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決死の強盗

「……っざけんなボケえええッ!」

 手紙を読んだ途端、マクレガー監督は激怒した。

「つくづくケチな会社だぜ、まったくよぉ! ……とは言え、確かにここで石炭掘るのに3万ドルもいらんからな。普通に、ただ石炭掘るだけって本社が考えるなら、要求が通るワケねーか」

「でも、どうするんです? このまま壁眺めてるだけじゃ、どうにもなりませんぜ」

 ゴードンの言葉に、マクレガー監督は苦々しい表情を見せる。

「分かってら。俺名義でどこかで借金して、……いや、もしもダイヤがまともに出なかったらヤバいか。そもそも一炭鉱夫に3万ドルも貸すはずが無え」

「……あの」

 と、ケビンが意を決したように手を挙げ、立ち上がる。

「俺が取って来ます」

「あん?」

「俺が本社に忍び込んで、カネを盗って来ます」

「お、おいおい」

 突拍子も無いケビンの提案に、マクレガー監督は目を丸くする。

「バカなこと言うなよ、ケビン。いくらなんでも、そこまでやっちまったら……」

「俺だって、こんな合衆国の端っこまで飛ばされて、毎日毎日どろっどろに汚れて働かされてるってのに、その見返りがたったの週3ドルじゃあ、ちっとも納得できないですよ。

 会社だって、少しくらい報いを受けりゃいいんですよ」

「……」

 その場にいた全員が、ケビンと同じ不満を抱いていたのだろう――罪を犯そうと息巻くケビンを、誰一人、咎めることができなかった。




 その8日後の夜、ケビンは単身、P州のメッセマー鉱業本社に忍び込んでいた。

 運良く鍵の開いていた窓から侵入し、ケビンは誰もいない、夜の社内を恐る恐るうろつく。

(ツイてるぜ、俺。こりゃもう、神様が俺にやれ、盗んでよしっつってるんだろうな)

 そんな自分勝手なことを考えている間に、ケビンは難なく、金庫前にたどり着いた。

 だが――。

「うっ」

 金庫にはダイヤル式の鍵が付いており、ケビンがその暗証番号を知るはずも無い。

(……神様ぁ)

 神に祈りつつ、ダイヤルをかちゃかちゃと回してはみるが、何の反応も返っては来ない。

(こうなったら壊して……)

 そんなことも考えてはみるものの、自分の手にあるのは一箱分のマッチだけである。

 また、金庫ごと盗み出そうにも、相手は3フィート以上もの大きな鉄塊である。ケビン一人では到底、その場から動かすことさえできそうになかった。

「……こんなのって無いだろ、神様。あんまりだ」

 ついにケビンは途方に暮れ、金庫の前にへたり込んでしまった。


 と――。

「誰だ!?」

 背後から、男の声が投げかけられる。

(やべっ!)

 慌てて立ち上がり、後ずさったところで、ケビンは男と目が合う。

「う……っ!?」

 その、カンテラに照らされた顔を見た途端、ケビンも、そしてその男も、同じ表情を浮かべた。

 いや――同じだったのは表情ではなく、顔そのものだったのだ。

「な、んっ……!?」

 相手も面食らっているらしく、自分より20年は老けた顔を引きつらせている。

「あ、あ……」

 ケビンも混乱していたが、どうにか口を開き、恐る恐る相手に尋ねてみた。

「あんた、……誰だ?」

「わ、私か? 私はオーウェン・グリフィス。ここの社員で、今晩の当直だ」

「オーウェン? ……オーウェン・グリフィス!?」

 その名前を聞いた途端、ケビンの頭は驚愕と、そして怒りで満たされた。

「あんた、デイジー・モリスンって知ってるか? 24年前、イギリスから移民でやって来た、デイジー・モリスンだ」

「で、デイジー? ああ、そのデイジーには、心当たりがある。昔結婚したことがあるが、そのデイジーだろうか」

「そうかよ」

 瞬間、ケビンはオーウェンに殴りかかっていた。

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