第20話 魔獣化の悲劇
王鬼牙は脳髄をまき散らしながらその場に倒れ込む。それと同時に負の魔力が溢れる。そしていつも通りそれは有人目掛けて────
「“闇”“闇防壁”」
しかし真尋の展開した防護壁により阻まれる。どころか防護癖に吸収される。 基本的に属性防壁は同属性の魔法を吸収、中和する。魔力を注ぎ込むかぎり破壊されることは無いが逆にその制御を奪われる可能性もある。また、負の魔力は闇であるのでパーティに一人は闇属性が居るべきである。
負の魔力が消え去った後、有人達はその現実を目の当たりにする。
倒れていたのは王鬼牙ではなく人間だった。鬼王牙と同じ位置に穴を開けて。
「こいつは…関東地域でも有名な…」
「あぁ。最近消息不明って言われてた『絶対守護者』だよな。」
最近、ハンターが失踪するという事件が多発していた。理由も不明で、性格に問題があったり環境に不満があったりする訳でもなく、なぜか忽然と消えるのだ。魔力反応ごと。死んだとしても一瞬でも負の魔力として反応を示すのに、だ。
そしてその真相が今明らかになった。ありえないほどの負の魔力、人になった鬼王牙の死骸、本人の魔力との相違。これは強制魔力注入によるものだ。…そして。この研究を積極的に行っているのは…魔術協会だ。
つまりこのギャラクシーツリーは逃げられない魔術協会の箱庭、という事である。そしてハンターはみな尽くモルモットであると。
招かれたもののみが踏破できる、途中で負ければ研究対象とされる、そんなダンジョンを作るほどの技術と魔力を魔術協会は持ち合わせているというのが事実だ。
…まさか。
「ということは…あぁぁ、もうクソッタレがぁぁあ!」
上位種の鬼牙は…推測通り元ハンターだ。恐らくパーティが全滅したのであろう。いや、全滅したことは確かだが…仮に上位種全てがハンターから創られたと考えると…おそらく上位種を倒す実力を認められたハンターが何かしらの罠…もしくは手先にやられ───
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
耳を劈くような悲鳴。これは
「真尋!」
───そこには真尋の姿はなかった。真尋の魔力反応は…
「ダメだ。完全に感知できない。魔力混濁系の迷彩かそれとも空間隔離結界か。」
煇羅は元々協会に良い方向でも悪い方向でも興味を持っていた。…おかげで協会の情報に詳しくなっていた。───今回は嫌な推測しかできない方向だったが。しかしここで最悪のパターンを言わなかったのは懸命であったと思われる。
空間隔離結界…単に隔離結界とも言われ、一切の物理的、魔法的干渉をシャットアウトする、最強と言われる結界だ。取得は難しくなく、しかし使役は難しいという使い手を選ぶ魔法だ。無論、展開中は微量の魔力を一定量で消費し続ける。相応の魔力を有するものでないと扱えないという。そのため、多くの人は起動はできるが維持ができないのである。仮に魔力量が多くても燃費が悪ければ維持が出来ないため、使い手を選ぶと言われている。
とはいえ通った後には微小ながら風が生じる。つまり。
「敵は上階に向かったな。」
多少なりとも風を得意とする者に対する対処が甘すぎた。
「“風”“風追跡”」
連投!あと1話くらいかな?




