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妖怪ふとん掛けシリーズ

妖怪ふとん掛け

作者: 郁章

いつも夜、ぼくが寝ていると、肩のあたりにそっと、だれかがふとんをかけてくれる。


それはいつも、なんだか寒いなと思っているときなんだ。


「ありがとう」と、ぼくは夢の中で呟くんだ。


ある晩、ぼくはふと、目が覚めた。


とても寒くて、体をカタツムリが殻に引っ込むみたいにきゅっと丸めてみた。


すると、肩のあたりに何かがおおいかぶさるような気配がしたから、


ぼくはあわてて腕を伸ばした。


すると、ぼくの腕はだれかの顔に当たったらしく、


「痛い」


と、聞きなれない高い声がした。


お父さんでもお母さんでもないらしい。


ぼくのボンヤリとした頭は、炭酸ジュースを飲んだときのようにパチパチッとはじけて、


重いまぶたは天井を突き抜けるんじゃないかってくらいバチっと見開かれてしまった。



ぼくが見たのはガリガリの細い腕に細い足。


ぷっくりと膨らんだお腹にボロボロの薄い布をまとったシワシワの顔の小さなおじいさんだった。


背丈は教室の机の高さくらいしかない。


「あいたたた。まさか、起きているとは思わんだでのう。」


おじいさんが、顔を両手をおさえながら言った。


「おじいさん、だれ?何してるの?」


ぼくには、おじいさんが人間ではないことが直感的にわかった。


でも、不思議と怖くはなかった。


「わしゃ、妖怪『ふとん掛け』じゃ。夜、ふとんを掛けずに眠っている人間に、


気付かれぬよう、そっとふとんを掛けて立ち去る妖怪じゃ。」


なんか、親切な妖怪みたい。


「さあ、夜ももう遅い。お前さんも早く寝なさい。わしがふとんを掛けてやるでの。」


ふとん掛けはそう言うと、ぼくのふとんを両手で持ち、くいくいっと揺らして、掛ける仕草をした。


すっかり目が冴えてしまったぼくは、当分眠れそうになかったし、


聞きたいことが山ほどあったけれども、なんだかふとん掛けには逆らえなくて、


しぶしぶ横になった。


ふとん掛けがふとんを持ち上げ、そっとぼくの体に掛けてゆく。


足元から、ほんわりあたたかくなり、体はゆったりと眠りの沼に沈み始めた。


肩にふとんが掛かったとき、ぼくは夢に落ちるのだろう。


これが、妖怪のチ・カ・ラ・・・・・・。


そのときだった、足元がふいにスカスカして、


水底に沈みかかっていたぼくの思考は急浮上し始めた。


枕元のふとん掛けを見ると、必死な顔でふとんを離すまいと引っ張っている。


明らかに様子がおかしい。


異変を感じた足元に目をやると、こちらには、ぷっくりとしたほっぺた。


幼稚園児くらいの可愛らしい女の子がいて、懸命にふとんを引っ張っていた。


あっけにとられるとられるぼくに、ふとん掛けは言った。


「こいつは、妖怪『ふとん剥がし』じゃ!」


ぼくは瞬時に悟った。




ふとん掛け VS ふとん剥がし





妖怪対戦だ。


ふとん掛けのおじいさんは、いい妖怪だと思う。


ふとん剥がしはちょっと困る。風邪を引いてしまったら嫌だし。


ぼくとしては、ふとん掛けのおじいさんの味方をしたい。


でも、こんな可愛らしくて健気な様子の女の子に、冷たい仕打ちはしたくない。


ふとんを剥がすのはきっと、妖怪としての使命なのだろうし。


老人にも小さな子どもにも、親切にするのが紳士の礼儀。


どちらか一方に肩入れなんて、できない。





ぼくは、空中に浮かぶふとんの下で夜を明かすことになった。





いつの間に眠っていたのだろうか。


ぼくは、カーテンの隙間から差し込む朝の光で目を覚ました。


夢を見ていたのだろうか。ぼくはふとんを抱きながら眠っていたようだ。


変な夢を見ていた気がする。


「朝ごはんできたわよー。」


母さんの声がする。


ぼくは、部屋を後にした。





その日の夜、ぼくがふとんを掛けて目をつぶった途端、ふとんがすうっと空に浮かんでいった。


「我らとしたことが、昨夜は人間にふとんを奪われてしまい、決着をつけられなんだ。


今夜こそは、決着をつけようぞ!」


「望むところじゃ。わらわの力を見せてやるわ!」


どうやら昨日の対決の勝者はぼくだったようだ。


ふとんを取られてはとても眠れる気がしない。


ふとん剥がしは喋り方がちょっと、年寄り臭い。


ぼくは今、彼らの闘いに乱入しようかどうか、迷っている。













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