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銃創

 アデルが予測していた通り、アルジャン兄弟や組織からの襲撃も無く、アデルたち一行は一晩を安穏に過ごし、翌朝を迎えた。

「ふあ、あー……」

 宿を一歩出て、背伸びをしたところで、アデルはすぐに腕を下げ、「いてて……」とうめく。

(やっぱ一日くらいじゃ、治っちゃくれないよな)

 撃たれた右腕をコートの上からさすり、ずきずきとした痛みが残っていることを確認する。

(ま……、痛いが、痛いってだけだな。腕も指も動くし、放っときゃそのうち治るさ)

 と、背後から声をかけられる。

「『放っときゃ治る』なんて思ってないわよね」

「えっ!? あ、いや」

 弁解しかけたところで、エミルがさらに釘を刺してくる。

「そんなの、半世紀前の考えよ? きちんと治したきゃ、包帯変えたり消毒したり、ちゃんと治るまで手当て続けなさいよ」

「お、おう」

 と、エミルがアデルのコートの襟を引き、脱ぐよう促してくる。

「見せてみなさいよ。あんた、いっつもケガしても、隠すじゃない。

 化膿したり腐ったりしたら、手遅れになるわよ。切り落としたくないでしょ?」

「い、いや、いいって。自分でやるって、後で」

 渋るアデルを、エミルは軽くにらみつけてくる。

「何よ? まさかあんたも女だなんて言うつもりじゃないでしょうね?」

「バカ言うなよ。……分かったよ、脱ぐって。脱げばいいんだろ」

 アデルはもたもたとコートを脱ぎ、左手をたどたどしく動かして、シャツの袖をまくろうとする。

「……っ、……あー、……くそっ」

 しかし利き腕側でないことに加え、右腕の痛みが邪魔をして、思うようにボタンを外すことができない。

 見かねたらしく、エミルが手を添えてきた。

「外したげるわよ」

「わ、悪い」

 シャツの袖を脱がすなり、エミルは一転、呆れた目を向けてくる。

「あんたねぇ……」

 アデルの右腕に巻かれた包帯が、赤茶けた色に染まっていたからだ。

「血は止まってるっぽいから、昨日からずっと使ってるんでしょ、この包帯」

「……バレたか」

「バレたか、じゃないわよ。マジに切り落とすことになりかねないわよ、こんな汚いことしてたら」

 エミルはぐい、とアデルの左腕を引っ張り、宿の中に連れて行く。

「宿なら包帯も消毒薬もいっぱいあるでしょうし、ちょっともらいましょ」

「ああ……」

 と、二人が戻ってきたところで、宿のマスターが声をかけてきた。

「お客さーん、エミル・ミヌーって名前?」

「そうよ。電話?」

「そう、パディントン探偵局ってところから」

「出るわ。あ、その間、こいつの包帯変えるのお願いしていいかしら?」

「ああ、いいよー」

 そのまま電話口まですたすたと歩き去るエミルを眺め――マスターと目が合ったところで、彼が心配そうに声をかけてきた。

「お客さん……。めっちゃくちゃ俺のことにらんでるけど、そんなに傷、痛むの?」


 アデルの手当てが終わったところで、丁度エミルも電話を終えたらしい。

「あら、綺麗に巻いてもらえたわね」

「ちぇ、何か子供扱いされてるな。……で、局長は何て?」

「話す前に、皆呼びましょ。そろそろ朝ご飯食べて列車に乗り込む準備しとかないと、遅れちゃうもの」

「そうだな。……っと」

 言っているうちに、ロバートとダンたち3人が階段を降りてくる。

「おはよーっス、兄貴、姉貴」

「今、電話がどうとかって言ってたが……」

「丁度いいわね。マスター、ご飯もらえる? 6人分ね」

「はいはーい」

 店主がその場を離れたところで、ロバートたちが席に着く。

「電話って? 一体どこ……、いや、こんな時かけてくるなんて、局長だけっスよね」

「ええ。まだあたしたちがスリーバックスにいるって読んで、追加情報をくれたのよ」

 エミルの言葉に、アデルは首をかしげる。

「追加情報? 特務局のことか?」

「それもあるけど、メインは横領事件の方ね。

 犯人の身辺について、一つ分かったことがあるって」

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