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クリスマスはしょっぱい

作者: 大林秋斗

クリスマスはしょっぱい思い出が先にくる。






サンタがおとうちゃんいうの知ったん、早かったんよ。


幼稚園年長組の時、クマが主人公のアニメがあった。

うちはそのぬいぐるみが欲しかった。

だから、その年のサンタさんからのプレゼントはクマのぬいぐるみを願った。

でも、うちが欲しかったアニメキャラのクマやなくて、偽物が枕元に置いてあった。

鼻の位置が目と同じ高さについてて顔つぶれて見えてかわいくない。

「これ違う」って文句言ってたら、

おとうちゃんは、「サンタさん間違えたんか? でもこれもかわいいやろ?」って言った。

うちはそれに返事せんかった。



小学校2年の時、妹が生まれた。

赤ちゃんって小さくて柔らかくてかわいい。

うちも夢中になった。

学校帰ってきたら、ベビーベッド行って妹の顔見る。

たいてい眠ってたけど、たまに起きてる時もあって、うちの目をじっと見返してた。

その冬から、サンタさんのプレゼント、「何かの物」から「お菓子入りの靴」に変わった。

家族が増えた分、サンタさんのお財布も経費削減なんやな。



それからサンタさんのプレゼント忘れ事件が起こった。

うちが小6、妹4才の時や。

「すまんな、売れきれてて、いつもの用意できてないんや」

そんなことをおとうちゃん、

夜10時すぎの寝入りっぱな起こされて話されても困る。

分かってても、クリスマスの朝に、枕元にプレゼントないのは寂しかった。

けれど26日朝にお菓子の靴が置いてあった。

ふーん、どっかに残ってたんやな。

そう思いながら、妹とお菓子をひとつひとつゆっくり食べたん覚えてる。



おとうちゃんサンタからプレゼントなくなったの高校卒業の年やった。

もう、「お菓子の靴うれしい」と思う年なんかとっくにすぎてる。

中学生の時にやめてくれても良かったんよ。

でも妹がいたから続いていた。

妹の方もわたしと同じように高校卒業までやるという。

変なところに真面目なんやから。

「ごめんな、もうないからな」って、妹のいない所ですまなそうに頭下げた。

「ええで、全然気にしてないし」って苦笑いしながら言ったっけな、うち。



それから大学に行き彼氏できた。

初めて家に連れてきたのは2人目の彼氏。

おとうちゃんも彼氏も会ったときは緊張してたな。

なんか2人とも緊張しすぎて普段あまり聞かない丁寧語で話してた。

それうちも移ってしまって同じようにおとうちゃんや彼氏相手に「です」「ます」って話してもうた。

体に力はいってたみたい。

その彼氏と2人でクリスマスを過ごした。

それから以後、クリスマスの日は家とは違う所で過ごすのが決まりとなった。



彼氏と一緒の5度目のクリスマス、鮮明に覚えてる。


会社勤めして1人暮らしを始めた彼氏のマンションのリビングで、2人きりの手作りのディナーしている時だった。

うちのバッグから携帯の音が鳴った。

こんな時に誰やねん、と思いつつ手に取ると、おかあちゃんからやった。

「もう、いったい何?」ってうちが不機嫌になってしもても仕方ないやろう?

そうしたらおかあちゃん、切羽詰まった声で「病院来て」言うんや。


うちは急いだ。

彼氏が車乗せてくれて一緒に病院まで行った。

信号を待つ時間も気がせってどうしようもなかった。


病院に着くと、腕に点滴の管を繋いだおとうちゃんがベッドに座ってた。

「おお、来てくれたんか」とにっと笑う。

なんや緊急入院、手術せなあかんはずの人やのに、全然元気やん。

拍子抜けしたわたしにおとうちゃんは言う。

「すまんな、癌言うても初期やし。でも家族呼べと医者がうるさくてな」

がははとまた笑った。

うちらもつられて笑ったけど、病室出てから、おとうちゃん抜きの面談室で聞いた医者の話は深刻だった。


余命8か月。

癌が大腸から肝臓、肺に飛んでいて、癌は切除不能。

手術はストーマー(人工肛門)つけるだけのもの。


おとうちゃん、笑ってたやん。

どこが病気やの? って見た目だけでは分からないのに……。

うちは笑顔作れる自信なかった。

けれど妹が泣き出してしまったので、おかあちゃんと一緒に宥めた。

初期やと信じてるおとうちゃんに疑われてしまう。

病室戻っておとうちゃんと軽口言ってから、家に帰ることにした。

彼氏もわたしとすごす予定にしてたからとわたしの家に泊まることになった。

重苦しい空気の中、布団に横たわったまま寝つけないでいると、彼氏はぎゅっと抱きしめてくれていた。



1週間後、おとうちゃんは手術した。

術後は順調、8か月と言われた余命だったけど、1年半、生きてくれた。

その間にうちは彼氏と結婚した。

式はしなかった。

グアムに行って写真撮ってきただけ。

「今の子の結婚て愛想ないなあ」

おとうちゃん呆れ顔で言ってたけど、しょうないやん。

結婚した時、まだおとうちゃん体動けてた時やから式場借りてもありやったかもやけど、お金なかったし借金したくなかったし。

結婚して初めてのクリスマスは実家ですごした。

久々ちゃうの? 家族勢揃いしたん。

もう、この時にはおとうちゃん、だいぶ弱ってた。

立ったり歩いたり、日常生活はなんとかいける、けど、休めがいる。

ふらつくのだそうだ。

そういえば実家でクリスマスツリー飾ったの初めて見たんちゃうやろか。

クリスマスは「お菓子の靴」とケーキ食べるだけのイメージやったけど、結婚式せんかったわたしへのプレゼントやとか。

でも、このおっきなツリー新居に持って帰っても置き場所困るやんか、おとうちゃん。


クリスマスツリーの前で記念写真携帯でばしばし撮った。

その画像見返すと、おとうちゃん、ずいぶん痩せたなって思った。


おとうちゃんは、忘れんぼで嘘つきや。

妹が高校卒業するまでサンタ続ける言うてたんちゃうかったの?







おとうちゃん、ツリー見える?

今年もまた出したんやで、このおっきいツリー。

もう、まじで迷惑、なんで小さいのにせんかったの?

リビングの場所取ってるの分かるやろう?

子供は喜んでるけどね。



妹も高校卒業して彼氏おるみたい。

考えたらサンタなんて不要やん、年的には十分。

約束守れなくても安心したかな、おとうちゃん。




おとうちゃん、二人目がお腹の中おるんやで。

うちの2代目サンタさんにも、「お菓子の靴」のプレゼント継いでもらってる。

うちとこも経費削減考えて、最初から「お菓子の靴」なんやけどね。


はは、クリスマスはやっぱりしょっぱいわ。


なんやかんや言いながら、おとうちゃんサンタと同じことしてるもん。

いつかのうちみたいに、今度は自分の子供から文句言われそうや。






おとうちゃんは、ずっとおるもんや思ってた。


ありがとう言えばよかったな。

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