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真っ黒な地獄の中で

 アメリカ合衆国の発展に大陸横断鉄道が少なからず寄与していたことは以前に述べたが、その鉄道自体の原動力となったのは何か? これは周知の通り、石炭である。

 石炭自体は紀元前よりその存在が知られており、世界各地で燃料として用いられてきたが、その役割が大きく変化したのは18世紀後半、蒸気機関の発明に代表される、産業革命以降である。

 蒸気機関とは、簡単に言えば「水の沸騰により発生する蒸気圧を、動力に変換する装置」である。水を大量に、かつ、高速で熱し、膨大な蒸気圧を発生させるには、石炭はうってつけの物質だったのだ。

 石油や天然ガスに比べて遥かに安価な上、世界各地で採掘できるため、石油の大量採掘が可能となる20世紀に入るまで、石炭は工業と輸送業の主軸を担っていた。


 だが、石炭と一口に言っても、その質には大きな幅がある。

 質の良し悪しは一般的に、化石化した植物の炭化の度合いで計られるのだが、完全に炭化しきった無煙炭や、それに準ずる瀝青炭れきせいたんは発生する熱量も多く、蒸気機関車の燃料や炭素鋼の原料など、用途は豊富である。

 一方、炭化が進んでいない褐炭や泥炭は燃やしても大した熱量が得られないばかりか、空気中の酸素と勝手に化合して自然発火してしまうような、ろくでもない代物が多く、工業規模での需要を満たせるものでは無い。

 そして質の高いものほど希少であり、反対に、質の低いものほどあふれ返るのが自然の道理である。北米大陸には無煙炭を多く含む良質の石炭層が、他地域に比べて比較的多く存在するものの、やはりそうした高品質の地層は、そうそう発見されるものでは無い。




 この炭鉱で働く彼らもまた、一向に質の良い石炭が手に入らないことに、業を煮やしていた。

「クソがッ!」

 試掘によって出てきた茶色い塊をべちゃっと床に叩きつけ、男は憤る。

「完全に本社の奴ら、読みを外してやがる! こんなところ100年掘ったって、ろくなもん出やしないぜ!」

 採掘から戻ってきた男の部下たちも、泥だらけになった顔を揃って歪ませている。

「結局、最初にちょっと瀝青炭が出ただけ、……ですよね」

「ああ」

「でもそれっきりですよね」

「ああ」

「……このまんま、出なかったら」

「クビだよ。お前らも、俺も」

「監督も?」

「じゃなきゃこんな僻地に、週4ドル半で送り込むかよ? 出たらそのまま飼い殺し、出なきゃサヨナラってことだ。

 あいつら、いっつもそうだ。クソ野郎共め……!」

 のどの奥から絞り出すような怒りの言葉と共に、監督と呼ばれた男は椅子を蹴り飛ばす。

「俺は勤めてもう16年にもなるが、ろくに給料も上げないクセして、あれやこれや無茶ばっかり言いやがる。

 んでちょっとばかしケチつけたら、こんな彼方へ左遷ってわけだ。まったく奴らときたら……」

 監督の愚痴が始まり、部下たちはげんなりした表情を浮かべる。

 薄暗い部屋の中で、聞くにえない罵詈雑言をただただ一方的に聞かせられ続けるだけの、その地獄のような時間は、永遠に続くようにも思えた。


 その時だった。

「かっ、監督、監督ーっ!」

 一人の若い男が、小屋の中に転がり込んできた。

「だから俺はな、……な、何だよ、ケビン?」

「こ、こんな、こんなもん、で、で、出たんスけどっ」

「こんなもん……?」

 監督を含めた小屋の中の全員が、その若者、ケビンに注目する。

 いや――視線はケビンにではなく、彼が抱える、白い石の塊に向けられていた。

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