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第二話 仕事 1

夜の街を一つのオートバイが走る。既に夜中であるというのに、車はせわしなく動き回り、人工的に造れらた光で街は明るい。レイは、赤信号になったのを見て止めると、地図を取り出す。今回の仕事場はどこかの研究所であり、何かのサンプルを何の痕跡も残さず、サンプルを奪取する事である。

「サンプル、か。マスターはディスクっつってたっけ」

 レイは、そう独りごちると、信号が青に変わると共にオートバイを発進させた。懐には幾つかの爆弾と銃が一つ。コートは既に重く、妙に今回は厄介であった。内容は、研究所の所長の暗殺に、サンプルの奪取。ぎゅっと奥歯を噛みしめる。

 そもそもレイは自分の組織内では「変わり者」と呼ばれているらしい。理由を聞くと、皆口を揃えてこう言う。「殺す事を嫌がる殺し屋」だと。殺人を嫌がっているにもかかわらず、任務は必ず成功させるという「矛盾している少年」。無論、自分でも矛盾しているとは思う。しかし、任務には必ず成功しなければならないのだ。何故ならば、自分達の組織は厳しく、役に立ちそうもないと判断されれば、そこでそいつの人生は、強制的に終わらされてしまう。誰だって、死にたくはないのだ。それは一人に限ったことではない。だが、そのほかに、自分にはやらなければならない事があった。

 気が付くと、人気のない場所へと移動しており、そこは闇が迫る森の中だった。レイは訝しんで、オートバイを止める。森の奥に、微かな光が見えたのだ。オートバイから降りると、コートから銃を取り出し、音を立てぬ様、慎重な足取りで光の元へと走る。

 その光の元は、寂れた研究所であった。ちらほらと見える光が、哀愁を漂わせている。

「んー。こんな所にあんのか、例のディスクってやつは」

 そう呟き、内部へと侵入していく。しかし、その研究所は監視がいないのか、少年が入ってきても、人っ子一人出てこない。少し呆気にとられながら、ゆっくりとした足取りで地下へと進む。いつ敵が飛び出してきてもいい様に。

 やがて、最下層の奥にある扉へと、無事に行き着いた。扉にあるドアノブを、ゆっくりと慎重に回して銃を構えた姿勢で押し入る。すると、中には誰もいない様子で、何も飛び出してきたりはしなかった。それでも警戒は解かずに、卓上にある、一枚のハードディスクを手に取る。そして、そのディスクをコートにしまい込むと、レイは、ほっと胸を撫で下ろした。出て行こうとした途端に、全部屋に備え付けられている警報機が、一斉に鳴り出した。小さく舌打ちし、慌てて走り出すが、全部屋から一斉に銃を構えた、自分と同じ奴らが飛び出し発砲すしだいした。

 再び舌打ちし、ただひたすら突っ走る。出来るだけ被害を最小限にし、傷を受けない事。そういう最低限のことを守り、実際それを守りながら、仕事をこなした事だってある。しかし、今回は、流れ弾がレイの頬を掠り、左腕を、鉛の弾丸が肉を引き裂き、貫通した。撃たれた左腕からは、血が勢い良く流れ、左手に滴り、床に付着する。

「ぐ……っ」

 痛みに顔を顰めるが、右腕で、一人を銃で打ち抜く。短い悲鳴と、乱射する音だけが、研究所内に響き渡った。夢中で走りながらもまた一人、二人、三人と撃ち殺していく。やがて、廊下には、血溜まりと、その中に映った、虚ろ気な顔をしている少年だけが残った。その少年の、既に露出している顔や手は返り血や傷で、真っ赤に染まっている。

 レイは、ぞわりと背中の毛が逆立つのを感じ、「ああ、またか」と思った。こういった殺人を何度か繰り返すとき、いつもの様に「裏」が出てくるのを、この十年間で知った。そして、決まって自分は、その時を覚えていない。気が付けば、そこには屍しか残ってはいないという惨事になっている。

「まだ……。人は……、イル……」

 立ったまま意識が朦朧としだすと、視界の片隅に曲がり角から敵が襲い掛かるのが映った。

『サァ、交代ダ』

 頭の中で、そう幼い男の子の声が響くと、完全に「表」の意識は失われ、幾つもの銃弾がレイの元へと飛び込んできた。

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