夢の中からゴスラーへ
「行ってきます〜」
リリアナは元気よく家を出た。自転車通学をしている。
「行ってらっしゃい、リリアナ。気をつけるのよ」バーバラはいつものように見送った。
リリアナが通う高校は普通科の共学。
リリアナはリリーと呼ばれてた。
リリーの友人、園田真里が声をかけてきた。
「リリー、おはよう!」
「真里、おはよう」少しいつもよりトーンが下がった返事だった。
「あら、元気ない?」すかさず、真里が気づいた。
「そんな事はないんだけど、なんか体調がおかしいの。ダルイというか…」
真里が風邪ひいたんじゃない?と言うと
リリアナの額に手を当てた。
「リリー! 熱あるじゃない?保健室行こ 」
「大丈夫」というリリーを無視して強引に保健室へ連れていった。
保健室の先生の矢野京子は、リリーに体温計を渡した。
「小野さん、風邪ひいたのかしらね。熱いわね
熱が高ければ早退してね」
ビピピッ!
体温計は38度だ。風邪かな…どうりでダルイはずだ。とリリアナは思った。
矢野先生に言われ、早退する事になった。
早退した事を母ダイアナにラインした。
しっかり休みなさい。と返信あり。
家に着いて、寝間着に着替えたリリアナは
自分のベッドに入るないなや、知らない間に眠りについた。
そして不思議な夢を見た。
リリアナは見たことのない場所にいた。
外国のようだ。
木組みの民家が建ち並ぶ田舎町。
しばらく歩いて行くと、鱗のように壁を敷き詰めた建物たち。
その右端の建物の屋根に鐘が取り付けてあり、何分かおきにメロディーを奏でている。
リリアナは街の人に声をかけてみる事にした。何故か古びたパン屋が気になった。お腹も空いていたからかもしれない。
「あの、すみません。私、道に迷ったみたいで。
ここは何てとこですか?」
パン屋の店主は言った。しわがれた声の70代くらいの女店主だ。
「あら、お嬢さん、見ない顔だね。どこからきたのかね、ここはゴスラーだよ。賑やかな街さ。
近くには鉱山やブロッケン山がある。鉱山や農業でこの街は潤ってるのさ」
ペラペラ話好きな店主は話続けた
「泊まるならゴスラーにしなよ。山には近づかないことだよ。なんなら家に泊まるかい?
あんた、私の生き別れた孫に似てるんだよ。私も一人で寂しいだ。実をいうと」
パン屋の店主はメアリーというらしい。
人を疑う事を知らないリリアナは喜んだ。
「ありがとう! メアリーさん、一晩お世話になります」
メアリーは夕飯に沢山のパンとスープを出してくれた。パンは店の売れ残りだ。
「こんなものしかなくて、すまんね、お嬢さん」メアリーは申し訳けなさそうに言った。
「とんでもないです。私、リリアナと申します。
道に迷い、とても不安で、本当助かりました」
リリアナは笑顔で答えた。
メアリーの表情がいっきに変わった。
驚きと期待がこめられたように見えた。
「リリアナ…?本当かい?フルネームは何だい?」
リリアナは不思議に思いながら ゆっくり、答えた。
「私は 小野・ベーカー・リリアナ です。
メアリー?」
メアリーがあまりに驚いているのでびっくりした。
「私はベーカー・メアリーだよ。
お前のお母さんは確か日本にいる。孫に似てると思ったが、本当に孫だとは。
おぉ〜! 可愛いリリアナ‼ 」
言うなり抱きしめてきた。目を細めて、顔をくしゃくしゃにしながら、目には涙が溜まっていた。
リリアナとは一歳の時に両親の新婚旅行で会ったきり、
会わずじまいだったそうだ。娘、バーバラと手紙のやり取りはしており、最近のリリアナの写真を見ていたため、似ていると思ったと。メアリーは興奮気味に話してくれた。
祖母に再会出来た嬉しさで幸せな気持ちになった。
旅の疲れか、ベッドに入るなり、
意識がうすれていき、眠りについた。