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言葉を紡いでいく

『さあ、ゆかり。これでもう、ナスダリ博士の隠し球を出してもいい頃ですね』


「ソウジュ、あんたって本当に嫌味な人だわね」


『あなたがなかなか『双樹』と呼んでくれないからですよ』


「だってえ、呼びにくいんだもん。イントネーションが違うから、発音しにくくって。あああ、やっぱ日本語は舌が絡まるわ」


『ナスダリ博士が研究し創作していた第四の言語、早く出さないと明日香があっという間に創ってしまいますよ。あの子は突拍子もない行動力が半端ないのですから。ほら、あの時もそうだったでしょ』


「うふふ、その話。私、大好き‼︎」


『明日香が幼い頃に、我々に出逢った時の話です』


「そうそう、明日香が幼稚園の制服を着てて。パパさんと散歩していた時だよね。パパさんのあの慌てようったら。明日香ったら、マンガみたいに河原を転がっていって、川に落ちるんだもん。小さい頃から全然変わらないんだから。明日香って、ほんとバカ‼︎」


『川の中に顔を突っ込んだ時の、明日香をよく覚えていますよ』


「そうそう、あはははっ‼ あのブサイクな顔ったら、ないよね‼︎︎」


『川の中のあなたを発見して、明日香は手を伸ばした』


「……うん」


『『双樹』の一部が枯れかけていて、腐ってしまった一番ヒドい枝を……』


「明日香が、バキバキっと‼︎」


『パパさんが慌てて川から引き上げた時に、握っていたのよね。その枝』


「あははっ、あれはほんと、偶然にねえ。とはいえ、あれは助かったあ。枯れた枝の先っちょが、私の身体に刺さってて痛かったから」


『その時、明日香にこの使命を?』


「まあね、もう決めてたんだ。通訳者にってね」


『さあ、ゆかり。いえ、『双樹』。ナスダリ博士の遺志を継ぐ時がきましたよ。出し惜しみせず、さっさとあの分厚い辞書とファイルとを出してあげて』


「ちょっと‼︎ 私のことは「ソウジュ」って発音してってば‼︎」


✳︎✳︎✳︎


「明日香、これなんて読むの?」


「マル、これはねえ、「大きい」で、その反対がこれ、「小さい」だよ。こらっ、シュリ‼︎ ちゃんと座って‼︎」


「だって、明日香の隣に座りたいっ」


「明日香の横は、ワタシだもんっ‼︎ シュリ兄いは、向こうへ行ってよっ」


「イヤだ、ボクが隣に座るんだ‼︎」


シュリがその大きな身体をのっそりと乗せてきて、明日香は倒れそうになりながら、腕を突っ張った。


「こらこらこらこら、重い重いー」


「シュリ兄いは「大きい」から「重い」の‼︎ 明日香がかわいそう、早くどいてあげてっ‼︎」


「マル、発音上手上手っ‼︎」


「ねえねえ、ボクは?」


「アクバ、あなたもとっても頑張っているね。もうすぐ、ロウとも話せるようになるよ」


「……別にロウと話したいから、頑張ってるんじゃないもん」


「アクバ兄いは、ロウが嫌いだもんねえ。明日香をとられちゃったから」


「マルっ‼︎ オマエ、余計なこと言うなよっ‼︎」


バシンバシンと前足で叩き合う。


「こらあ、トニマニを見てごらん、ちゃんと座って勉強してるよ‼︎」


明日香が困ったような顔をして、マルとシュリ、アクバを諌める。トニとマニは、一つの机の前にちょこんと並んで、ノートに言葉を書いている。


「わかったよ、もう‼︎」


マルとシュリ、アクバの前には、本が開かれている。それはナスダリ語の辞書。ゆかり以外の誰もが知らずにいたが、ナスダリ博士は死の間際まで、第四言語の開発に心血を注いでいたのだ。


「はい、じゃあ次のページいくよっ」


明日香の声が教室に響いた。


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