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幸運な顛末と、新たな仲間たち

 アデルたちがN州を後にしてから1ヶ月後――新聞各社は、とある道楽男の「幸運」を異口同音に報じていた。


「リーランド氏 買収した炭鉱からダイヤが産出される!」




「今思い返しても抜群のアイデアだったと思うよ、マジで」

「うふふ」

 その新聞を眺めながら、半分呆れ気味に、そして半分尊敬気味につぶやくアデルに、エミルは楽しそうな笑みを返す。

 エミルのアイデア――それは知り合いの「機関車バカ」、富豪のロドニー・リーランドに事情を説明し、「『機関車用の石炭を安価で確保したい』と言う名目で、メッセマー鉱業から現地の作業員付きでアッシュバレー炭鉱を買収してもらえないか」と依頼することだったのだ。

 ロドニーも最初は驚いていたものの、「そんな因業会社なら、確かに凹ましてやりたくもなるわな」と了承。すぐに働きかけてくれた。

 ちなみにこの時、メッセマー鉱業からは相場より随分高めに売りつけられたものの、それでも買収成立時点までに産出されたダイヤの総額からすれば、微々たる額であったと言う。

「で、グリフィスについてはどうなったんだ、結局?」

 周囲を気にしつつ、こそこそと尋ねたアデルに、エミルも小声で返す。

「うやむやってとこね。捜査を担当してた特務局が潰れたから、どこに移管するかって揉めてるうちに、立ち消えになったらしいわよ。

 ま、ロドニーにクズ炭鉱売りつけた代金で横領された分は補填されてるでしょうし、向こうにしてみれば――ダイヤの件で憤慨はしてるでしょうけど――シケた会社員一人消えたくらいの損害しか無いってことになるわね。そんなの、向こうだってわざわざ自費出してまで探そうとしないわよ」

「うーん、……悪党め」

「名采配って言ってもらいたいわね」

「ちなみに分け前はどうなるんだ? ロドニーが入ってきたってなったら……」

「あたしたちの取り分の中から8割。つまり炭鉱の人たちが5、ロドニーが4、あたしたちが1ね」

「もったいねーなぁ。ま、1割でも大金持ちにゃ違いないか」

 そう言って、アデルはニヤニヤと笑みを浮かべたが――。

「あんたに1ドルも入らないけどね。ロバートにも、ダンたちにも」

「……は?」

 エミルの言葉に、一転、アデルはショックを受ける。

「ちょ、どう言うことだよ、それ!?」

「勘違いしないでほしいけど、あたしも受け取らないわよ。使う必要が出るまで、ロドニーに預かっててもらうってことよ。

 あんたに直で渡したらいきなり金遣い荒くなりそうだし、そしたら『ネイサン、君は一体どこから儲けてるのかね?』って、局長が突っ込んでくるでしょ?」

「そしたら探られて、今回の悪事がバレるってわけか。……しゃーねーなぁ」

 アデルは机に置いていた新聞を拾い、ぺらぺらとめくる。

「……ま、万事丸く収まったから良しとするか。サムも無事だし。

 いや、サマンサちゃんか」

「20歳超えた立派なレディに『ちゃん』付けするのは失礼よ。大体、そのこと知るまであんた、『サム』って呼び捨てにしてたくせに」

 エミルに突っ込まれ、アデルは苦笑いする。

「いや、つってもさ」

 アデルは中腰に立ち上がり、机仕事をするサミュエル・クインシー――改め、サマンサ・ミラーをチラ、と見る。

「やっぱあーやって女の格好してるの見たらさ、なんか今までみたいに呼び辛くって」

「何よそれ。もしかして狙ってんの?」

「ちげーよ、そう言うんじゃなくってさ……」

 と、アデルの視線に気付いたらしく、サムが恐る恐ると言った仕草で、こちらを見つめている。

「あー、何でもないから。気にしないで」

「あ、は、はい」

 サムが座り直したところで、アデルが安堵のため息をつく。

「局長もダンたち含めて特務局から何人か引き抜いてくれたし、ほっとしてるよ」

「……あたしはできないわね」

 そう返したエミルを、アデルはいぶかしむ。

「何だよ? 何が不満なんだ?」

「組織が本格的に動き出したってことよ。

 特務局が潰されたのよ? これまでで一番、やることがデカいじゃない」

「そうか……そうだな」

「きっとこれから、組織との対決が本格化していくはずよ。

 気を引き締めてかかりましょう、アデル」

「……ああ」

 エミルの言葉を深く噛み締めつつ、アデルは新聞を畳んだ。

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