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や〜めたっ‼︎

「じゃあ、私とイェンナの二人で同時通訳もできそうだね」


「ただ、トランスレーションできたとしても、それを伝える機器がない。何か拡声器のようなものが要るかな」


「放送局みたいなのはどうかな。テレビとか、ラジオ的な。各国の首脳会議とか見ると、イヤホンみたいなのしてるよね。スマホとか、みんなが持ってればいいんだけど」


「明日香の世界はすごく進んでいるからそれも可能だけど、ロウの世界はIT関係がまだまだ未開発だから、難しいかもね」


ゆかりの言葉にトゲを感じるのは、ロウとの仲を邪魔しているからだと思っていたが、それが誤解だと分かっても、そのスタンスは変わらないようで、明日香は苦笑して答えた。


「こっちの世界から、持っていけないかな?」


「バカじゃない? スマホなんて持ってっても、電波のデの字もない向こうじゃ何の役にも立たないわよ」


「そっかあ」


へへへと頭をかく。コタローがそこに参戦した。


「タブレットを持っていけば良いんだよ。『双樹』に頼んでそれを繋げてリンクさせるのはどう? で、同時に通訳したものを、タブレット上に表示するんだよ」


「ふふ、コタローってば、最近ママに買ってもらったタブレットに夢中なんだから」


「だって、何でもできるんだよ、あれ‼︎ 本当にすごいんだから‼︎」


顔を紅潮させて、コタローが声を上げる。


「ちょっと、男が頬を赤らめないのっ‼︎ 気持ち悪っ‼︎ それにあんただって、『メインブレイン』の一部でしょ。プライドなさ過ぎ‼︎」


ゆかりの言葉に、コタローがむすっとする。向かい合って睨み合う二人を見て、意外と良いコンビかもと思い苦笑する。


ロウと心を交わした日、家へと帰るとコタローが首を垂らして、「明日香、ごめん」と謝ってきた。ロウとゆかりが恋人同士だと嘘を言ったことを、酷く後悔しているようだった。


「明日香をロウに取られたくなかったんだ」


「コタロー、ごめんね。コタローのこと大好きだけど、私……」


「ううん、わかってる。ボクこそごめん。明日香を傷つけたね」


「大丈夫だよ‼︎ こう見えて、意外と頑丈にできてるんだから‼︎」


「あはは、頭打っても大丈夫だったしね‼︎」


コタローが笑ったので、明日香はほっと胸を撫で下ろした。


「でも、あの電車の脱線事故の時は、心臓が止まるかと思ったよ。枯れた『双樹』のセルフ=フィーリングが始まりつつあるから、これからも天変地異には気をつけないと」


「本当は、『双樹』の自浄作用を止められると良いんだけども」


「……ん、本当はね」


重苦しい空気になったのを覚えている。

こうして、ゆかりとわちゃわちゃしているのを見ていると、『双樹』の使い魔というのは、他にはどんな人がいるのだろうという疑問が湧いてくる。


「ねえ、ゆかりさんたちの他に『双樹』の使い魔って、まだ各地にいるの?」


「たくさんいるわよ。世界の要的な人のお世話をしているの。私たちが世界を支えていると言っても過言ではないの」


ゆかりが腰に手を当てて、少しだけ踏ん反り返る。


「その使い魔たちが集まっても、『双樹』のセルフ=フィーリングは止められないの?」


「そうね、止められないと思うわ」


「ダメかああ」


明日香が腕を上げて、後ろへと倒れた。


「ちょっと、良い考えだと思ったんだけどなあ」


「他力本願だこと。セルフ=フィーリングは『双樹』の意思なの。『双樹』にや〜めたって言わせなければ、絶対に止められないわ」


「えっ‼︎」


明日香が、ガバッと起き上がった。


「じゃあ、やめたって言わせることができれば、逆に止められる?」


「…………」

「…………」


「よっしゃあー‼︎」


明日香が両手を突き上げた。


「え……何が?」


その様子を見て、ロウもコタローもゆかりも、同時に大きな溜め息を吐いた。


✳︎✳︎✳︎


「これだけでいいの?」


明日香がコタローに声を掛ける。リュックの中に突っ込んでいた手を止めて、コタローが振り返った。


「ああ、まあね。集められるだけのタブレットは用意したけど。スマホも使えるかもしれないから、一応いくつか用意したよ」


「充電ってできるのかな? うーん、無いとは思うけど、コンセントって?」


「それは『双樹』が何とかしてやってくれると思う」


「手伝ってくれると思う?」


明日香が自信なさげに言うのを苦々しく笑いながら、コタローは再度手を動かし始めた。


「どうだろうね」


「……これを背負っていくのも大変だねえ」


「明日香はボクがおんぶしていくから、心配しないで」


「同時通訳に関しても『双樹』に頼むんだよね? どうやって、頼んだら良いの?」


コタローが頭を掻きながら、言う。


「それが……ゆかりから頼んでもらわないといけないんだ。彼女は『双樹』の使い魔の中でもランクが上だから『双樹』に簡単にアクセスできるらしいよ」


「ランクがあるんだ。会社みたいだね。上司、とか」


(ゆかりさんは、お局さんって貫禄だけど)


心で思ったが、フタをする。


「はは、そうだね」


「明日香、」


低く呼ぶ声がして、明日香は振り向いた。部屋のドアのところに、ロウが立っている。


「明日香、ちょっといいか」


「うん」


コタローが立ち上がると、ロウの隣を通って、部屋を出ていった。ロウはそれと同時に部屋に入り、後ろ手にドアを閉めた。


「本当に行くのか?」


「うん、大丈夫だよ」


「明日香のご両親は、」


「ちゃんとこっちにも戻ってくるから、大丈夫」


「あ、あの、大学の男は……」


「鴨池くんのこと? 付き合ってるとかじゃないから」


「そうか」


「私、平気だよ。ロウと一緒だし、向こうにはユノだっているんだから」


「ゆ、ユノは明日香のことを……」


「それでも私、ロウが好きなの。そういうのは、許されない?」


「いや、ユノに負けないようにオレも頑張るよ」


「ありがとう。私もロウに飽きられないようにしなくちゃ」


「飽きるなんてことはない」


ロウが明日香の手を握る。手を握られてドキッと胸が鳴ったが、明日香はその手を握り返した。指と指が絡まり合って、ロウとの距離もそろそろと近づいていく。


「んっんー‼︎」


後ろで声がして振り返ると、今度はゆかりが立っていた。口に手を当てて、呆れたような表情を浮かべている。


「お、お邪魔して申し訳ないけど、イチャイチャするのは、この家では禁止っ‼︎」


声は裏返っているが、怒りの要素が多少なりとも含まれている。


明日香は慌てて手を離し、ロウは真っ赤になって、部屋から出ていった。


「……あら、ごめんなさいねえ」


ゆかりが声を上げたので、明日香は顔を両手で覆った。

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