第二話
夏が終わった。
海の家でのバイトの経験は私の一生の宝物となった。
そして始まった遠距離恋愛。
彼は名古屋、私は大阪。
お互い大学2年生。
9月の終わりに近くなるとどこの大学もそろそろ夏休みが終わり
後期が始まった。
彼も私も自宅通い。
そして共に大学まで電車で1時間と少し。
時間割の配分は、大学により違う。
何しろ、私は不真面目な学生だ。
講義中でもこっそり抜け出し、中庭のベンチで物思いにふけっていたり
眠い時には、堂々と寝てしまう。
そして極めつけは、行きたくない日は、行かない。
それでもテスト前になると友達にコピーを頼み猛勉強、ヤマをはり、
大当たりしたりして、なんとか単位は普通以上に取れている。
彼は、寝坊、遅刻の常習犯らしい。だから「二人とも似た者同士だ」
と、彼は言う。
ランチの休憩タイムも彼とはずれている。
私は12時10分から1時まで、彼は、12時40分から1時20分まで
講義中はもちろんメールなんかしょっちゅうしちゃう。
すぐに返信があればもうドキドキ。内容を読んでひとりでにやけちゃう。
でも私は、彼の声が聞きたいんだ。
彼は、私の休み時間が1時までって知ってるから
素早く昼食を平らげて、携帯で電話をしてきてくれる。
私が、待っていることを知っているから。
携帯の着信音が鳴るとすぐに取り出し電話に出る
「もしもし」・・・あぁ彼の声、愛しい私の彼の声。
泣き虫の私は、もうそれだけで涙がこぼれちゃうんだ。
「もしもし?今日は何食べた?」必至でこらえてるのに
彼にはすぐにばれてしまう。
「また泣いてる〜。お前、泣きすぎ。周りの友達が変に思うだろう。」
いつもいつも怒られてばかり。
「でもそんなお前が、かわいいよ」
泣きながらにやける私。
友達との会話での面白い話、隣で彼の友達が代われ代われと言っている。
だから彼の友達とも仲良しだ。
私の友達は遠慮してそんなことは、言ってこない。
私の泣き虫は有名だから、鼻の頭を赤くした私が友達のところへ
帰ってくるとすぐにバレちゃう。「彼と電話でまた泣いたんやー」
はやし立てられる。
私は、4限目が終わるとさっさと帰る。バイトがある時はバイトに出かけ
そうでなければ夕食の手伝いか、音楽を聴いている。
彼は、本当にタフだ。学校帰りに直接バイトに出かけ、
帰りは大抵12時ごろ。
私は、そんな疲れた彼を癒してあげようと、バイトの日は、
いつもお疲れ様メールをいれておく。彼もそれがとても楽しみだと
いうから・・・それで喜んでもらえるなら私はいくらでも書くよ。
そしてメールを読んで、必ず電話をしてきてくれる。
時には思いつくまま詩を書いていれといたり
彼を出来るだけ飽きさせないよう気を配って書いているんだ。
「今日の詩は良かったよ、だから保護メールにしておくよ」
「今日はちょっと元気がないな。どうした?」
彼は自転車に乗り片手運転で会話をし、
夜中なのに家の前の公園に自転車を止め、暫く話をしれくれる。
それも私の楽しみだ。会話が弾む。そういう時ほどすぐに時間が過ぎていく。
そして「もう寝な。明日も早いだろ。俺はいつも寝坊するけどな」
でもしばらくは眠れない。大好きな彼の声が耳に残って
なんでだろう、また泣けてきてしまう。
会いたい・・・彼のぬくもりを感じたい・・・
いつもいつもそう思いいつの間にか眠ってしまう。
会えるのは月に2回、私が名古屋に行ったら次は彼が大阪へ
来てくれる。
のぞみで行けば大阪から名古屋まで50分。
でもお互い都心まで出るのに彼は30分、
私は1時間くらい掛ってしまうので電車に乗ってる時間が長い分
朝は、早く出て、夕方にはさよならしなければいけない。
「楽しい時間ってなんでこんなに速く時間が経つんだろうね」
会うたびに言う私の口癖。
でも彼と腕を組んで街中を歩くのは、私にとってこの上のない幸せ
彼が大阪に来る時はUSJや海遊館、スターバックスで何時間も語らい
ランチを食べ、ウインドウショッピングだけのときもある。
お金が乏しくなると、お互いの家を訪れ、部屋でおしゃべりだけのときだってある。
私は料理が得意だ。だからそういう時は、彼のためにおひるごはんを作ってあげる。
この前は、オムライス、もちろん上に乗っているケチャップの文字はLOVE。
私が名古屋に行ったら映画をはじめ、彼につきあいバッティングセンター、
水族館など、もう私は彼と一緒ならどこだっていい。時間を共有していられるなら
それだけで幸せ。でも一番の幸せタイムは会う日がちか近くなると、
今度はどこに行くと相談するとき。
そして そして会えば必ずお互いの愛を確かめ合う。
肌を重ね、お互いのぬくもりを2週間分感じ合う。とっても幸せ。涙が出るほど。
そしてそろそろお別れの時間が近付いてくる。口数が2人とも減ってくる。
「また、あと2週間か…」どちらともなく言う。
ベッドで二人横になり手を繋いでしんみりと話す彼の話にうんうんと、うなずく私。
しんみりしすぎると涙が出る。そういう時は、彼をくすぐっちゃう。
そうすると一気に明るくなる。彼の携帯ストラップはなんとガチャピンだ。
それを見るたびに笑える私。
そろそろ行かなくちゃ。彼も私も必ず新幹線のホームまで見送りに行く。
扉が閉まるまでお互い顔を見つめ合い私が泣かないように
彼は、面白い話をずーっとしてる。あ、もう扉が閉まる。
「じゃ、元気でいろよ」
「うん、メールするね」
できる限り満面の笑みを浮かべて手を振る。新幹線が見えなくなるまで。
彼が行ったあとの寂しさ、せつなさは、表現のしようがない。
今まで我慢してた涙がドッと流れだし人が見ていようと泣いちゃう私。
彼に何かあればすぐに飛んで行きたい。誕生日などの記念日には
その日にお祝いをしたい。でも我慢する。これが遠距離恋愛の辛さなんだ。
会いたいときにすぐ会えない、これも遠距離恋愛の辛さなんだ。
やっぱり私は彼が好き。大好きだー。また2週間、我慢すればまた会える。
そうして唇をかみしめ、電車に乗って家路につく。もう私には彼しか見えない。
今日の出来事を思い出し時々一人笑いをしたりしてあっという間に家の前だ。
さあ、また辛いけど、日が経つにつれときめいてくる新たな2週間の始まりだ。
これが、青春・・・かな。 続く