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第二話 仕事 3

「何だこいつ」

 男が呻いた。真っ白な廊下に少年が、硝煙の中に立っている。少年は笑ったまま壁に手をやり、何かを壁に押し付け、そのまま少年は、壁に曲線を描く。その真っ白な壁に真っ赤な血が、描かれた。男は慌てて後ろを振り返る。

「リュート、増援を」

「バカ、後ろ!」

 次の瞬間、男は首から上が切り離された。首は中を舞い、体はバランスを失い、二つとも床に崩れ落ちる。その勢いで、血は流れだし、リュートと呼ばれた男の足元で、血は勢いを失くした。

「う……っわああああああ」

 リュートは持っていたマシンガンを連射し、たった一人の少年に恐怖した。自分より明らかに年下な筈なのに、自分とは違う生き物に見える。何かは分からないが、本能的に恐ろしく感じた。

「落ち着け、リュート!」

「あああああああああああ!」

 数人の男が、リュートを取り押さえる。親玉と思われるような男は、怒鳴り散らした。

「二番隊は前へ!三、四番隊は構え!」

 たかが、少年だ。どんなに凄いやり方をしていても、結局はどこかでボロを出す筈だ。男はそう自分に言い聞かせ、無理矢理納得させる。

「撃てっ」

 そう言って、ぎくりとした表情になった。笑っている。こちらを見て、呆れた様な笑みを浮かべて腕をだらんと下げている。まるで、相手にするのもバカらしいというかの様だ。と、その瞬間、何人もの男が、壁際に打ち付けられていた。壁は一気に赤く染まり、その真ん中を、少年がゆっくりとした歩みで、近付いてくる。

『ぬるいなぁ』

 その場にいた男達は、一斉に恐怖心だけで、乱射を始めた。と、また前線にいた三番隊が、壁に打ち付けられる。その事に、変化があるとすれば、皆がバラバラになって、上空から勢い良く床に落ちてくる事だ。少年は側にあった人の首というトマトを踏み潰し、血の海を歩いて渡る。

 ふと男は、少年の両腕を見て驚いた。その腕は、毛がびっしりと生え、まるで獣の様に太く、鋭い。そして、その腕にもまた、どす黒い血がこびりついている。

 その様子に、残った計十二名は、慌てて銃を捨て、我先にと走り逃げようとした。だが男は、そこから一歩も動かない。少年の赤い瞳を見つめ、ただただ、震える事しかできなかった。

『おおー。三十六計逃げるにしかずってか。……っハハハ。甘ぇんだよ。バカ共が』

 強い風が吹き、男の脇を、黒く太い腕が通り抜けていく。男を残し、皆は胴体を失った。次に、太い腕は、一人一人の腕を床に叩き落す。それは、さながら水の入った風船を、叩き割っている様にも見えた。

 あっという間に、真っ白に飾られていた研究所は、真っ赤に染まりあげられた。男は、ぎぎぎと首を回し、やっと見ると、幼い声色にびくりとする。

『おお。ここにも』

「頼む……っ助けてくれ……っ」

 震える体を必死に抑え、震える声で頼みこむ。少年はふふんと、鼻で笑うと両腕を頭にやる。

『ま、別にー。いいけどね、皆殺しじゃなくても』

 男はそれを聞くと、内心、助かったのだと喜んだ。が、その思いはすぐに途切れる。少年の腕が、いつの間にか元に戻り、代わりに銃を持って、引き金を引いていた。一瞬の静寂が訪れる。

『こいつがどうか知らな』

「俺としちゃ、殺さなくちゃいけない」

 男は、かろうじて動く目玉を動かし、少年の顔を見た。そこには、辛そうに顔を歪めている幼い顔があり、それを見て男は不思議と口元に笑みが広がる。これまで自分は最後まで人を傷つけた。そんな奴に似合う死に場所は、どうやらここだった様だ。そんなことを考えながら、息子より小さな少年を視界から切り離す。僅かに動く唇で、お先にと呟く。

 男はばしゃりと血溜りの中に崩れ落ちると、静かに夢を見始めた。永遠に目覚めることのない夢を。そこに、かつて少年だった自分がいた。

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