悪役令嬢への未来を阻止〜〜人生のやり直し〜〜
私の名前はマリア・ジョセフィーヌ。
この国の始祖を築いた由緒正しい五大貴族の末裔であり、男児のいない我が家では私が次期当主よ。
次期当主として、学業に励み、有能な人間を私の傘下に入れて、富をさらに築く。
今日もそんなことを夢見ながら寝たら、摩訶不思議な場所へと誘われた。
周りは真っ黒でほとんど見えない。
ほとんどというのは見える物もあるから。
そう、白い口とそこから覗く歯だけだ。
「会えてよかった」
白い口は喋り始める。
異様な光景だ。
き、キモい。
何ですの、あなたは?
「いきなり、これか。まあ、この時の君はそんな感じだよね」
勝手に失望して、勝手に納得する。
失礼な口だ。
あなたは目よりも口が物を言うのね。
「君には今この空間と僕はどう見えてる?」
見渡す限りの暗闇と明らかに浮いている口。
自分の姿すら暗闇のせいで見えない。
真っ暗よ!
そして白い口!
明かりくらいないの!
その言葉に白い口は口を閉ざす。
何かを話そうとしてまた閉じる。
焦ったい。
「君はね。もうすぐ死ぬんだ」
ーーーーはい?
意味がわからないわ。
何で私が死なないといけないの?
この意味のわからない生き物ーーと呼んでいいのかわからないものが告げる。
「身に覚えはない? 何で死ぬか?」
そうね、近々の予定と言えば、オレルアン公爵のダンスパーティーに招かれているくらいかしら。
はっ!
まさか落車?
白い口はため息を吐く。
何もわかってないと思い気な。
腹立たしい。
そうすると私は何故死ぬのか。
「君はね、一年後に家ごと火を点けられて家族と共に死ぬんだ。学校にいる学生たちのこれまでの恨みから殺されるんだ」
何故私が殺されなければならないの?
私はこの国の宝よ、美貌だって一目会ったら一瞬で惚れられるくらい完璧よ。
その私を殺そうとするなんて、許さない。
逆に全員やられる前にやるわよ!
「証拠もないのに? それこそ反感を買う。例えそんなことをしても君は助からない。もう未来へ進み始めているんだ。君が死ぬ未来へ」
そっちこそ証拠はどこにあるのよ!
あるなら出しなさいよ。
白い歯は黙る。
何も喋らない。
ほら、やっぱり嘘じゃない!
「今の君は本当に救いようがないな。しょうがない、これはサービスだよ。未来の一部分だけ教えてあげる。まず、今日、君のロッカーに手紙が届く。まあ、これどおりすると多少良くなるから無視しないように」
て、手紙?
誰からよ!
「それは言えない。ごめんだけど今話している事もギリギリなんだ。質問は答えないよ」
黙るしかなかった。
もし今日それが起きなければ嘘って事だから、真偽の判定は簡単だ。
「一ヶ月後、噂を聞く。嫌な噂だ。その三ヶ月後、家に大量のヤギの頭が送られる。そしてさらに三ヶ月後、家は貴族としての地位を落とされる。さらに二ヶ月後、君は学校に居られなくなる。一ヶ月後、領民から苦情や罵詈雑言が飛びかけられる。
そこから三ヶ月後、家に火が点けられる。おまけに最後の二日間だけ見せてあげよう」
そう言うと、その空間が変わる。
いつもの見慣れた我が家。
青い屋根の屋敷が映る。
庭園には赤い薔薇がいつも咲いているが、その光景では無残にも枯れている。
それは長い間放置されているようだった。
何これ?
私の大好きな庭がどうして?
たくさんの使用人が庭の手入れを欠かさずにするのに。
また景色は移り、近くの川辺に二人の男女がいた。
あの金髪に私のお気に入りの青いワンピース。
あれは私?
自分と思われる女性は頬が痩けている。
目には黒い隈ができていて、美しさのカケラもない。
隣にいる男は昔からの幼馴染。
昔はよく遊んだのにいつからか下僕のように扱っている男だ。
今では名前も覚えてない。
その男と昔のように笑って話している。
今の自分と同一人物とは思えないほど仲良く。
また場面が移る。
火が屋敷を包む。
その屋敷の周りでたくさんの人間が笑っている。
同じ学校の生徒たち、先生、見下してきた人が
まるで祭りのような光景だ。
そして窓から身を投げる私。
気分が悪くなり、私はたまらず吐こうとする。
だが夢のせいか何も出てこない。
ただ気持ち悪いだけ。
「これが僕にできる最後だ。また会えたら、僕を思い出していてほしいな」
少しずつ目の前が薄れてくる。
そして眼が覚める。
王都マジョッセル学校。
そこはある程度資産がある貴族の子供が通う魔法学校。
クラスを赤、青、白、黄、緑の五色で分けており、男子はブレザー、女子はスカートにそのクラスの色が付いている。
私は青のクラス。
貴族の力を均等に分配しており、権力を偏らせない。
上級生が下級生の面倒を見て、下は上を見て学び、上は下に恥じない振る舞いを学んでいく。
その一環として、季節祭では色ごとにチームを組んで一年間勝敗を競う。
学費は高額で、普通の庶民では払うことなどできないほどだ。
私は初等教育、中等教育まで納めて、現在高等教育を受けている。
初等から入る者など中級貴族以上しかいない。
中等から低級貴族が入ってくる。
高等からは庶民も入ってくる。
しかしそれは各分野で実績や才能がある者に限る。
だから私は偉大なのだ。
この国でもっとも偉大な五大貴族の私にはたくさんの人間が媚を売り、取り巻きとして侍らせている。
もし私を怒らせるなら家の力で貴族として生きられなくすることができる。
だって私は偉大な五大貴族なのだから。
朝の学校へ行く。
いつもなら私の身の回りの世話をする下僕が同じ学校に一緒に行くのだが、今日は外せない予定があるため、私だけで登校だ。
私が登校すると、誰もが道を空け、一礼をする。
いつもの見慣れた光景だが、今日は恐怖を感じる。
この敬礼のポーズをしている者たちが、私の屋敷に祭り気分で火を点けるのだ。
だが、それが事実かはロッカーを見ないことには始まらない。
ロッカー前に辿り着き、一度深呼吸をする。
リアリティのある夢が真実か嘘か。
ロッカーに手を掛けて、開く。
「う、嘘よ……」
そこには一枚の手紙が入っていた。
夢のとおりにそれは入っていた。
顔から血の気が引くのがわかった。
それはお告げのとおりだった。
恐る恐る手を伸ばそうとすると声が掛かり、ビクッと体が反応する。
「「おはようございます。マリア様、本日もご機嫌麗しゅうございます」」
二人の女子生徒が挨拶してくる。
その二人はレイナとアスカ、特に私のお気に入りで上級貴族の令嬢であり、初等教育から私を敬う賢い子たちだ。
二人とも私の家の家紋が付いたバッジを襟元に付けている。
レイナは落ち着いていて、アスカは少し活発な子だ。
「ご、ごきげんよう」
「どうかしました、マリア様? 少し顔色も悪いようですが」
「大変! 今すぐ医者の方を手配しますね!」
レイナが体調の異変に気付き、アスカがすぐに医者を手配しようとする。
いつもの挨拶とは違うことにすぐ気が付いたのだ。
「い、いいえ、大丈夫ですわ。ちょっと嫌な夢を見ただけですので。今日は先に行ってよろしいわよ。ちょっと寄るところがあるので、先生には最初の授業だけ出席しないことを伝えてもらってもよろしいかしら」
「わかりました、でもご無理はなさらず。もし何かあれば何でもお申し付けください」
「マリア様はこの国の宝なんですから」
二人と別れ、急いでトイレへと向かう。
しかし、また見知った顔の男が見える。
私の思い人であり、許嫁のウィリアノス様。
今日も端正なお姿に少しばかり心が和らぐ。
「おはようございます、ウィリアノス様」
「ん……ああ、おはよう」
ウィリアノスはこちらに挨拶を返すが、すぐに学友に気付き、そちらへ向かって行った。
将来を誓い合った仲(親の取り決め)なのに、ウィリアノス様から接してくれることはない。
少し寂しい思いはあったが、それを吹き飛ばす人物と出会う。
「あら、マリアさん。今日もウィリアノス様に気にも留められず、大変麗しゅうございます」
私の嫌いな女ランキング不動の一位、同じ五大貴族のアクィエル・ゼヌニムが絡んでくる。
ウィリアノス様は人気があり、私が婚約者であることを恨む者も多い。
「今あなたと遊んでいる時間はないのよ」
私は全く喋りたくなかったので、アクィエルを無視して、またトイレへ直行する。
後ろで無視するんじゃないわよ!という声が聞こえたが無視無視!
個室に入り、先ほどの手紙の封を急いで破く。
手が震え、冷たくなっている。
中にあるのは一枚の紙が折り畳んで入っており、恐る恐る中を見る。
今ならまだ間に合う。
態度を改めるべし。
そのための救済案を提案する。
学校が終わり次第、三箇所で行われているイジメを解決。
一、中庭の倉庫の裏
二、別棟、魔術の実験場
三、中等科三の一クラス
これを解決したならば、次の指示を送る。
手紙には簡潔に書かれており、宛先は書いてない。
筆跡は綺麗な字で几帳面さが出ている。
「なんで、私がこんなことをしないとーー」
夢の話を思い出す。
手紙の指示通りにすると良くなるかもしれないと言っていた。
「分かったわよ」
私はとりあえずその手紙を頭に入れ、授業に参加する。
取り巻きたちは朝のことを心配していたが、平常心を取り戻して普段通り授業を受けた。
そのまま放課後になり、急いで中庭へいく。
このままでは私がいることがバレてしまうかもしれないので、草の付いた枝を手に持って、草木と同化する。
しかし、辛抱強く待つということに慣れてない私はイライラが募る。
まだかしら、早くイジメなさいよ!
ふぅ、落ち着くのよ、私。
私は草よ。
無心、無心!
時々笑い声や私の名前が聞こえたかもしれないが今は目の前を通る人に集中しないといけない。
数十分後、イジメをしていると思われる五人の一行がやってくる。
「早く歩きなさい、この鈍足」
太った男が首輪を付けられ、女から蹴られている。
それに追従するように取り巻きたちも蹴り出す。
男には見覚えはないが、女には見覚えがある。
いや、この学校なら知らない者はいない。
私よりワンランク落ちる貴族のユリナナ・パーキンス。
年は同じである。
「本当にあなたはストレス解消にいいわ。あのクソマリア、今日は病弱アピールなんてして本当に目障り」
なんですって?
私の悪口なんていい度胸ね。
それにしてもイジメられている男は太った体型に弱々しい態度、イジメられて当然のダメンズじゃない。
でも、手紙の通りにしなといけないからそろそろ出ようかしらね。
「あんなやつウィリアノス様に合わないのよ。ただ家が大きいだけで近くに居られるだけなのに。ふん、いまのうちだけよ、どうせーー」
「あらユリナナさん、ご機嫌麗しゅう」
私が颯爽と登場すると、ユリナナ含め、取り巻きたちがこちらを目を見開いて見る。
私は普段から持っている扇子を大仰に振って開く。
オーほほほほ。
「マリアさん、どうしてこちらへ」
ユリナナの声が震える。
誰に喧嘩を売っているかは自覚しているようだ。
「たまたま通りかかっただけですわよ。クソやら病弱アピールやらと品のない言葉が聞こえたのですが、誰が誰へ向けて言ったのかしら?」
私は勢いよく扇子を閉じる。
ピシャリと音を立て、全員顔を青くする。
「まあ、私は聞きたいのはそんなことじゃないの。そこの君、名前は?」
イジメられていた男はビクつきながらも答えた。
「る、ルージュです」
「そう、あなたはイジメられていたように見えたけど、どうなのかしら?」
「違うわよね、ルージュ? 私とあなたとの仲ですもんね」
ユリナナの脅しとも言える問答にルージュはあたふたするのみ。
本当に情けないわね。
これじゃ揉み消されて終わりじゃない。
私がお膳立てしてあげるから感謝なさい!
「そうでーー」
「答えなくていいわ、ルートさん」
「……ルージュで……っひぃ」
私の睨んだ目を見てルージュは小さく悲鳴を上げた。
名前くらいで揚げ足取るじゃないわよ!
まったく、この豚さんは。
私は普段持ち歩いているポーチからバッジを取り出し、ルージュへ投げる。
ルージュは慌ててそれをキャッチする。
「えっと、ええーー!」
ルージュはバッジをまじまじと見て、私を畏敬の念を持って見る。
それはユリナナたちですら、考えられなかったことだ。
私の家の家紋が入った由緒あるバッジだ。
学校では装飾品の規制はない。
それゆえにいつからか、自分の派閥に入った者には家紋の入ったバッジを送ることが習慣となったのだ。
つまり、今からルージュは私の手下にしたのだ。
拒否権は、まあ、私に逆らうことができるのかしらね。
「ではご機嫌よう、ユリナナさん。ルージュさん、明日私の席までいらっしゃい」
私はそのまま踵を返して、その場を後にする。
私がしたことはただバッジを渡しただけ。
しかし、それだけでもうユリナナたちはルージュに手を出すことが出来なくなった。
残りの二件もちょうどイジメの現場で、同じように貴族が自分より下の者をいじめていた。
先ほどのようにバッジを渡して助けた。
助けたのは庶民である同い年の女子生徒ベールと低級貴族で二歳下の男子生徒オラン。
ルージュは同い年の庶民だった。
手紙の通りに全部やったわ。
一体この手紙は私に何をさせたいのかしら。
それにしても、イジメていた貴族たち全員私と対立している人たちだったわ、本当にくだらない人達だこと。
いじめられていた子達もみんな私と同じ青のクラスだった。
次の日のホームルームの前にイジメられていた子たちがきた。
その襟元にはバッジが付けられていた。
「あなたたち、そのバッジは……」
レイナは驚いてそれを見た。
「マリア様、なぜこの庶民にも大事なバッジをお与えになるのですか!」
「そうですよ! 一人は貴族だからまだしも庶民を入れたら他の貴族グループから下に見られます!」
レイナとアスカは否定的であった。
その他の取り巻きたちも同じだ。
もちろん私もですわよ。
だけど私は死にたくない。
だからこうするしかないのよ。
三人のいじめられっ子たちは目を伏せ悲しげであった。
ここにいるべきでないと思い、その襟元のバッジを外すために手を伸ばそうとする。
「皆さん、私がなぜ彼らをグループに入れたか理由が分かりませんか?」
私の言葉にみんなの視線が集まる。
咄嗟に出た言葉で、私は何か考えていたわけではない。
頭を急いで動かす。
思いつかない。
「マリア様、申し訳ございません。浅学非才な私では考えが及びません」
「ぜひ私たちにその理由を教えてください!」
レイナとアスカが私の考えを理解出来ないことに悲痛な顔をする。
他の取り巻きたちも同じように頭を下げて教えを乞おうとする。
ちょっと待っててね。
今急いで考えるから!
間を持たせないと。
私の視線がある男を捉えた。
夢で最後に話した幼馴染、下僕。
学校での身の回りの世話をするのが彼の役目。
名前を呼ぶのが面倒なため、ずっと下僕と言い続けたらとうとう名前を忘れた。
下僕、君に決めましたわ!
「下僕、その顔は何か考えついているようね」
みんなの視線が下僕へと集まる。
ごめんね下僕。
今のうちに考えないと。
下僕は驚き、下を向く。
みんなから一斉に答えるよう強要される。
私は普段無口な下僕が喋るとは思ってない。
しかし彼は口を開いた。
「おそらく今後行われる季節祭のイベントの総合優勝を狙うためではないでしょうか」
春の魔法祭
夏の武術祭
秋の芸術祭
冬の学術祭
通称、季節祭。
この学校では季節ごとにイベントがある。
これを観に来る王族もおり、街ではカーニバルが開かれる。
貴族の寄付金もたくさん集まるため、豪勢なイベントになるのだ。
しかし、どれも各分野で優れた者ぐらいしか活躍の場はないので、突出したものがない私には学業の集大成である学術祭以外は無縁だ。
特に活躍するのは、高等から入った優秀な能力を持つ庶民と一部の才能ある貴族くらいだ。
しかし、これにはグループ参加があるのだ。
全てのイベントの点数を合計して競う。
これは貴族たちの人をまとめ、導く力を養うために作られた制度だ。
もし優勝すれば、リーダーがこの学校の代表として国から大々的なお祝いを卒業時に頂ける。
「どうしてマリア様がそのようなイベントのために彼らを?」
レイナは聞き返す。
みんなピンとはこないようだ。
私もよ。
「お嬢様は大変お優しいお方。この学校の現状に憂いられたのでしょう」
「どういうことでしょうか? 素晴らしい学校だと思いますが?」
レイナの言葉を下僕が首を振り否定する。
「このイジメが何よりの証です。マリア様は身分に貴賤ないことを自ら音頭を取り、イベントに参加することで示そうとしているのです。そうなれば、能力はあるが差別される者たちはマリア様の庇護下に置かれて、十分に結果を残せます」
下僕の言葉を聞いて、いじめられっ子たちの顔色が戻り、まじまじと私を見る。
疑心と期待が入り混じっている。
下僕、あんた今日はやけに饒舌ですわね。
けど、ーーーー。
「確かにそうなるでしょうが、庶民のためにわざわざマリア様が泥を被ることなどーー」
私はレイナの言葉を遮る。
よく、適当なことを言ってくれましたわ。
後は私に任せない。
「流石ね下僕。でもね、もう一つ理由があるのよ」
みんなの視線が再度私に集まる。
その目は尊敬だ。
一語一句聞き漏らさないようにしている。
下僕だけは心配そうな顔で見ている。
あんたが振ったんでしょ!
「皆さん、遺憾ながら私を疎ましく思っている輩が多くいるみたいなの。その子たちを救けた時も私の悪口を言ってたわ」
ルージュの方を向くと彼は頷いてくれた。
その顔には怒気が現れる。
「何ですって! 許せません! どこの者ですか!」
「みんな! その不届き者を断罪するよ!」
レイナとアスカは真っ先に怒りを露わにして、他の者たちを焚き付ける。
怒りが伝染して、戦でも起こりそうなほどの緊張が高まる。
だが、まず私が制する。
まだ私の話は終わってませんわよ。
「お待ちになって」
「止めないでください、マリア様」
「そうです。マリア様を侮辱するのは私たちを侮辱しているも同然です。私たちの総力を持ってーー」
あら、嬉しい子達ね。
さて仕上げに。
「あなた達の私を想う気持ちは嬉しいですわ。でもね、争いは争いしか生まない。私はそんなこと皆さんに望まないし、してほしくはないですわ」
レイナとアスカ含め、全員が感激を受けている。
何故だか私の心が少し痛む。
偉人の言葉は私には重すぎるわ
嘘って心痛むのですね。
「でも私も自分の格を落とすつもりはないですわ。そのためにあなたたちの力を貸してくださいませんか? 良き学校への第一歩として、一緒に学校を変えていきましょう」
私は庶民たちに手を差し伸べる。
その顔には迷いがある。
こちらの顔を伺う。
私は微笑みで返した。
「僕を救けてくださった貴族はマリア様だけでした。どうか、協力させてください」
ルージュが言うと、二人も続く。
では、来月の魔法祭いきますわよ。
優勝、ジョセフィーヌ様率いる「ウィートアンドチャフ」
オーほほほほ、良くやったわ。今日はお祝いよ、貴方達。
魔法祭は無事優勝。
チーム一丸の勝利と言いたいが、全て庶民達の力であった。
イジメられていた下級貴族のベールもまさか隠し技能を持っていたなんて、なんて恐ろしい子。
あの手紙はもしかしてそれを予期してたのかしら。
パーティ会場を我が家の贅を尽くして、みんなを歓迎する。
庶民よ、そんな驚愕するでない。
これからは何回も経験するのよ?
「あの、マリア様。庶民の僕たちをこんなステキなパーティに招待してくださりありがとうございます。でも……、大丈夫ですか?」
ルージュはお礼を言ったあと、小声で話しかけてくる。
やけに不安そうな顔だ。
「何がですの?」
「いえ、単なる噂ならいいのですが、近々、ジョセフィーヌ家は負債で資金繰りが悪いだの、主力製品のお菓子にたくさんの異物が見つかっているとか」
私はそんな話をまったく知らない。
新聞なんて読まないから世俗の情報はほとんど知らない。
背後にいる昔から我が家で働いている執事のじぃに聞く。
「そうなのじぃ?」
「さて、私は初耳ですな」
若干であるが少し顔が青い。
誤魔化しているのが見え見えだ、
大丈夫よね?
でもなんでそんなことーー。
そこで前に見た夢を思い出す。
嫌な噂。
私はそのまま倒れた。
未来がまったく変わってないじゃない。
次の日また手紙が来ていた。
噂を現実にしたくなければ、次の二つを行いなさい。
1、あなたが潰した貴族全員を救済する案を考えなさい。
2、領民が水害や魔物の被害に困っています。貴族の役目を果たしなさい。
もう何なのよ、この手紙。
でも死にたくない、死にたくない。
私が潰した貴族達の救済は借金がひどくなりすぎて、簡単には解決できなかった。
そのため、先に領民達を救う。
「ねえ、お父様」
私は必殺猫ちゃんねだりを使う。
イチコロにゃん!
「何だい、私の可愛いマリアよ」
お父様はもうメロメロになっている。
ちょろいわね、この狸。
さてお願い、お願い。
「私ね、いずれここの領主になるじゃない。だから、今のうちに少し練習してみたいの。少しだけ私に任せて頂けませんか?」
「ああ、いいとも。愚民達の扱いは大事だ。お金はいくらでも使うといい。だがあまりにも高額なら私の許可を取るよう、じいには言っておくからな」
「ありがとう、お父様!」
大好きハグをして、明日から実行する。
「マリア様、水害をどうにかしておくれ」
「今年は不作なんだ、減税してくれませんか」
「凶暴な魔物が住み着いたんだ。冒険者を雇うお金もない。どうにかできませんか?」
ええい。
任せなさい。
全部よーくなれー。
全てを一ヶ月で解決した。
実際はやってる最中だが、時間の問題だ。
「ありがとうマリア様。マリア様が領主になるなら私たちの生活は何も心配いらねえ」
領民からはたくさんのお礼を言われた。
結構嬉しいものね。
やったことがすぐに成果になるし、私って領主の才能があるのかしら。
「下僕もよくやったわ。村人達の意見をまとめてくれて助かったわ。あなたのことを見直したわよ」
下僕は嬉しそうに照れる。
少しばかりこの子の評価を改める。
「僕がお役に立ててよかったです。普段から魔法の研究で色々な材料を貰いに行くので、その見返りに手伝ってたんですけど、今回は僕一人では無理だったから本当に助かりました」
「へえ、魔法の研究なんてしてるのね。どんな魔法?」
下僕が恥ずかしそうに俯く。
少しばかり顔が赤い。
「大切な人が困った時に助けることができる、そんな魔法です」
あら、素敵じゃない。
その子も幸せね。
その後、夏の武術祭も優勝した。
まさかあの太っているルージュが動けるデブだったなんて。
やるじゃない!
今日もパーティよ。
庶民達が優秀だとわかり、片っ端からイジメを救い、私の傘下に入れていく。
他のクラスでも関係なく助けることで、本来は良くないが私たちを陰ながら支えてもらっている。
私に勝てる人はいるのかしら?
その後一悶着あったのは秘密。
「よっ、マリア。やるなお前」
そのお声は、私の愛しい方。
「ウィリアノス様!」
「また負けたぜ。まさか庶民達があんな活躍するなんてな。お前の見る目はすごい。次は負けないからな」
ウィリアノス様は嬉しそうに去っていく。
そういえばウィリアノス様はこういうイベントお好きでしたわね。
まさかあちらから話しかけてくるなんて、もう嬉しい。
無事武術祭も終わり数日後、家に帰る途中、村人達と行商人が揉めている。
「どうしたのかしら? 」
村人の一人が話す。
「あっ、見てくださいマリア様! この行商人が不吉の象徴、ヤギの頭を大量に持っているんです。どうやらマリア様の家に持っていこうとしてたから私たちで抗議してやったんです」
ま、また夢のお告げ通り。
ちょっと目眩が。
なんて物持ってくるの!
私は行商人を睨みつける。
「ち、違う。俺は知らなかったんだ。名前も知らされず、多額のお金を渡されてただ持っていけばいいって」
私の家まで持ってきて欲しくないから持って帰るように指示する。
あと半年後、どうしよう。
本当にこれで大丈夫なの?
芸術祭、三位。
嘘でしょ、今回私が満を持して私の作品を出品したのに。
私の作品は最低評価。
他の庶民達が頑張ってくれたから三位だった。
優勝はウィリアノス様。
ああ〜、やめてくださいまし。
そんな残念そうな顔を向けるのだけは。
アクィエルたちにも負けるなんて、何よ、あの憎たらしい下に見た目は。
「だ、大丈夫ですよ、マリア様。今日は少し辛口の評価だっただけですから」
「そうですよ! 次で勝てば確実に優勝です」
そうよね、ありがとう。
レイナとアスカ、最後に勝てばいいのよ。
その日の夜、お父様が国王の元へ連れていかれた。
領内で麻薬、そして所有するお店で大量の武器が発見された。
もちろんお父様も身に覚えがなかったが、最近嫌な噂が多かったこともあり、さらには用意周到な罠に嵌められ、しばらくは五大貴族から落とされ、中級貴族として扱われることとなった。
一年間、これまで以上国へ貢献すれば五大貴族へと戻れる。
しかし国への発言力も落ちて、しばらく大変なことになる。
私も学校へは行きづらい。
私の噂も多い。
領内の水害等を見て見ぬ振り。
学校ではイジメを行なっている。
成績は不正をしている。
学校史上最悪の悪役令嬢
それは根も葉もない噂と言うことはできるが、今の私を誰が信じるのか。
どのような顔で学校に行けばいいのか。
五大貴族でない私に何の価値があるのか。
私は数日引きこもる。
このままいくと、お告げの通り死んでしまうかもしれない。
だけど無気力だった。
どうすればいいのよ!
ここまで頑張っても無駄じゃない。
しかし、私を迎えに来た者がいた。
「マリア、迎えに来たぞ」
それはウィリアノス様だった。
どうやら、学校でも心配している者が多く、多くの人に頼まれ。ウィリアノスが直々に行くことになった。
学校へ着くと、みんなが心配そうに話しかけてくる。
「マリア様、私たちはあんな噂信じてないですわ」
「そうです。マリア様はずっと一生懸命やってこられました。下僕も率先して、冤罪だと学校で演説したんですよ」
下僕、あなたなんていい子。
その下僕は行き過ぎた演説で一週間の謹慎となっていた。
貴族、平民関係なく、誰もがマリアを疑ってなかった。
それにホッとすると涙が出てきた。
「どうしたました、マリア様! 」
「お身体の具合がわるいのですか!」
わからない。
なんでかしら。
すごく心が温かいの。
「ごめんなさい……、なぜだか、……嬉しくて」
私は両手で顔を隠す。
まるでダムが決壊したようにずっと涙が止まらない。
レイナとアスカは私の肩を抱いて、ずっと慰めてくれた。
次の日、手紙が来ていた。
ただ短く、そして簡潔に。
今回の首謀者は五大貴族のアクィエル・ゼヌニム。
そして、あなたが昔追い詰めた貴族たち。
私は今までやってきたことの集大成をしなければならないようだ。
学術祭がやってきた。
これだけは内々のイベント。
しかし、ここでの成績は進級や今後の学校生活を左右する。
違反する者は即退学。
私は次期当主として、五位以内には絶対に入らないといけない。
五大貴族たるもの、成績もトップクラスでなければならない。
試験結果は当日に順位表が五十位まで張り出される。
私は試験日までやることが多くて大変だったが、勉学もいつも以上に励み、試験に挑んだ。
しかし、その表には私の名前はなく、ウィリアノス様とアクィエルが一位二位を取っていた。
そして、違反者の欄に私の名前が書いてあったのだ。
「あら、"元"五大貴族であるはずのマリアさんが不正だなんて最低ですわね」
アクィエルが近付いてくる。
傲慢な顔で私を見下してくる。
「やはり噂は本当だったのですね。私は残念です」
この顔と態度でわかる。
この女は私を貶めようとしている。
周りがざわつく。
「おい、マリア! どこだ! これはどういうことだ!」
ウィリアノス様が私を探している。
理由は聞かずともわかる。
私は何も喋らない。
それを見てさらにアクィエルの笑みが深まる。
「ウィリアノス様! こちらですわよ! ここに権威ある私たち五大貴族の名に泥を塗った愚か者がいますわよ」
アクィエルの声がウィリアノスに届く。
走ってこちらに向かってくる。
その間にアクィエルは話し始める。
「あなたとウィリアノス様は不釣り合いです。ここで婚姻の約束を破棄しなさい! そうすれば少しは学校側へお口利きしてもよろしいですわよ」
私は唇を噛む。
それは悔しさからの行為に見えているだろう。
私は何も喋らない。
ウィリアノス様が来たので、私は彼に背を向ける。
「おい、マリア! 何でお前が違反なんてするんだ! 優勝間近なんだぞ! 」
ウィリアノス様は私を気遣ってくれる。
少し前は私と出会っても興味無さげだったのに、今では私の身を案じてくれる。
「いいえ、これは誰かが私を貶めようとしているだけですわ。これから、弁解しに行きまーー」
「あら、証人がたくさんいますわよ。あなたのせいで家が借金まみれになった可哀想な方々が」
私の言葉を最後まで言わさず、アクィエルの後ろに十人の貴族が立っている。
全員、私が過去に粛清した刃向かった者たちだ。
「さあ、あなたたち、見たことをそのまま正直に言いなさい。不正をした事実を」
その中の一人が前に出て私を見る。
それは意思が決定した目だ。
覚悟をしている目だ。
力強く、私に刃向かった時と同じ強い目だ。
「ええ、不正をしていました。このーー」
その子は指を向ける。
アクィエルに向けて。
「アクィエル様がね!」
「ーーえ?」
アクィエルは狼狽える。
味方であるはずのアクィエルを指している。
私は不気味な笑いをしながら振り返る。
「ま、マリア?」
ウィリアノス様は顔が引きつっている。
私が気でも狂ったのかとそう思っている顔だ。
「ねえ、アクィエルさん」
私は優雅に扇子を広げる。
口元にそっと近づけ、堂々と立つ。
道化も終わり。
あなたが道化になる番ね、アクィエル・ゼヌニム。
「私を追い詰めようとする割には手ぬるいですわね。そういえば最近やけに私の悪口が多いみたいですわね」
「イヤですわ、何故私がそのようなことを言わないといけないのかしら?」
「では一週間前から遡って話しましょうか」
私はアクィエルが言っていたことを全て時系列毎に言い、どの内容もアクィエルは身に覚えがある。
身内しか知らないはずの内容まで。
「誰ですか、私を裏切った大馬鹿者は!」
「あら、あなたに味方っていますの?」
誰もアクィエルに近付こうとしない。
それはアクィエルだけが知らない事実。
「毎日新聞は見るべきですわよ? でないと簡単に情報の隠蔽ができますから」
「どういうーー!」
アクィエルは近くの生徒が持っている新聞を取り上げる。
私が言ったことの意味を考えるまでもなく、表紙に大々的に書かれている。
ジョセフィーヌ家の濡れ衣。
ゼヌニム家の陰謀。
その大きな見出しにアクィエルは目を見開く。
口がワナワナと震え、口を開けてみっともなくなっている。
「う、嘘ですわ。誰がこんなことを!」
「あら、なかなか鈍チンですわね。そんなの一人しかいませんこと?」
アクィエルは私を睨む。
やっと全て理解したようだ。
そして周りを見渡す。
先ほど不正の真犯人を名指しで指名した子に怒鳴る。
「あなたはその女に嵌められたんでしょ! なんで私を裏切るの! そしてあなたたちもよ」
前まで取り巻きだった者たちも私の味方になっている。
全員、アクィエルは泥船だと感じていたのだ。
少しずつ、周りの力を削いでいき、アクィエルは完全な孤立だ。
「あなたにはわからないかもしれないけど、例え私がその子たちを借金地獄にして、あなたが救済をしたといっても、その子たちに何かしていい権利はないですわよ?」
アクィエルは私が刃向かった者たちの借金を肩代わりして表面上は助けたが、その見返りは最低なものだった。
動物のマネやパシリは可愛かった。
だがすぐにそれはエスカレートし始めて、今では日常的にいじめをしていた。
そしてこの子達を洗脳して私への憎悪にすり替えていたのだ。
だから私は元どおりにした。
借金を返すために私の人脈、学校の仲間たち全ての能力を屈指してマイナスをゼロに戻した。
みんなの協力がなければなし得なかった。
「これはどうしたのですか?」
学校の最高責任者、理事長先生がやってきた。
そこでアクィエルは思い付く。
この状況を打開する一手を。
アクィエルはさっきまでの必死な顔を隠して、猫被りする。
「理事長先生、聞いてください」
「どうしました、アクィエルさん」
「マリアさんが、二位である私がテストをカンニングして不正しているって言うんです。でも、ご覧の結果の通り、マリアさんが不正で違反者となっています。この者は反省しておりません、然るべき処置を取るべきです」
アクィエルは笑っている。
その結果が本物であると。
「あら、その順位表おかしな魔法が付けられているわね」
理事長先生は手をかがけ、順位表に魔力を送る。すると、薄い紙が剥がれ始め、剥がれた部分から驚くべき事情がわかる。
アクィエルと私の順位が入れ替わった。
つまり、違反者としてアクィエルが載せられている。
あら、バレちゃいました。
「どういうこと……、理事長、私は違反などしておりません」
「あら、したではありませんか。マリア・ジョセフィーヌさんから全てを聞いておりますよ。私も魔法で遠くからあなたの卑劣な手口を聞きました。あなたは違反者として退学を言い渡します」
アクィエルは膝から崩れ落ちる。
完全に心から敗北を認めたのだ。
涙が溢れ、そのまま下を向いて唇を噛み締めながら嗚咽を我慢する。
五大貴族としての最期の意地が号哭を許しはしない。
正直、アクィエルのことは大嫌い。
でもあなたは昔の私と変わらない。
私は私を変えるきっかけがあった。
誰だって間違えるもの、そしてやり直せる。
次は私がーー。
「アクィエル・ゼヌニム立ちなさい!」
私の声にアクィエルはビクッと体を震わせる。
顔を上げ、ゆっくり立ち上がる。
これから自分にどのような仕返しがあるのか気が気でないようだ。
死刑される罪人のように、彼女の目は怯えている。
「理事長先生、どうかこの者の退学は許してくださいませんか」
アクィエルは驚き、目を見開く。
アクィエルだけでなく集まっている全員が驚いている。
「一番の被害者はあなたのはずですよ、マリアさん。彼女を許すのですか?」
理事長の目は厳しかった。
私が満足のいく答えを言わなければ認めない、学校の長として私に問う。
「いいえ。ですが私もこの学校で……この一年で学びました。私たちは人との繋がりで生きているのだと。だから彼女にも学び直して欲しいのです。人とは何か、縁とは何かを」
理事長は私を見つめる。
数秒間の沈黙が流れ、その表情を崩した。
そしてアクィエルに体を向ける。
「アクィエル・ゼヌニム! あなたは二週間の謹慎とする。復学後はマリアさんと共に行動しなさい」
それだけ言って理事長先生は去っていく。
アクィエルは涙を拭き、また強気な顔を向ける。
「私を引き止めたことを後悔しないことね」
「あなたこそ、退学した方が幸せだったかもしれませんわよ」
アクィエルは何か憑き物が落ちたかのようであった。
お互いにいつものように嫌味を言い合い、彼女は帰っていった。
全く、お礼くらい言えないのかしら。
「マリア!」
ウィリアノス様は私を呼ぶ。
申し訳なさそうな顔を一瞬作るが、すぐに男前な顔に戻り、真剣な目で私を見つめる。
「マリア、お前を疑って悪かった。そんな俺だがどうしても今伝えたい。来年の学校卒業後は俺と結婚してくれ」
私は驚く。
私は首を横に振る。
「いいえ、ウィリアノス様。私はこの学校で、ううん、一年間で人との繋がりの大事さを学びました。私は生まれたばかりなんです。人を大事にする自分が。いつか私が胸を張って誇れる自分になって、その時に私を好きでいてくれましたらまた言って頂けませんか」
ウィリアノスは口を噤んだ。
そしてすぐに爽やかな笑顔を向ける。
「そうだな。君は見違えた。俺も君に相応しい男になれるようにこれからも研鑽を積んでいく。お互いに成長した時にまた俺は言おう」
学校の中庭で大きな横断幕が張られ、最近聞くようになった男の子の声が聞こえる。
その横断幕には総合優勝と大きな赤文字で書かれている。
「マリア様、優勝おめでとうございます」
私は振り返る。
目の前が黒くなる。
夢の中で出てきた、そこに白い口だけの生物が現れた。
「もう大丈夫そうだね」
今までの手紙の差出人、そして謎の白い生物の正体。
あなたなんでしょ?
ううん、答えなくていい。
だって"あなた"はそれを知らないんだもん。
だから、これは私の心に秘めておく。
いつか、私が今日までのことを振り返る日に私はあなたの名前を呼んでこう言うわ。
「私を助けてくれてありがとう。大切なものに気付かせてくれてありがとう」
真っ黒だった空間が少しずつ、色を取り戻す。
その白い口は消え、その場所には一人の人間が花束を持って立っていた。
花束を私に渡す。
そして私は花束と一緒に手を取る。
「では行きましょうか」
私の人生はまだ始まったばかり、今からが私の物語。
彼女の困難はまだ序章に過ぎない。
しかし困難に立ち向かったからこそ物語は今もなお続くのだ。
今作の長編を連載していますので、是非読んでください