宴をはじめよう
「そろそろ十一月も終わり……。話を一旦閉じないとだね……くひひひ」
「アルゲンティ、誰に喋ってるの? それに、まだ十一月になってもいないわよ?」
月夜が怪訝な顔を向けるが、
「ほっとき。そいつのひとりごと、意味なんかあれへんで」
エスは気にしない。みんな気にしないほうがいい。
そんな毒キノコばかり三人揃って、イノシシをふたりでかついで(誰がかついでいないかは語るに及ばず)幹生の家へとやってきたその姿。
「あやしい」
迎える側の幹生は、容赦なく一言。
「確かに……」
月夜は自分たちの姿をかえりみる。黒スーツとロリータがイノシシを担いで、もうひとりはなんというか、イっている。しかもみんなして有毒で、両眼が光っている。
「くひひひひ……鍋とバーベキューやろう……同時に……」
「イノシシ一頭もよう食いきらんわ」
イノシシが庭先に下ろされる。二〇キロ近くあるだろうか。
「あらあら、イノシシですか」
「プリクラースニィ! 肉だー!」
窓から顔を出した紫と和歌恵が、感嘆する。
その声をききつけたのか、近くのキノコの娘たちが集まってくる。
「にゃー!」
真っ先に飛び出してくるゼラ。
「ゼラち~ん。まって~」
あみも、待てといいつつ、走るでもなく歩いてくる。だいぶ近くにいたらしい。
「……おやおや、みンなしてお揃いで」
紫との勝負に負けて、スネて出て行ったかほりは、少し気まずそう。紫はそんなことをいじらないし、他のキノコたちはその勝負を知らないのだが。
「僕も入れて九人か。食ってる間にやってくる子もいるだろうし……」
幹生が頭数を数える。もう少し増えるかもしれない。
さすがに一頭食べきるのは難しいとしても、だいぶ減らせそうだ。
「ほな、部屋の中で鍋、庭でバーベキューといこか。紫とかほりで鍋のほう頼んでええか。香と月夜で庭にグリル出してくれ。俺が肉さばくから」
エスが指示を出すと、各人が動き出す。
「じゃあー、ヤーはできるの待って、食べるの専門で」
「働け」
見物を決め込もうと部屋に寝転んだ和歌恵にも、エスは見逃さず蹴りをいれる。
「じゃ、ゼラはあみの面倒見てて。僕は野菜と炭を調達してこないと」
「にゃう」
幹生は、爪の都合で料理は参加しづらいゼラを、幼いあみの子守りに任命する。
それから家の裏に回って、街に出るときの足バイク、ヤマハ・メイトを回す。
「くひひひ……スーパーカブが来た……」
「カブちがう。あ、アルゲンティは、みんなの邪魔さえしなかったらいいから」
知らない人は全部ホンダのスーパーカブだと思っているが、似たような形のバイクはヤマハもスズキも出している。スズキのやつはバーディーだ。
「するなといわれるとしたくなる……くひひひひ」
無視して、幹生は走り去る。彼女は口だけで行動しないタイプだ。
走りだしてすぐ、広々とした畑の前で止まる。
戸籍上は幹生ひとりしか住んでいないはずのこの村で、誰がそんな畑を。
「おー、ぼっちゃん、今日の野菜かえ?」
カカシのように見えていた人影がひとつ振り返り、笑顔で手を振る。
彼女はハタケシメジの畑千野。この畑の主。
畑仕事が大好きで、年がら年中何かの野菜を育てている。農機も化学肥料も使わないが、疲れを知らないかのようにずっと畑をいじっているから、なかなかの生産量だ。
麦わら帽子にツナギに軍手、長靴と色気のかけらもない格好で、すっぴんのまま日焼けもしほうだい。全身が土にまみれているが、これが落ち着くという超農業系女子である。
「今日はイノシシ捕ってきてくれたから、鍋とバーベキュー。千野もおいでよ」
「そりゃええわ。今時分はちょうどニンジンやらゴボウやら旬だえ」
「じゃあ、悪いけどぼたん鍋とバーベキューに合うような野菜、みつくろってくれる?」
「まかしときなえ!」
野菜を作るのも、作った野菜を食べてもらうのも嬉しくてしかたない、という輝くような笑顔で答える。
「俺は街で炭とか買ってくるから。野菜は重かったら置いといて。帰りに回収するから」
「それくらい畑仕事で鍛えとるから大丈夫だえ」
遠回しに、荷物を任せろと言ったつもりの幹生だったが、真っ直ぐな千野には通じない。
立ち去る幹生に手を降って見送り、千野はつぶやく。
「さて、たまには体洗って着替えるかえ。さすがに人前に出るにゃ見苦しいわえ」




