシワルイデスカネ?」

アイルが不思議そうな顔をして言った。

加奈子は心の中でお前のせいだと毒づいた。



「高野、またサボりか?」

廊下を歩いていると相沢が居た。

「相沢キャプテンだってそうじゃないですか?」

真夏は膨れツラになって言った。

「俺は資料室から地図を教室へ運んでるんですー。」

相沢は真夏にべーっとしながら言った。

「社会科の係なんですね。」

真夏は意外そうに笑った。

「残り物だよ。まぁ何でもいいけどね、係なんか。」

「相沢キャプテン…受験勉強いいんですか?いつも部活見に来てるけど。」

真夏は思っていた事を聞いた。

「あー……受験かぁ…。俺さぁ、勉強はあんまね…。」

「え…、あ…じゃあ大学は…。」

「うん、行かないよ。就職するんだ。一応バスケをずっとやっていたからそこを考慮してもらっていくつか面接予定。」

「そうなんですね…。」

皆大学やら専門学校やら行くものだと真夏は思っていたので少し意外に感じた。

「意外だった?」

「いえ…相沢キャプテンはバスケの推薦か何かで大学進学するものだと思っていたので…。」

「もう勉強はいいよ。働いて、好きな事したいかな?」

相沢は笑いながら話した。

「じゃあ、そろそろ教室戻るよ。先生が探しに来そうだ。」

そう言って相沢は三年の教室へ戻って行った。

「あ、やばっ!私も戻らないと…。」

真夏は教室へ走って戻って行った。


「マナツサン、ナガカッタデスネ。」

アイルがカタコトの日本語で尋問してきた。

「お腹痛かったので。すみません。」

「モウゼンブデマシタカ?」

アイルが意地悪く聞いてきたのでクラス中爆笑になった。

真夏は心の中で覚えておけよ…と、思った。


「真夏、遅かったね。」

加奈子が聞いて来た。

「うん。相沢キャプテンに丁度会って…ちょっと話してた。」

「ちょっと?」

「うん。」

「あんた、20分くらい戻って来なかったわよ?」

「うそ!?」

「ほんとよ?何で?」

「相沢キャプテン…資料室から教室に地図運んでいる途中だったの…叱られたかな…。」

真夏は今日の夕方謝ろうと思った。



部活の時間になり、真夏は相沢を探していた。

「柚木ー!相沢キャプテンは?」

「あぁ、高野。珍しいな…お前から相沢キャプテン探しているなんて。」

柚木もいつものやり取りを見ていたので珍しいと思っていた。

「ちょっとね。珍しく用があるのよ。」

「相沢キャプテンなら今日来てないぞ。何か用事あるって言って帰ったよ?」

柚木はそう真夏に説明した。

「そうなんだ…。」

「寂しいのか?」

「っな!!わけないでしょ!?ありがと!」

真夏は真っ赤になって否定し、持ち場に戻った。


「加奈子、今日相沢キャプテン居ないんだって。」

「あんた…珍しい…探してたの?あのドSを…。」

加奈子も柚木と同じ反応をした。

「うん、ちょっと用事があったんだけど…。」

「そぉ…なんだ。まぁ居ないならしかたないね。さぁさっさとマネージャー業やろ。」

「そうね。」

二人は部活へ戻った。


「高野〜、大河〜。居るか〜?」

顧問の神田先生が二人を探しに来た。

「先生何?」

加奈子がしらっと聞いた。

「今月末の新人戦で選手選抜された部員が着るユニホームの洗濯きちんと済んでるかぁ?」

「洗いましたよ!そのままにしたら臭いじゃん!!」

加奈子は何を言ってるんだ?と、言う顔をした。

「なら、いいけどなぁ。そういえば今日は相沢来てないんだなぁ。」

神田先生も気になり聞いて来た。

「用事があるって言って帰ったって柚木が言ってましたよ。」

真夏がそう言うと…

「そうかぁ…。高野、寂しいなぁ。」

「寂しくないです…。」

真夏はやたら皆に「寂しいな。」と言われるので辟易してきた。

「新人戦のスコアつけたりとか色々やって貰えるか頼もうかと思っていたからなぁ。」

「…それ、マネージャーの仕事じゃ…。」

真夏は思わず突っ込んだ。

「いやぁ、ここまで残るならマネージャーの仕事も手伝って貰おうと思っていたからなぁ。あと、一年の部員たちに動きの指導とかなぁ。」

「神田先生…ちょっと楽しようとしてない?」

加奈子は真夏にひそっと話した。

真夏も同感だと頷いた。

「まぁ、明日の朝相沢捕まえるわ。お前らもそろそろ片付けて帰れよ。もう直ぐ下校時間だぞ。」

そう言い残し神田先生は職員室へ戻って行った。

真夏と加奈子も片付けて下校した。



「相沢キャプテンさ…大学行かないんだって。」

真夏は昼間相沢と話した事を加奈子に話した。

「バスケ推薦で行かないの!?」

加奈子も驚いていた。

「うん、勉強はもういいって。就職するって言ってた。」

「そうなんだね。大学でも強豪校が幾らでもあるのに。勿体無い気もするし、相沢キャプテンらしいと言えばそうだし。」

加奈子は考えながら話した。

「就職してもバスケやろうと思えば仲間内で出来るしね。会社のチームに所属する方法もあるし。」

真夏もそう話した。

「そういえば真夏さぁ、最近アイルの事より相沢キャプテンの話の方が多くない?」

加奈子は疑問に思っていた事を聞いた。

「へっ!?あー…そうかもね…。」

「まさか、相沢キャプテンの事…。」

加奈子は真夏の顔を覗き込んだ。

「っな!なわけないじゃない!?そんな、あんなドS野郎!」

真夏は、まさかありえないという顔をした。

だが事実最近はアイルよりも相沢と話す事が増えていた。

実際、気持ちのブレは出て来ていた。

真夏からすればどちらもドSだ。正直どちらもパスしたくなってくる。

「そぉ?まぁ、恋はゆっくり育てた方がいいわよね。じっくりゆっくり考えなさいな。」

加奈子はそう言って真夏と別れた。



「ただいま〜。」

真夏が帰宅するとまた大きなスニーカーがあった。

アイルだ。

アイルを避ける様にリビングへ寄らずに真夏は真っ直ぐ自分の部屋へ向かった。

部屋へ入ると着替えてベッドへ倒れ込んだ。

「私は、誰が好きなんだろう・・・。」

真夏はそんなことをぼんやりと考えていた。

アイルは初恋で、理想的な人だ。

相沢はやたら真夏に構ってくる変な先輩だ。

変なと言うか、好きなのか嫌がらせ行為なのかよく分からない。相沢のやり口は小学生男子並みだが・・・。


考えているとまたけたたましくドアをノックする音がした。

「アイルでしょ?何?」

真夏はぶっきらぼうに答えた。

「随分と酷い言い方だな。」

アイルは心外だという顔をしながら入って来て真夏の部屋の座布団に座り込んだ。

「何で座り込むのよ?」

真夏は怪訝そうな顔をしてアイルを見た。

「お前さ、あの相沢海斗のこと好きなの?」

アイルは学校中の噂になっている真夏と相沢の話が気になり真夏に聞いてきた。

「なっ!何で!?何でそんなことアイルに言わないといけないのよ?」

真夏はアイルの顔を見てしどろもどろになった。

突然そんなことを聞かれて頭が回らない・・・というか自分の気持ちも分からないので答えようが無い。

「真夏はさ、相沢のこと好きなのか?」

アイルは真剣に聞いてくる。

「あのね、相沢キャプテンはただの先輩なの。好きかどうか聞かれても、どちらかで答えろと言われれば、先輩としては好き。でもラブでは無いわ。・・・先輩としても私好きなのか?」

真夏は目を若干泳がせながらアイルにそう答えた。

「相沢のお前に対する執着は見ていてもびっくりするほどだけどな・・・。」

「一年生でバスケ部のマネージャーになった時からそうだけど・・・。あれ執着なの?」

「・・・お前・・・普通あれ執着だって気づかないか?」

アイルは呆れていた。

「・・・執着・・・凄いな。私に執着するなんて、今までに彼女が出来たことないのかな・・・。」

「まぁ、恐らくそんなところだろうな。見るからに女の子とキスもしたことないだろうな。」

相沢のキャラを考えアイルが推測した。

「・・・まぁ仮に、相沢キャプテンは彼女が居たことがあっても手を繋ぐことすらなかったかも。」

二人は言いたい放題だ。

真夏はアイルをじっと見つめた。

「何だよ、じっと見てきて。俺の顔に何か付いてるか?」

アイルは眉間にしわを寄せて言った。

「アイルはさ、外国人だから・・・やっぱり女の子と普通にキスしたりしたの?」

疑問に思ったことを真夏はアイルに聞いた。

外国では挨拶でもハグやキスをするというイメージがあるので、真夏の心中は穏やかではなかった。

「気になる?」

いたずらっぽくアイルは含み笑いをした。

「別に・・・アイルは外国人だし、もう23歳だし。キスや女性とそれなりに経験あるだろうとは思っているわよ。私だってアイルは未だ未経験なんて思ってないわ。」

思っていた事をアイルに全て話す。

「うーん・・・まぁ、俺もそれなりにモテたし。初恋の女の子が待っていてくれているなんて微塵も思っていなかったのが本音だな。真夏の想像している通りだよ。否定はしない。」

アイルも正直に真夏に話した。

「彼女居るの?アメリカに・・・。」

「居るって言ったらどうする?」

「どうもしない。居ても当たり前だと思うし、納得も出来る。」

真夏は少し考えて答えた。

真夏なりにアイルに気を遣って言った。

相手は大人の男性に成長している。

真夏の記憶の中の幼かった日のアイルはもう目の前には居ない。

「うーん・・・今は居ないかな?数か月前に振られたよ。」

「え?ダサ。何で振られたの?」

真夏は笑いながら聞いた。

アイルはバツが悪そうな顔をした。

「何でって・・・女難の相かな?」

「・・・女難の相って、彼方此方の女に手を出してって事よね?最悪じゃん!」

真夏は目を見開いた。

「最悪って、はっきり言われると結構傷つくものだな。」

アイルは改めて考え凹んだ。

真夏は横目でチラッと見ながら、

「最悪以外の何者でもないと思うけど?彼方此方の女に手を出すなんてありえないわよ。」

「何処の国もそこら辺りは万国共通だな。」

アイルは舌を出した。

「当たり前だよ。裏切られるのは悲しいもの。大好きな人が女遊びしているのよ?そんな気色の悪いことをされていたら百年の恋も一気に覚めるわよ。」

女性を代表するかのような意見を真夏は述べた。

「はぁ、幼馴染のお前にまでそんな事言われると思わなかったよ。」

アイルはがっかりした顔で真夏を見た。

真夏は何を言っているんだという顔をして、

「幼馴染みだからって、恋愛のおかしな性癖聞いたら引くわよ?本当にありえないわよ?アイル。」

「真夏なら慰めてくれるかと思ったよ。」

「6歳も歳が離れているのよ?実際聞くと気持ち悪いって思うわよ?」

これでもかというくらいの辟易した顔をして真夏はアイルを見た。


「真夏~、アイルく~ん晩御飯出来たわよ~。」

階下から母親の呑気な声が聞こえてきた。

『は~い!今行きま~す!』

二人は返事をした。

「ところでアイル、何故あなたはいつも家でご飯を食べているの?自宅で自炊しないわけ?」

真夏は疑問に思っていたことを聞いた。

「自炊?しないよ、面倒くさい。男で自炊するなんて、金欠か料理が好きかどちらかだな。」

アイルは一般論を真夏に聞かせた。



「アイル君美味しい?」

真夏母がニコニコして聞いてくる。

「うん!おばさんのご飯は昔から美味しいよね。今日のご飯も美味しいね、親子丼最高!」

ニコニコとしてアイルは答えた。

「あら~本当?!アイル君が褒めてくれるからおばさんも作り甲斐があるわ~!真夏ったら全く褒めてくれないんだもの~。」

「美味しいのにね~。真夏、お母さんには感謝と称賛をしてあげないとだめだよ?」

真夏母とアイルは楽しそうにニコニコしてご飯の話をしていた。

「毎日17年間お母さんのご飯を食べているから、当たり前になっていたわ。お母さん、毎日ありがとう。」

真夏は言われたから言いました感満載なものの言い方になった。

「何か、引っかかるものの言い方ね。本当に、反抗期ね。」

「えー?感謝を述べたのに。結局気に入らないみたいな感じなんだもん。」

二人がああでもない、こうでもないと言い合いしている間、アイルはご飯をひたすら食べていた。


「ただいまー。」

「あ、お父さんだ。」

真夏は逃げるように玄関へ走って行った。

「お父さんお帰りなさい!今日は早かったね!」

「おぉ、真夏。珍しいな、お前が玄関までお出迎えしてくれるなんてなぁ。」

真夏父は可愛い一人娘のお出迎えを喜んでいた。

「アイル君が来てるのかい?」

「そうよ。またご飯食べに来ているの。いつもよ?」

「真夏は嬉しいんじゃないのかい?小さい頃からアイル君の事大好きだったじゃないか?」

真夏父は昔の記憶を手繰り寄せながら言った。

そんな父の言葉に真夏は、

「いらないこと覚えているのね、お父さん。だから要らないこと言ってお母さんにいつも叱られるのね。」

そう言って真夏は少し怒ってダイニングへ戻って行った。


「娘ってのは難しいなぁ・・・。」

真夏父はしょんぼりしてダイニングへ続いて入って行った。

「あらぁ、お父さんお帰りなさい。」

「おじさん、お邪魔してまーす。」

アイルはご機嫌に挨拶した。

「アイル君、いらっしゃい。仕事は慣れたかい?」

真夏父はアイルにありきたりな、仕事に慣れたかいという言葉をかけた。

「お父さん普通~。」

「普通ってなんだよ~。」

「聞くことが当たり前なことだなぁって思って。」

真夏は父親に普通過ぎてつまらない旨を伝えた。


「おじさんありがとう。日本に来て2か月くらい経つけど毎日充実しているよ。生徒たちも色々な子たちが居て面白いよ。」

アイルは真夏父に笑顔で近況を伝えた。

「そうかぁ、そうかぁ。アイル君が学校の先生になるって聞いたときはびっくりしたけど、しかも真夏が行っている学校にだろ?おじさんは本当にびっくりしたよ。」

「僕もびっくりしましたよ。まさか真夏さんがいる学校に赴任になるなんて思っていなかったですから。子供の頃に住んでいた街に赴任になってラッキーでしたよ。」

アイルは楽しそうに話した。

真夏はそれを横目で見ながら、

「希望出していたんじゃないの?だって、いきなり知らない日本のどこかに飛ばされるなんてありえないでしょ?」

意地悪く真夏はアイルに言った。

「真夏ちゃん、あまりお勉強出来ないのにそういう所だけは感が鋭いんだねぇ。」

「そんなの誰でも考えたらわかるわよ?教育実習の先生だって地元の学校に配属されるのよ?多分…。同じだと思うけど?非常勤講師でも同じじゃない?外国からなら尚更でしょ?」

真夏はアイルに毒づいた。

「まぁ、おおよそ正解かな?大体皆三大都市とかにコーディネーターも振り分けるからね。それにたまたま俺はメアリー先生が産前産後育休に入る所で運良く昔住んでいた市に配属されたから。真夏のおまけ付きだったけどなー。」

アイルも毒づきながら言った。

「っなんっですってぇ!?おまけって何よぉ!!たまたま私が通っている高校だっただけじゃない!」

「まぁ、何はともあれお前や加奈子ちゃんが居て良かったよ。」

アイルはそう言ってまとめた。


「アイル君おかわりは?」

「いただきまーす!俺、日本に居る間におばさんのご飯が美味し過ぎて太りそうだよ。」

「まぁ、そんな事言ってくれるのアイル君だけよぉ。」

真夏母はご飯やおかずをてんこ盛りによそってアイルに渡した。

アイルはご飯とおかずのおかわりの量を見て苦笑いした。




「では、今日のホームルームは月末に行われる文化祭の話し合いをしたいと思います。」

真夏のクラスでは文化祭の話し合いをしていた。

「クラス展示は何をしますか?それとも演劇でもやりますか?」

級長が話すが、皆のやりたいことがありすぎてまとまらなかった。

「お前ら~、何をやるか分らんが早く決めて取り掛からないと直ぐに当日になっちまうぞ。」

「せんせーい、ダンスでもいい?」

「ダンスなんて出来るのかぁ?」

担任の鈴木先生がのんびり聞いてきた。

「そりゃ、先生練習だよ。」

「演劇も面白いかもよ。」

「何やるんだよ?」

「桃太郎?シンデレラ?」

「ライオンキング?」

「オペラ座の怪人?」

「いや、それは無理だろ?」

クラス中笑いに包まれる。

「ダンスが妥当じゃない?」

「部活終了後になるよなぁ・・・練習とかさ。」

「結構ハードだよなぁ、部活組は。」

話がなかなかまとまらない。

そこで様子を見ていたアイルが口を挟んだ。

「ダンスの練習は参加できる日は参加して、遅れ気味になったら皆でフォローすればいいんじゃないですか?」

流暢な日本語で話した。

その様子を見てクラス中静かになった。

「・・・真夏、アイルやらかしたな。」

加奈子がひそっと話す。

「本人気づいているのかな・・・。」

真夏も唖然と見ている。

「気づいていなくない?多分・・・。」

「真夏、加奈子、アイル先生って日本語めちゃうまいじゃないか・・・。」

圭吾も二人に聞いてきた。

そして他の生徒たちもざわつき始めた。

「アイル先生、日本語・・・話せたんですね・・・。」

「凄い日本語うまいんですね。」

生徒たちが口々にアイルに話し始めた。

アイルは完全に気が抜けていたらしく、生徒たちからの投げかけにハッとした。

「あー・・・しまったなぁ。皆の外国人イメージって、片言の日本語じゃないのかなぁって思って、作っていた部分が・・・すみませんでした・・・。」

アイルは正直に生徒たちに謝罪した。

「アイル先生って、いつから日本語話せたんですか?」

生徒の一人が質問した。

「実は・・・3歳から小学校6年生までこの街で暮らしていたんだ。でね、僕の父親は海軍に所属していたんだ。6年生の冬にはアメリカへ帰国してしまったけどね。自宅は高野真夏さんの家の隣に住んでいました。大河加奈子さんも幼馴染です。もっとも二人とも僕が12歳の頃は保育園の年長組だったので、僕が日本語が堪能だったかどうかなんて覚えていないと思います。」

真夏も加奈子も顔を見合わせて、あの頃の事を思い出してみるがアイルの言う通りアイルが日本語が堪能で流暢に話していたかなんて思い出せなかった。

いつも鬼ごっこやかくれんぼ、粘土遊びやおままごと、積み木やブロック、塗り絵や着せ替え遊び。女の子が遊ぶような遊びをアイルが優しくニコニコして付き合って遊んでくれたことくらいしか覚えていない。幼い子供だったので単語で話すことが多くアイルもその方が楽だったのだろう。

同級生と遊ぶとわざと難しい言い回しをされ、話すことも嫌だったのかもしれない。

「けれど、僕が日本へ戻ろうと思ったのは・・・アメリカの大学で日本語の専攻を取り、日本語を含めて日本の文化、教養を学ぶうちにまた日本へ行きたいと思うようになったからです。縁があってたまたまこの学校へ非常勤講師として赴任されて、真夏さんと加奈子さんに11年ぶりに再会できたんですよ。皆さん、メアリー先生が戻るまでの一年間ですが、改めて宜しくお願いしますね。」

アイルは改めてそう自己紹介して、クラスの生徒たちに質問攻めにあっていた。


「真夏、ライバル増えるかもよ?」

「やめて、加奈子。そもそもアイル女癖悪いし。」

「何?それ?初耳。」

「昨日聞いたのよ。アメリカにいる頃は女難続きだったって!」

「はぁ?何それ?彼女が二人も三人も居たって事?」

「ぴんぽーん!普通にあんた最悪な男ねって言ってやったわよ。」

「・・・まぁ、イケメンだしね。それにいくら真夏に迎えに行くよって言っても六つも年下のしかも日本人の女の子が待っているなんて夢にも思っていなかったでしょうね。」

加奈子はクラスメイト達に囲まれているアイルを見ながら言った。

真夏も加奈子に同感だった。アイルも普通の男だ。年頃になればそれなりに彼女もできるだろうし、好きな子だってできる。至極普通なことだ。

だが真夏にはその考えがアイルに再会するまで考える事ができていなかった。

実際、再会した日にバカ呼ばわりされてショックを受けたが、アイルからしてみたら真夏は今まで出会ったその他大勢の女の子の一人だ。

ただ日本人というだけで覚えていてくれただけなのかもしれないと改めて思った。

皆に囲まれて話しているアイルが更に遠くに感じた。



「アイル先生は女たらしかぁ。お前よくそんなろくでもない男を11年も待っていたな。」

相沢は呆れて真夏に言った。

「それ、言わないでくださいよ。本気で凹んでいるんですから。11年待っていた幼馴染がただの女たらしになっていた悲劇・・・カオス過ぎて・・・凹む・・・。」

真夏は相沢に昨夜の衝撃の話をした。

相沢はその話を聞いて腹を抱えて暫く爆笑していた。

真夏は真っ赤になり返す言葉も無くただただ恥ずかしい心持でその場に居た。

「まぁ高野もまともな男・・・無理だなお前みたいなアホは。またアイル先生の様なロクでもない男に騙されそうだな。」

「・・・余計なお世話です。大学に行ったら素敵な人と出会うかもしれないし。相沢キャプテンも就職したら素敵な女性と出会うかもしれないですよ。無理かもしれないけど。」

真夏も悔しくて言い返した。

「お前に彼氏が出来たら逆立ちして50メートル歩いてやるよ。」

「言いましたね。約束ですよ。今の忘れませんからね。」

「出来たらだぞ。お前なんかに彼氏なんて出来るわけ無いだろうけどなぁ。」

相沢はそう言って大笑いした。

「・・・相沢先輩、先輩って好きな人いないんですか?」

真夏は真顔で聞いた。

彼が真夏の事を好きだというのは知らないふりをして。

真夏に突然そう聞かれ、相沢は動きが止まった。

「な、何だよ突然。しかもキャプテンから先輩って・・・。」

「いえ、や、あのそろそろキャプテンもないかなって・・・。そろそろ先輩に切り替えようかなって思っていたので・・・。」

真夏自身も急に気恥ずかしくなり適当に答えた。

「もう、11月だもんな。あと一か月で俺は完全にバスケ部とおさらばだ。」

「あの、相沢先輩って・・・何のために夏の大会終了後も居座っていたんですか?」

真夏の質問に相沢の顔が急に赤くなった。

「あの、何で赤くなっているんですか?意味わかんないんですけど?」

真夏は少し意地悪く言った。

相沢はますます赤くなり挙動不審な動きをしだした。

「あの、どうしたんですか?」

「あっ!!俺そういえば担任に呼ばれていたわ。悪い高野。行くわ!」

相沢はそう行って逃げるように校舎の中へ戻って行った。

その様子を佐藤先生が見ていた。


「こら、真夏。意地悪しちゃだめじゃない。」

そう言って佐藤先生はにこにこしていた。

「あー、佐藤先生。ずっと見ていたの?」

「うーん、6割くらい?」

「結構見ているほうだと思いますよ。先生、そっち行ってもいい?」

「いいわよ。ちょうど暇していたところだから。」

真夏は靴を脱いで保健室へ入って行った。

「真夏はさ、相沢君のことどう思うの?」

佐藤先生は真夏に聞いてみた。

「うん・・・何だろうな。ついこの間までは鬱陶しい嫌な先輩だって思ってて、でもよく話すうちに何だかこの人全くの嫌な人なわけでもないのかなって思うようになってきて。」

「アイル先生と、相沢君だったらどっちがいいの?」

「先生・・・直球過ぎる・・・。どっちなんて・・・わからないですよ。そもそも私誰が好きなのかすらわからなくなって来たんですもの。」

真夏はそう言って突っ伏した。

「それはそれは。誰が好きかわからないなんて。何だか重症気味ね。アイル先生のことはもういいの?」

「聞きたいですか?」

「え?どういうこと?」

真夏は佐藤先生にも昨夜のことを話した。

「え・・・女難の相って・・・ただの最低じゃないの。何股もかけていたって事!?」

「そうみたいです。聞いて唖然茫然、好きだったのかすら気持ちがわかりません。11年返してほしいと思ったり。せこいですけど・・・勝手に待っていたのは私なんだけど。」

真夏は頬杖をついた。

「でもさ、傍から客観的に見ていたらさ・・・相沢君との方がお似合いかな?と先生は思う。」

「そうですか?相沢先輩かぁ・・・。好きなんて言って、振られたら・・・悲惨ですよね。」

「好きなの?」

「分かりません。どうなのかな?もう少し話したり、お互いの事知ったら好きな気持ちも出てくるのかな?」

「人を好きになるのって、理屈ではないじゃない?まぁ真夏たちの歳だと外見がカッコいいとか、頭いいとか、スポーツが出来るとか、面白いとか。その相手の分かりやすい見た目のみを選んで皆付き合ったり、別れたり。そんな感じだけど、相沢君と真夏はそんな軽い感じには見えないよ。お互いの人間性や本当の姿をきちんと分かり合えていると思うけどね。」

佐藤先生はそう言って笑った。



下校時刻になり、真夏が学校の門を出るときにアイルが居た。

アイルは女子生徒たちと楽しそうに話していた。

見る限り、軽い男にしか見えなかった。

(やっぱり女たらしのしょうもない人だな・・・。)と、心の中で思った。

隣のクラスの美人な女子生徒がアイルの腕に彼女の腕を絡ませていた。

少し心が痛んだ。

あの子、アイルの事好きなのかな?真夏は心の中で思った。


「高野!」

後ろから相沢が真夏を呼んだ。

「相沢先輩。今帰りなんですか?」

「あぁ、文化祭の準備があって。実行委員だからな、俺は。」

「何処でも先頭立ってやるんですね。キャプテンといい…相沢先輩だから出来るんだろうけど。私たちのクラスはダンスになりました・・。」

真夏は相沢に思わず自分のクラスの話をした。

「え?!お前ダンスできるの?ワンテンポ遅れそうだよな。」

相沢はそう言って笑った。

「失礼ですね・・・ほんとにもう!私、それなりに踊れますよ。・・・それなりに。」

「へぇ、文化祭楽しみだな。最前列で見てやるよ。」

「残念でした。私は、後部列で踊るんです。最前列に来られても見えませんよ?」

真夏はそう言って笑った。

「そうか、さっきも言っただろ?俺が文化祭の実行委員だって。舞台袖からも見られるんだよ。」

「・・・ストーカー行為だ・・・。」

「はぁ?何がストーカーだよ?失礼なやつだな。」

「相沢先輩が変態みたいなこと言うからじゃないですか?」

「へ?!変態!?」

相沢は真夏とくだらない小競り合いをして笑った。

「高野、あれアイル先生と・・・取り巻きか?」

相沢は物凄く怪訝そうな顔をしてアイルの方を見た。

「うん。何かね日本語実はペラペラってカミングアウトした途端にあの状況ですわ。」

真夏は呆れかえって言った。

「呆れた奴だな。来る者拒まず、去る者追わず的なスタンスだな。」

「だから、女難の相状態だったんじゃない?普通懲りたらしないわよ?でもあのザマ。幼馴染でも呆れすぎて何も言えないわよ?」

「あれは・・・嫌だな。同じ男としても無いわ。しかもあのやたらアイル先生に張り付いている奴って、2年の神崎真美だろ?」

「そうですよ?相沢先輩もよく知ってますね。2年の美少女ですもんね。学校内に知らない男子生徒は勿論居ないですよねぇ。」

真夏は少しムッとしながら嫌味たっぷりに相沢に言った。

「そうだなぁ。神崎が入学式に現れた時学校中のヤロー共が釘付けになったもんなぁ。まぁ、その後性格が分かって来て物好きな奴しか話しかけなくなったけどな。」

「そうだったんだ。神崎さんは凄く魅力的ではあるけれど、ちょっと交友関係も派手な感じですもんね。普通の男子生徒では手に負えないかも。」

「高野はその魅力の10分の1もないけどな。」

真夏の方を見て相沢は爆笑しながら言った。


二人の様子をアイルはチラチラと前の方を歩きながら後ろを時々振り返り見ていた。

心の中は実はあまり穏やかではなかった。

幼馴染の真夏が他の男と話しているのはあまり気分が良いものでは無かった。

ましてや相手は真夏の事が大好きすぎる相沢だ。

実質ムカムカとしていた。

俺と話している時はあんなに笑顔なんて無いのに…。と、アイルは思っていた。

「アイルせんせぇ〜、どぉしたのぉ?」

真美がアイルの顔を覗き込んで自分の方へ向く様に呼んだ。

アイルは真美に対して鬱陶しさすら感じたが一応生徒なので大人の対応で返事をした。

「何ですか?神崎さん?」

「アイル先生、高野さんの事気になるの?」

真美がいきなりそんな事を聞いてきた。

「何故その様に感じるんですか?}

「だってぇ、さっきから高野さんの事何回見ているんですかぁ?あの子に恋しても相沢先輩が居るから無理ですよ?あの二人付き合っているんじゃないですか?」

真美はいい加減な事をアイルに言って聞かせた。

「高野さんは、相沢君とはお付き合いしていないですよ?高野さんが言っていました。」

アイルは笑顔で真美に事実を言った。

「アイル先生そんな事いつ聞いたんですか?教室で聞いたの?」

「休み時間に高野さんと話す機会があったので聞きました。神崎さん、君にそこまでしつこく聞かれるのも僕も少々うんざりしてしまうので、控えてもらってもいいですか?」

アイルがそう言ったので真美はプライドが傷つけられたかのように膨れ面をして取り巻きとアイルを置いて行ってしまった。

アイルはやっと行ったかとホッとした。

アイルは改めて二人に向き直り、真夏と相沢のところへ近づいて来た。


「まるでカップルだな。」

アイルは嫌味たらしく言った。

相沢はムッとして、アイルに向き直った。

「あのさ、非常勤講師の先生にそんな事言われるのは、余計なお世話ですよ?」

「何怒ってるんだよ?」

「随分と日本語が堪能な様ですね、アイル先生。」

二人はお互いの顔を直視して話している。

真夏はヒヤヒヤモノだ。こんな所で喧嘩でも始まったらたまったものじゃない。

「お前はいつまで真夏に片思いしているんだよ?ちっとも想いが通常通りてなさそうだけど?」

アイルは煽るように言った。

「そうですね。そこが高野のいいところだと思いますけど?」

「へぇ、一生片思いで通すのか。かっこいいね、お前。」

相沢は右手に力が入った。

真夏はそれを見逃さなかった。

「相沢先輩、早く帰ろ?宿題、わからないところ教えてくれるって言ったじゃないですか?」

真夏はそう言って相沢の手を引っ張って学校前の坂を下った。

「アイル先生、生徒にあんまりな事言うと父兄から苦情が入るので控えたほうがいいですよ?ここはアメリカではありません。日本です。」

去り際に真夏はアイルにそう言った。

アイルは去り行く二人を姿が見えなくなるまで見ていた。


「高野!高野!待て!ちょっ!」

真夏は相沢の手を引っ張ってかなりの距離を歩いていた。

周りは少し薄暗くなっていた。

「あっ!・・・ごめんなさい。手痛かったですよね?」

「イヤ・・・そこじゃない・・・ここ何処?」

相沢は見慣れない景色に少し不安げに聞いた。

「あ・・・私の家の近くだ・・・。先輩、よかったら・・・家来ません?」

「えっ?!」

「あー・・・嫌ですよね・・・家お母さんがいつもご飯沢山作っちゃうタイプで・・・先輩食べる分ぐらい余裕であるから・・・良かったらと思ったんですけど。」

「まじ!?やった!うちの母さん料理下手くそでさ、是非ご馳走になります。」

「下手くそって・・・お母さん可哀そう・・・。」

「いや、マジで美味しくなくてさ。塩と砂糖を本気で間違えたりするんだよ。」

「本当にいるのね。ふふふ。」

相沢が母親の話を面白可笑しく話すので、真夏は笑いが止まらなかった。


「ただいま~!」

真夏が玄関を開けると真夏母がいつも通り元気に「お帰りー!」と答えた。

「先輩はいスリッパ。上がって。」

「お・・・お邪魔します・・・。」

相沢は物凄く緊張して入って来た。

真夏はリビングへ案内した。

「こんばんは。お邪魔してます。3年の相沢海斗です。」

相沢は真夏母に挨拶すると・・・振り向いた真夏母は固まった。

「あら、やだぁ。真夏、彼氏いたのぉ?」

「ちっ!違うよ!部活の先輩だよ!仲良くしてもらっていて、今日は帰りが一緒になったから。お母さんご飯沢山作るから、先輩の分ぐらい余裕であるじゃない。だからご招待したの。」

「まぁ、そうだったの。今日は男子大好きカツ丼よ!」

「マジですか!やった!高野、ありがとう!」

相沢はうきうきしてダイニングの椅子に座った。

真夏もお茶を用意したり、食事の支度を手伝った。

「あら、珍しいわね。真夏がお手伝いしてくれるなんて。」

「失礼ね。普段だってやれることはしているわよ。」

真夏は母親にムキになって言った。

相沢はその様子を微笑ましく見ていた。


「ねぇ真夏、アイル君は今日遅いのかしら?いつもならもう来ている頃じゃない?」

真夏母が突然言い出した。

「え?今日も来るの?」

「食費はアイル君のお母さんからもらってるわよ?」

「は?」

「・・・高野、あいつ来るの?」

「うん、厚かましく毎日だけど・・・。でも今日はさっきの事もあるし。来ないんじゃない?」

「さっきって?」

真夏母が気になった様で聞いて来た。

「相沢先輩に・・・喧嘩仕掛けてきて・・・。」

真夏は話せる範囲で母親に話した。

話しているとインターホンが鳴った。

「アイル君ね・・・。」

「また性懲りもなく来たわね、あの女癖の悪い外国人め。」

「高野・・・俺居て大丈夫か?」

相沢は心配になったが、アイルは居ることも知らずに・・・。

「こんばんは~、おばさん今日のご飯はなぁに~?」

アイルはごきげんでリビングへで入って来た。

時間が止まるリビング。

相沢はアイルと目が合った。

「相沢君、何で君が此処に居るんだよ?」

アイルが顔を引きつらせて言う。

「高野に招待されたんで。お邪魔させていただいてます。」

相沢も負けじと言った。

「アイル君、ご飯よそったから座って。」

真夏母は笑顔でアイルに声を掛けた。

真夏は内心ヒヤヒヤだ。

アイルは真夏の真向かいに座った。

『いただきまーす!!』 

「うわ!高野のお母さんのご飯うまっ!!俺も食費払うから毎日来たい!!」

「やだぁ~相沢君ったらぁ!おばさん調子に乗っちゃうわよぉ。」

真夏母は物凄い笑顔で喜んでいる。

「相沢君、君まで毎日来るとおばさんの負担が凄いから来るな。」

「そういうアイル先生はどうなんですかぁ?」

相沢は眉間にしわを寄せて言った。

「やだぁ~、二人ともぉ。うちは大丈夫よぉ。子供も真夏だけだしぃ。二人分増えてもおばさんは全然平気よぉ!」

真夏母がそう言うと、相沢もアイルも唖然とした。

「お母さん、お父さんにも言っておかないとダメよ?」

真夏はそう言って母親を嗜めた。

相沢は懇願する様に真夏を見た。

「高野、いい?」

「はい?!本気で来るんですか!?」 

「俺、至って本気。高野とご飯食べるのも楽しいから。おばさんも面白いし。斜め前にいる外国人は気に入らないけどね。」

「相沢君、真夏に一緒にご飯食べるの楽しいからって、遠回しに告っている様なものだと思うよ?」

アイルはすかさず突っ込んだ。

「あら、でもアイル君。すごく仲良しのお友達とご飯食べたり、お話したりするのも楽しいじゃない?そういう感覚だと思うけど?ねぇ、相沢君?」

真夏母はフォローをいれつつ相沢の顔を見た。

「そうですね。直ぐに色恋に変換するのはどうかと思いますよ?先生?」

相沢はそう言ってアイルの方を嫌みな笑い方をして見た。

「相沢君、君は受験生じゃなかったかい?こんな所で油を売っている暇はないはずじゃないのかい?」

「僕は就職組です。勉強は好きでは無いので受験してまで大学は行きません。それよりも仕事がしたいので。」

相沢はキッパリと言った。

アイルは少し面食らっていたが、「そうか。」とだけ言ってそのまま食事を続けた。


「相沢先輩、ほんとに申し訳ないんですけど…ほんっきで宿題分からないところがあって、時間まだ大丈夫なら教えてください…。」

真夏は半泣きで相沢に頼んだ。

数学の苦手な分野な上に翌日までに提出しなくてはならないため本気で困っていた。

「俺がわかる所ならいいけど…。」

「じゃ、部屋行きましょう!」

真夏は相沢の手を部屋へ案内した。


「アイル君は今日はどうする?」

真夏母はアイルに聞いた。

「…真夏のとこ行ってきます。心配だ…。」

アイルはそう言うと二階の真夏の部屋へ向かった。



真夏の部屋では相沢が柄では無いほどに緊張していた。

女の子の部屋へ行くなんてほぼ無いので、真夏の部屋を見てキョロキョロしていた。

「あの・・・あんまりキョロキョロ見ないでもらっていいですか?今日掃除出来ていないから・・・。」

真夏は恥ずかしそうに言った。

「え!?そんなにキョロキョロしてた!?」

「うん・・・ちょっとキモイ・・・。」

「はぁ?何だって?高野、宿題はやらずに行くか・・・?」

「ごめんなさい。撤回します。でも、本当にあんまり見ないでください。」

真夏は相沢に念を押した。

真夏は宿題の数学を見せ、一つ一つ丁寧に解けない個所を相沢に教えてもらった。

「高野・・・お前それで来年大学受験するのか・・・?」

相沢は真夏の数学の出来なさ具合に驚きながら聞いた。

「出来たら加奈子と・・・同じ大学・・・。」

「無理だろ・・・大河は英検とかも余裕で合格していたよな?あいつ頭良いだろう?」

「・・・やっぱり無理ですよね・・・加奈子にランク下げさせる訳にはいかないし。加奈子・・・イギリスに留学して、将来は貿易か、商社とか、通訳とかの仕事に就くのが夢だから・・・。」

真夏は遠くを見ながら言った。

「じゃあ、同じ大学は土台無理だな・・・。大河の人生が終了してしまうな。」

「ですよね・・・。てか、私行けるところあるのかな?」

「そうだな・・・レベルあまり高くない短大とかが限界じゃない?」

「・・・四年制に行きたい。」

「高野、とりあえずお前はまだ一年あるから。やれるところまで頑張ってみればいいんじゃないか?」

相沢は真面目に真夏に答えた。

真夏も相沢の話にしっかり耳を傾けて聞いていた。

真夏自身、夢とか将来に関するヴィジョンが未だ未確定の為、どの学科に行けばいいかなどが見えて居なかった。

幼馴染の加奈子がどんどん夢に向かって色々なことを決めていくのに自分自身は何も決められず、ただアイルが迎えに来ることばかりを夢見て居たことに少しばかり恥ずかしく感じた。

特に相沢の前だから余計にそう感じたのかもしれない。

相沢自身も自分自身を分析して、大学に進学するよりも就職する方が向いていると気付いたり。

皆自分自身の前に自分で道を作り、道の先に待つ達成感や成功に向かって歩いて行く準備をしていた。

「どうしたの?高野?」

相沢は放心している真夏に心配そうに話しかけた。

「いえ・・・私って、高校入って何していたんだろうと改めて思って。皆も加奈子も、相沢先輩も皆将来の事きちんと考えていて・・・私は何にも考えて無かったなって。」

「考えて無いことないだろ。アイル先生の事一途に待ち続けていたじゃないか。」

「恋ばかりじゃないですか。未来が全く見えないですよ。」

真夏は自分に呆れながら言った。

「一生懸命恋するのだって立派な志だと思うけどな、俺は。」

「思うだけで・・・片想いっぽいし。相手は大人だし。私は全く相手にされていないと思いますよ。」

真夏がそう話していると部屋の扉が思い切り開いた。

真夏と相沢はびっくりしてのけ反った。

「何びっくりしているんだよ?お前ら二人とも。」

アイルが眉間に皺を寄せて言った。

「いきなり扉を思い切り開かれたら誰だってびっくりするわよ!!」

真夏はアイルに怒った。

「え、お邪魔だった?」

アイルはニヤリとして言った。

「邪魔じゃないけど、何の用ですか?」

「真夏、冷たいな。」

「アイル先生、嫌われているんじゃない?」

「相沢君、なかなか性格悪いね。」

「アイル先生には負けますよ?」

相沢とアイルはまたバトルを始めそうになっていた。

真夏はそんな二人を呆れて見ていた。

「あの・・・先輩、宿題・・・。」

「あぁ、ごめん、ごめん。そこの例題教科書見ながらやってみな?」

「はい。」

「真夏、宿題なら俺が教えてやるのに。」

「いい。今日は相沢先輩に教えてもらいたかったの!」

真夏はアイルを睨みながら言った。

「そうそう、先生しつこいよ?しつこい男は嫌われるよ?」

相沢も真夏に加担して言う。

「しつこくないし!俺は真夏の幼馴染だ!昨日や今日知り合ったお前とは違うんだよ!」

「はぁ?アイル先生?俺、高野とは学校生活でもう二年の時を毎日の様に過ごしてますけど?先生は11年も高野と離れていたじゃないですか?」

相沢はアイルに皮肉たっぷりに言った。

「何だってぇ?!生意気なガキだなぁ!!」

「…あのさ…二人共悪いんだけど…宿題いい加減まともに教えてもらえないかな…。遅くなる…。」

真夏は呆れた顔をして二人に言った。

『すみませんでした…。』

二人は声を揃えて言った。



「相沢先輩ありがとうございました。ここからの道わかります?」

「あぁ、大丈夫。こちらこそありがとうな。お母さんに御馳走様って言っておいて。」

「はい。伝えておきます。…アイルも帰りなよ、いつまで家に居るつもり?明日も学校よ?」

真夏がそう言うと、玄関からシブシブアイルが靴を履き出てきた。

「真夏、冷たいな。昔はアイル、アイルって懐いていたのに…。」

「女ったらしのロクでもない幼馴染みには塩対応させて頂きます。」

「・・・こわ・・・。肝に銘じておきます。」

アイルはそう言って相沢と帰って行った。



帰り道ー

「アイル先生さ、実際高野の事どう思っているんですか?」

相沢がアイルの真夏に対する対応を見ていて聞いて来た。

「真夏はさ幼い時から凄く素直でさ、本当に妹のように思っていたよ。11年ぶりに再会したときは綺麗な女の子になったな。と、思ったよ。」

アイルは少し考えそう答えた。

「高野に対してそういう気持ちは持っていないんですか?」

「・・・どうだろうな?あくまで俺は教師だから。真夏にそんな気持ちがあるかどうかだなんて・・・考えた事も無かったかもな。付き合うなら加奈子ちゃんみたいな子の方が楽かもしれないな。」

「今のセリフ、大河が聞いていたら間違いなく殴られてますよ?」

「だろうな。加奈子ちゃんは子供の頃からしっかりした子だったから。真夏の方がふにゃふにゃしていたな。」

アイルは懐かしそうに言った。

「じゃあ、高野の事妹くらいにしか思っていないんですよね?俺、本気で高野の事狙いに行ってもいいですよね?」

相沢はアイルに確認した。

「真夏は君の事相当嫌っているじゃないのか?」

「・・・そうですね。嫌いかもしれません。鬼キャプテンだの、人でなしだの、変態、ストーカーもうこれ以上思い出すと凹むからやめておきますけど、俺は高野の事が好きです。」

「見ていたら分るよ。じゃあ、一応ライバルって事で。」

「はぁ?妹じゃないんですか?」

「君に真夏を盗られると思うとムカつくから。」

「・・・高野の事好きって事ですよね?つまりは。」

「そうなるのかな?あいつが俺があげたぬいぐるみを未だに大事に持っていてくれてさ。愛おしいの一言だよな。」

アイルが嬉しそうに言うと相沢は・・・

「ロリコンかよ・・・?」

「ロリじゃねーよっ!六つしか違わないだろ!大体、恋愛に・・・年齢は関係ないだろ!!」

「アイル先生の年齢で未成年に手を出したら立派な犯罪ですよ。日本だと捕まりますよ。」

相沢は意地悪くアイルに言った。

「でもお互い同意の上で更に親が公認なら問題ないだろ?」

「つまり、高野が好きだって事で認めたとします。」

「勝手にしろ。とりあえずお前と真夏が付き合うのだけは阻止してやる。」

「負けませんから。それよりも、2年の神崎に捕まってましたよね?あいつしつこいんで。気を付けてくださいね。」

「あぁ、あのうるさい女のガキか、香水臭い。」

アイルは辟易して言った。

「あいつ、狙った男は逃さないで有名なので。」

「了解。忠告ありがとう。じゃあ、俺ここのマンションだから。」

アイルはそう言って、立派な造りのマンションへ入って行った。

「・・・あいつ、ボンボンかよ・・・。」

相沢はアイルの後姿を眺めながら呟いた。




「ア・イ・ル先生!!おはようございまぁす!!」

朝から神崎真美がアイルに絡んで来た。

アイルは内心、「げっ!出た!」と思ったが、生徒である為精一杯の作り笑顔で

「おはよう。えーと・・・君の名前は何だっけ?」

「やだぁー!先生。真美よ。まぁみ!」

「あぁ、そうだったっけ?生徒が沢山居るから一度に何人も名前が覚えられなくて。ごめんね。」

アイルはそう言って適当にあしらい撒こうと思ったが・・・

「じゃあ、今教えたからぁ真美の名前覚えてくれたよねぇ?」

真美はしつこく食いつき、更にアイルの腕に絡みついてきた。

「真美さん、先生の腕に絡みついてきたりするのはあまり関心しませんよ。放してください。」

アイルは困った素振りを見せ離れさそうと思った。

だが真美は更に絡みつき、彼女の様に振舞っていた。

「固いこと言わないでよぉ、アイル先生。真美はアイル先生の大ファンなのにぃ。」

「皆さんがジロジロ見ていますよ?そろそろ放してもらってもいいですか?」

アイルはいい加減イライラしてきていた。


「アイル先生、おはようございます。」

助け舟を出すかの様に後ろから見兼ねた相沢が声をかけてきた。

「相沢君、おはよう。」

「アイル先生、昨日は文法を教えて頂きありがとうございました。あの、あと一つ解らない問題があるので・・・授業の前にちょっと教えて貰えますか?」

相沢はそう言ってアイルから真美を引き離した。



「相沢君、ありがとう。助かったよ。」

「だから、昨日言ったじゃないですか?あいつには気をつけろって。」

言ったことを忘れたのかという顔をして相沢はアイルを見た。

「まさか朝からああ来るとは夢にも思わなかったよ。本当にしつこいなアイツ・・・。」

アイルはやれやれという顔をした。

「今日一日気を付けてくださいね。それにあいつがベタベタ引っ付いているところを高野と大河が見たら・・・多分物凄い冷たい目で見られるでしょうね。」

「言わないで・・・特に真夏なんて・・・汚いものでも見るような顔で見るだろうな・・・。」

「でしょうね。高野、女ったらし最悪って言ってましたからね。」

「・・・やっぱり?てか、相沢にまで言ってるんだ・・・加奈子ちゃんにも言っただろうな。」

「言ったと思いますよ?仲良しだし。」

「だよな・・・。」

アイルは天を仰ぐように上を向いてため息をついた。

相沢に半ば守られるようにアイルは校舎へ入って行った。


「あれ?仲良くご登校ですか?」

加奈子が昇降口で二人に声をかけた。

「アイル先生が神崎に絡まれていたから救出しただけだよ。」

相沢は加奈子にそう話した。

「あぁー、とうとう捕まったかぁ。」

「捕まったって・・・どういうこと?加奈子ちゃん?」

アイルは青ざめながら聞いた。

「神崎さんって、顔のいい男とか、ステータスのありそうな男とか、まぁ諸々レベル高そうな男だと自分の立場も考えずにどんどんアタックしまくって過去にも上の学年の先輩とトラブったり、教育実習で来ていた大学生の先生たぶらかして落としたりとか・・・割とトラブルメーカーですよ?」

「まじで・・・?」

「うん。だからアイル先生、気を付けてね。」

加奈子はしれっとアイルに伝えて教室に戻って行った。

「相沢君・・・守って・・・。」

「いや・・・俺3年だし、校舎南棟だし・・・。」

相沢は無理だよという顔をしてアイルを見たが、アイルは半ば泣き顔で相沢を見ていた。



「真夏、アイル先生って隣のクラスのアイツに目を付けられたんだってね。」

加奈子は真夏に知ってる?という顔をして聞いた。

「あぁ・・・昨日の夕方アイルが神崎さんに絡まれているの見たよ。」

「そうなの?」

「うん。相沢先輩と一緒に帰ったんだけど・・・。その時に。」

「え?相沢先輩と帰ったんだ。ふーん。そうなんだぁ。」

加奈子はニヤリとして真夏を見た。

「何よ?たまには・・・帰る時だってありますよ?」

「初めてよね?相沢キャプテンと一緒に帰ったの。」

「・・・はい・・・。」

真夏は顔を真っ赤にして返事をした。

「真夏さぁ、好きなの?相沢キャプテンの事?」

「うーん。まだよくわからないよ。ただ・・・誰が好きかも明確ではないって言った方が正確かもしれない。」

「へぇ・・・そうなんだ。」

「今、呆れているでしょ?」

真夏は加奈子の顔をチラッと見た。

加奈子は呆れながらも、

「真夏はさ考えこむと良くないからヘラっとしていればいいよ。」

「何か・・・アホな子みたいじゃない?」

加奈子はフッと笑い真夏の頭をぺしっと叩いた。

「アホみたいにヘラヘラしている方が真夏らしいよ。それで周りはほんわかしているんだから。」

「演じろって事ね。」

真夏がそういうと、加奈子は驚いた様に、

「え?あれ演じていたの?素じゃなくて?」

「え?・・・素か・・・も。」

「保育園から変わらないじゃない。あの頃からもし演じていたなら恐ろしい子供よね。」

笑いながら真夏の方を見ると、真夏は真っ赤な顔をして不貞腐れていた。

二人は相沢とアイルの事を話しながら教室へ戻って行った。


「高野!加奈子!おはよう!」

圭吾が笑顔であいさつしてきた。

「何よ?朝から気持ち悪い。」

加奈子が微妙な顔をして圭吾を見た。

「気持ち悪いって・・・酷いな加奈子は。本当に毒舌だわ。だからお前彼氏の一人も出来ないんだな。」

圭吾は加奈子の顔を見ながら気の毒そうに言った。

「圭吾・・・失礼ね。私はね、誰でも良い訳じゃないの。変な男に引っかかっている無駄な時間が嫌なの。」

「・・・無駄な時間って。お前きっと一生独身だろうな。」

「失礼ね。縁があれば結婚は出来るのよ。その縁ある相手に出会えるかどうかよ?」

「奥が深いな・・・確かにそうだよな。たった一人の縁ある相手。運命だな。」

「中々出逢えないみたいよ。運命の相手とは。結婚した後に出逢ったとか、友達が運命の相手だったとか。」

「切ないよなぁ。俺、ちゃんと見極められるようにしよう。」

朝から加奈子と圭吾が恋愛について語りだしているのを真夏は面白そうに見ていた。

見極め。

真夏は自分の見極め力について考えこんでしまった。

「ところでさぁ、他のやつから聞いたんだけどさ、アイル先生が神崎に見初められちゃったって?」

既に校舎内で真美がアイルに手を出したと噂になっていた。

「早いねぇ、噂になるのが。」

加奈子は感心して言った。

「え?感心して言っている場合ではなくない?」

「そうだよな、アイル先生が手を出したと思われたら・・・クビ飛ぶんじゃね?」

圭吾が真顔で言った。

「でも、先生たちの間でも神崎さんが男癖悪いの知っているでしょ?割とトラブル起こしているし。」

「まぁそうだけど、鈴木先生が注意してくれているといいけどな。」

真夏たちはアイルの身を案じた。




ー職員室ー

「アイル先生、ちょっといいですか?」

アイルは学年主任に呼ばれた。

会議室に恐る恐る入った。

「まぁ、そこに座ってください。」

学年主任に促されるままアイルは椅子に座った。

「3年の相沢君から先ほど聞いたのだが、アイル先生・・・神崎真美に目を付けられてしまったそうですね。」

学年主任は気の毒そうにアイルを見た。

「・・・あの、何でそんな気の毒そうに僕を見るんですか?」

アイルはたじろぎながら聞いた。

学年主任はゆっくりアイルを見て口を開いた。

「神崎は・・・相沢君には聞いていると思いますが、いい男と見るとそれが先生だろうと何だろうと必ず色仕掛けをしてきます。17歳のくせに全く困ったものなんですが、既婚者の先生にも手を出そうとしたり・・・その先生に関しては身の危険を感じて他の学校へ異動願を出してきたので異動させてあげましたけどね、何せ男癖の悪い生徒でして・・・アイル先生もよくよく気を付けてくださいね。」

学年主任は真美に関して注意するようにアイルに説明した。

「彼女はそれだけ問題を起こして退学処分にはならないんですね?」

アイルが不思議に思って聞いた。

「それがですね・・・神崎の親は文部科学省の役人でね・・・色々と圧力がね。卒業だけはさせろと校長も圧をかけられていてね。そんなこんなで問題を起こしても退学させられないってわけです。」

「それが有名なジャパニーズ忖度ってやつですね。」

「ええ、全くもってその通りです。」

注意やら何やら聞きアイルは会議室を後にした。

無事に一年やりおおせるのか若干心配になってきた。


「今日の3時間目、ダンスの練習やるって。」

加奈子が担任に聞いて来た。

皆加奈子の指示に従い体育館へ向かった。

文化祭も近いためか、舞台上やその周りに物がごった返している。

「凄いね。劇をやるクラスもあるから、大道具がごった返してる。」

「結構今年は演劇とかやるクラスも多いみたいよ。」

「鬼滅の刃やるクラスもあるって。」

圭吾が嬉しそうに言ってきた。

「あんた、甘露寺蜜璃役に注目しているでしょ?」

「・・・やっぱり蜜璃ちゃんは男のロマンだよ。」

「意味わかんない。」

加奈子はバカでしょと言わんばかりの顔をした。

「炭次郎は誰がやるんだろう?」

真夏はワクワクが止まらなさそうだ。

「圭吾も真夏も鬼滅から離れてもらってもいいかしら?」

二人に咎めるように加奈子は話を遮った。


文化祭まで残り一週間。

クラスメイト達全体での合わせての練習は中々出来ておらず、今日の練習は貴重な練習日だ。

音に合わせて踊るが、ワンテンポ遅れる者や足がもつれる者。そもそもリズム感が無い者。

見ていても愉快だなと担任の鈴木先生やアイルは思った。

「アイル先生も一緒に踊りましょうよ!」

圭吾がアイルを誘った。

「え?僕も?」

アイルは面食らって言った。

「アイル先生が一緒に踊ったら盛り上がると思うんだけど?」

圭吾はニコニコして言う。

「えー・・・本場のアメリカのダンスを披露しないといけない時が来たかな?」

アイルが少しふざけて言うと、クラス中が盛り上がった。

皆いい雰囲気の中練習をした。


「あれ?高野達のクラス今練習なんだ。」

バスケ部現キャプテンの柚木が話しかけてきた。

柚木達のクラスは反対側のエリアで体育の授業だ。

「柚木君。そうそう、三時間目に皆で合わせて練習をしてるのよ。文化祭まであと一週間だからね。」

「そっか。あ、そういえば!高野って相沢さんと付き合ってるの?」

柚木は唐突に聞いた。

「え!?付き合ってないよ!?何で!?」

真夏は真夏でビックリし過ぎて声が裏返ってしまった。

「や、あの、昨日…バスケ部の一年達が高野と相沢さんがやけに親しげに話していたり、一緒に下校してたとか言っていたから。付き合ってるのかなぁ?あんな毛嫌いしていたのに…と、思ってね。」

「一年生・・・何処で見ているのかわからないわね・・・。」

「うーん。高野と相沢先輩は校内で有名な二人だから皆の期待に応えて早く付き合えば?」

柚木はしれっと言った。

「冗談じゃないわよ?私、来年は受験生なので。恋愛は致しません。」

真夏はとりあえず柚木にそう言った。

誰の事が好きかもわからない状態で迂闊な事は言えない。

中途半端な発言はするべきではないと判断した。

「高野・・・。」

「何?」

「お前・・・行ける大学あるのか・・・?」

周りが思っている様に柚木も聞いた。

「・・・失礼ね。何処かあるでしょ!!それに未だ一年有るし!!」

真夏は真っ赤になって怒った。

加奈子も、圭吾も隣で噴出していた。

「そうだよな。ごめん、ごめん。今から勉強すればどうにかなるよな?」

「そうよ!やれば出来る!きっと出来る!」

「・・・大河、後は任せた。」

柚木は加奈子にそう言い残し授業へ戻って行った。

皆での合わせの全体練習も終わり丁度3時間目が終わった。


「はぁぁぁぁぁあ!上手く合わせれなかった・・・。」

「真夏、リズム感無さ過ぎて・・・びっくりしたわよ。」

加奈子は初めての事実に驚いていた。

「だって!テンポが速くて!」

二人でそう話しながら廊下を歩いていると、隣のクラスの神崎真美が話しかけて来た。

「ねぇ、ねぇ、高野さん、大河さん。ちょっといい?」

二人は真美に階段の踊り場へ呼ばれた。

「何?神崎さん。私たち次の授業の準備があるんだけど。」

加奈子は少し怪訝そうな顔をして真美を見た。

真夏は喧嘩でも始めやしないかと加奈子の顔を見ていた。

「もぉー、大河さんそんな顔しないでよ。アイル先生の事でちょっと聞きたいだけだから。」

真美は媚びた笑顔で加奈子を見た。

「何?」

「あのね、アイル先生ってぇ彼女とかいるのぉ?」

月並みな事を聞いてくる。

加奈子は真夏の顔を見た。

「・・・アメリカに置いてきているんなら知らないわよ?居るのかどうかだなんて。そんな事聞いてどうするの?あなたの一方的な好意なら相手は臨時講師とはいえ教師には変わりないのだから迷惑だと思うけど?」

加奈子は正論を突き立てた。

真美は目をまん丸くして笑った。

「やだぁ、そんな正論ばかり言わないでよぉ。真美でもぉわかるし。でも好きなんだから仕方ないでしょ?」

真美は好きで何が悪いの?と言わんばかりの笑顔を二人に向けた。

「あなたって噂通りの女の子なのね。よくわかったわ。とりあえず彼女が居るのかは知らない。好きな人が居るのかも知らない。真夏、授業遅れる。行こう。」

加奈子は真夏の手を引っ張り教室へ向かって行く。

真美が笑顔で後ろから真夏に声を掛けた

「高野さん、相沢先輩かアイル先生。早くどちらかに決めなさいよね。他の女の子達もあの二人を狙って居るんだから。どちらも興味ないなら早く手を引いてね。」

真美は真夏にそう投げかけた。



ー続くー













































Oh!my teacher!を読んで頂きありがとうございます。

前半の物語が終わりました。

書くときに思い付いた題材が女子高生と外国人教師。

でも、英語が出来ないちょっとアホな女の子という設定にしました。

私自身、英語は苦手なので(簡単な言葉、単語くらいしか分かりません(笑))外国人の英語教師という設定は些かやり過ぎたかも・・・と悩みましたが、本当は日本語ぺらっぺらのアメリカ人に設定を組み替えたり。そうすることにより話の内容が変わることに物凄い葛藤を覚え、何度か読み返して書き換える作業が発生したり・・・実はこの物語を描くのに苦戦している自分が居たりします。

高校時代の頃の事を思いだすと必ずしもいい思い出ばかりではなく、辛い事、きつかった事、悲しかった事。

思い出すと辛いことの方が多かった気もします。

真夏もアイルがやってきたことにより悩む事が多い日々を送る事になりました。

少し自分自身に重なったりする部分もあります。


物語後半も悩みぬきながら物語を紡いで行きますので、読んで頂けると幸いです。



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