時雨と名残
雨がどしゃぶりの中、窓際でその風情を見詰めている一人の女の子。
ツインテールに結ぶ品のあるリボンと赤い髪毛。容姿から察するにたいへん可愛いらしい風貌。
トレンドな服装なのか、私服がキュートで心踊る。
「最近は晴れ間が続いていたのに……」
そんな彼女は寂しそうに天候不順な空模様をごく安らかに眺めていた。
そこに声がかかる。
「エリカ姫は雨が随分とお気に召さないようだな」
見かねて呼び掛けたのか、一人の男性が歩み寄って言ってきた。
「ラブーね……。いいでしょ、あたしの勝手」
ツンと拗ねる子供ように首横をラブーという男性の反対へと回す。
「参ったな……。こう調子が悪いエリカだと、なに言っても無駄だろうし……」
「聞こえてるわよ。……まるであたしが餓鬼みたいじゃない」
「実際16歳だろ」
せせら笑いを交えてラブーは呆れていた。
エリカも何も言い返さず、また窓側へと視線を向けるのだが、そこでラブーが本題に入る。
「故郷が懐かしいか?」
不意に問われて、
「別に……」
一瞬の迷いもなく断絶するが、
「嘘だな。お前が顔を逸らして、独りでポツンとしてる時は、大体ふてくされてるってな」
「なんでアンタにそんなこと分かるのよ! このオヤジが!」
「俺はまだ列記とした20代だ。幾度も言わすな。見た目がちょっとばかし老けてるだけでな……」
「それ認めては駄目でしょ」
弱気になったラブーにつけ込んで、くすっと悪戯に笑う。
「さてそろそろ、本館に戻ろうぜ。大気圏内だ。ここも冷えこんできた」
「うん、わかった」
艦隊の窓際で腰をついていた尻を離し、ラブーと一緒に個室を出る。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
只今、私たち大空艦隊ーーーークロノスに乗車していた。
エリカ・マレリックとラブー・ガンダルフはこのクロノスの千人以上の乗車員にして、その選ばれた千人の内の十人に与えられるバッチーー星形を授与されている戦闘員である。
「はぁ。本館ってこうかたっ苦しいのが嫌なんだよな」
本館に向かう途中でラブーはそんなことを言い出す。
輪郭がゴツく、ゴリラのような骨格。上体も下体もだ。
そんなラブーに返す形で、
「それでもシザースでしょ? しっかりしなさいよ。だから、いつもライラちゃんに叱られるんだから」
「ライラは関係ないだろ。あいつはしっかり者すぎるんだ。少しは気がゆるんでもいい気がするが……」
困ったように頬をボリボリと掻く。
「妹に叱られる兄貴ってカッコ悪いよ。あたしからみてもね」
追加攻撃とばかりに、悪笑する。
しばらく飛行艦隊の通路を歩いていると、本館に到着。広々とした空間に多くの乗務員がおり、その中央に位置する場所に私達と同じシザース他の八人がいた。
「ふたりとも遅いぞ。全く何してたんだか」
八人の中の戦闘員で中背の青年が溜め息混じりにそう言い放つ。
彼の名前は東條信。私達とは国籍が違う東洋人の男児。
「悪いな。エリカと談話していたら遅くなった」
気だるそうな面持ちでいうラボーを煙たがるように、
「そっそうか。な、ならいいが」
東條はラボーが苦手で。なんでも顔が厳つくて、そういう系統とは上手くコミュニケーションできないらしいとか。ほんと、こんなオジサンのどこが怖いんだか……。
「で、早々に来てもらって悪いが、呼び出したのは他でもない」
シザースの指揮を取る隊長。そしてこの本館で誰よりも偉い総隊長が口を挟んできた。
「これから人類の存亡を賭けた戦争が始まるが、私達の攻撃対象は他でもないーー」
「エクレールですよね!」私は手を上げて答える。
「そうだ」
続けて。
覚悟がある者だけがこの戦いに集って平行世界からわざわざやってきたわけだ。総隊長様はそう目線でサイコパスしてくるかのように、品だめてから。
「直ちに出動準備をしろ!」
そう言って私達十人のシザースと乗務員そつぜい千名によるエクレールとの火蓋が切られるのであった。




