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20年越しの和解

「ぐあっ!?」

 ケビンに殴られ、オーウェンは床を転げる。

 そのまま伸びてしまったオーウェンに、ケビンは怒りに満ちた怒声をぶつける。

「俺はそのデイジーの息子だよ、クソ野郎がッ!」

「……じゃ、じゃあ君は、ケビンか?」

「そうだよ畜生! てめえのせいで俺は、この20年間ずっと死ぬ思いしてきたんだ!」

「ま、待て! 私の話を聞け!」

「うるせえッ!」

 倒れ込んだオーウェンになおも殴りかかろうとしたケビンに、オーウェンが怒鳴った。

「デイジーが浮気したんだ!」

「なっ……」

 その一言に、ケビンは動きを止める。

「う、……ウソつくなよ。助かろうと思って」

「嘘じゃないし、そもそも離婚と、君を引き取ることを言い出したのは、彼女の方だ。

 私のことを覚えているのなら、ウィリス・ウォルトンのことも知ってるだろう?」

「……義理の親父だ。いや、だったヤツだ」

「彼女はウィリスに熱を上げて、私のことを振ったんだよ。……その後の顛末も聞いてる。

 ウィリスから随分ひどい目に遭わされて、結局彼とも、半年で離婚したと」

「ああ」

「それでも君には謝らなければならない。ウィリスと別れた後、一度だけ、彼女からよりを戻さないかと手紙が来たんだ。

 だが私は、それに返事を出さなかった。『別れるのも自分の都合なら、元に戻るのも君の都合でか』と、当時の私は頭に来ていたからだ。

 だから君のことも、結果的に見捨てることになってしまった」

 オーウェンはその場にうずくまり、深々と頭を下げた。

「君の気の済むようにしてくれ。私はどんな罰でも、甘んじて受ける」

「……」

 父だった男の、薄くなった後頭部を眺めていたケビンは、拳を振り上げかけたが――力無く、だらんと下ろした。

「いいよ、もう。お袋に問題があったってのは事実だし、お袋に散々迷惑かけられたあんたを、息子の俺がさらに痛めつけようなんて、神様が許しゃしないさ」

「……ありがとう」

 オーウェンは顔を上げ――一転、けげんな様子を見せた。

「しかし、……君は何故、ここに? 私に会いに来たのか? こんな夜中に?」

「あっ、いや」

 ケビンはごまかそうとするが、目が勝手に、金庫の方へと向いてしまう。

 その視線を読んだらしく、オーウェンが声を上げる。

「まさか、空巣か?」

「うっ、……あ、ああ。会社がどうしても資金出してくれないって言うから、こっちから、その、取りに来たと言うか、いただこうと言うか」

「あ」

 それを聞いて、オーウェンは目を丸くする。

「もしかして君は今、N州に? アッシュバレー炭鉱で働いてるのか?」

「ああ」

「少し前に、アッシュバレー炭鉱から予算増額の要請が来たが、不要と判断したから断ったんだ。

 それで君が来たのか。……しかし、変じゃないか」

 オーウェンは立ち上がり、殴られて腫れ上がった左頬を抑えながら尋ねる。

「あの規模の炭鉱に3万ドルは、どう考えても過剰投下だ。仮にあの山一帯が全て無煙炭の塊だったとしても、そこまで必要なはずが無い。

 一体何故君は、いや、君たちは、盗みを働こうとしてまで予算を欲しがるんだ?」

「それは……」

 ケビンは仕方無く、ダイヤ鉱床が出てきたことをオーウェンに話した。

「ダイヤだって!?」

「あ、ああ。監督も今の予算じゃ掘り出せないって」

「それはそうだろうな。確かにそれが本当なら、3万ドルは妥当、……でもないな」

 オーウェンはかぶりを振り、こう指摘する。

「炭鉱についてのノウハウしか無い君たちが、今まで取り掛かったことの無い類の鉱床に手を出すとなると、軌道に乗せるまでにはかなりのコストがかかるはずだ。

 多分、3万では足りなくなる。二度、三度と、予算を追加することになるだろうな」

「えっ……」

「もし最初の予算を認可していたとしても、そんなに何度も万単位の予算を要求していれば、遅かれ早かれ怪しまれる。そうなれば早晩、本社幹部はダイヤの可能性に気付くだろう。

 どちらにしても、その計画は杜撰極まりない。本社にバレて、君たちは横領犯として告訴されるのがオチだ」

「そんな……」

 厳しい評価に、ケビンは落胆する。

 だが――。

「だから、最初から10万持って行けば、発覚の可能性はずっと少なくなる」

「へ? ……今、何て?」

 尋ねるケビンに応じる代わりに、オーウェンは金庫のダイヤルを回す。

「今、金庫の中には、10万ドルは入ってるはずだ。これを持って行きなさい」

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