魔王の父君
リハビリです。気軽にほんわかして頂けたら嬉しいです。
惰眠を貪る秋のとある日。
いつものように愛用のベッドの上で包まりながら幸せいっぱいに惰眠を貪っていた。ハズ、だった。
ベッドを中心として青く光り、そして布団から覗いた天井の高さとなんか歴史の教科書に載ってそうな豪勢な天井に思考が停止した。
もとい意識が遠のいた。
ブラックアウトである。
「ぱぱうえ、ちょーかん!
「さすが陛下、成功でございます!」
「この芋虫のような人間風情が陛下のお父上だと…!?」
「しかし異世界召喚でしか陛下のお父上は務まらんからな。まあ飽きたらまた召喚されるだろ」
小さな幼女が芋虫のように包まる男の周りを、キャッキャッと喜んで踊りあまつさえそれに馬乗りになっている。
『うう、…』
「とりあえず、ここに《陛下のパパ上計画》を実行に処す!皆の者、頼んだぞ!!」
ここは平和な魔王領。
300年前に新たな魔王が産まれ、現在進行形で甘ったれ怪獣に爆進している。しかし周りは忠実なる下僕ばかりで魔王は本当の愛情というものに飢えていた。
隣の芝は青い、というように魔族の民の子供たちには寄り添う両親や家族がいるのに自分にはいない。魔王はそうゆう生き物だからと言われてしまえばそれまでだが、そんなこと幼いお子様には理解できない。癇癪を起こし、起こしに起こして山が一つ吹っ飛んだところで、ようやく提案があった。
それが今回の召喚に繋がる。
「だからこんなに、なんの付与もない異世界召喚者なのか。俺、長いこと異世界からの召喚者見てきたけど付与無初めて見た」
いわゆるステータスという名の鑑定を眺めながら、見上げた一覧に目を丸くさせた。
シュウヘイ・ミズチ
Lv.1
38
男
HP:10
MP:10
異世界から召喚されし者
特殊スキルなし
付与属性なし
加護なし
※付与無により、どんな条件なものでも上書き可能。尚、付与された能力は通常の5倍の速さで成長する。
「ある意味レジェンド級じゃねーか、…5倍、…」
「さすが魔王様の父君として召喚されるだけのことはある。こりゃ化けるぞ」
今はへなちょこだが今後を考えれば魔王さえも越すかもしれない未知の生命体だ。召喚とはそれほどの価値を生み出すこともできる。
癇癪魔王様をこの男がいかに上手く成長させるかに、この魔王領の未来はかかっていた。
「頼んだぜ、我らが魔王様のパパ上様」
▷▷▷
「ほら、あーちゃんパパの上じゃなくてお椅子にちゃんと座らなきゃダメだよ」
「やー!ぱぱうえのがいー!!」
「でもほら勇者さん一行が来ちゃったから、セオリー的には椅子の方がいんだよ…ね?」
「そうですよ陛下。勇者どもが来た時は椅子だと先日の授業で習いましたよね?」
「やらー!いしゅやらー!!」
「困ったなあ…じゃあ、あーちゃん。終わったらパパ、あーちゃんのこと一日中抱っこしてあげるから勇者さんが来てる間だけは椅子に座ろう?」
「いちにち!だっこ!!あーちゃんいしゅしゅわる!!!」
「パパ上様、陛下を甘やかさないでください…」
「いやあでもこうでもしなきゃ、あーちゃん絶対椅子に座らなかったよ?あの駄々は割と本気の駄々だったから…」
満面の笑みを浮かべて大きな魔王の椅子に座る、小さな幼児。
「陛下…、勇者の奴らをボッコボコにすればそれだけ早く終わりますよう。そうすれば陛下の抱っこはそれだけ長くなりますからねえ」
その横で勇者にとっての邪な助言をする部下と、その言葉に乗せられググッと殺る気満々の幼い魔王陛下。
「ぱぱうえ、あーちゃんがんばるからまっててね!!やくしょく!!」
幼い娘のやる気の強さにパパ上となった男は「うん」と笑顔で頷いた。
やる気満々、今期最大勢力を誇る勇者一行がこの後まさか教会で「死んでしまうとは情けない」を言われるとは思ってもいないだろう。
それ以降彼らは戦意を喪失し「魔王怖いヤバイ無理絶対無理」とうわ言をこぼすようになったのは仕方ない。
「ぱぱうえ抱っこ!!!」
「あーちゃん頑張ったね、お疲れさま」
両手を広げれば、満面笑顔で抱きつく。肩に頭擦り寄せてムフーッとばかりに満足げに抱っこしてもらい喜びが漏れ漏れだ。
こうして魔族領は、異世界から召喚されたパパ上様の力によって平和がもたらされていたのであった。
久しぶりの投稿です。今後ともよろしくお願いしますヾ(*´エ`*)ノ