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異能者

旺真が去って間もなく、城の中では王の合図とともに大広間の扉がもう一度、ゆっくりと開かれた。

その奥から、柔らかな鈴の音と共に歩いてきたのは、一人の少女――


長い銀髪に薄青のドレスを纏い、月光のような雰囲気を漂わせるその少女に、場の空気が一変する。


クラスの男子たちは、彼女の美しさと気品に思わず息を呑み、

女子たちも、その優雅でありながら温かい態度に自然と見惚れた。



「皆様。異界より来たる者たちよ――

私たちは、あなた方を“兵”としてではなく、“希望”としてお招きしました」


騒がしかった空気が静まり返る。


「この世界には、今、かつて封じられた《黒き龍》の目覚めの兆しがあります。

それは災厄の象徴であり、大地を焼き、空を裂く存在――。

我が王国は長らくその封印を護ってまいりましたが、ついに限界が近づいています」


「私は“神託を受けし者”として、この国を見守ってまいりました。…そしてついに、その予言が現実となったのです」


場の空気が、ぐっと引き締まる。


「かつて神より授かりし啓示――


■ 神託の予言『黒き龍、再び空を覆わんとき――

異界より来たる“異能者”、闇を祓い、光をもたらす者となろう。その者、全ての種族を超えた力を宿す。

この異能者こそ、この世界を救う鍵なり』



「――私たちはこの神託に導かれ、あなた方を召喚しました。この予言にある“異能者”とは、皆様の中に必ず存在するはずです」


セレスティアは、クラスメイト一人ひとりの目を見て、ゆっくりと語りかける。


「誰が“異能者”かは、まだわかりません。

けれど、皆様の力はそれぞれ違い、それぞれが特別です。

あなたたちの中にこの世界の希望がある。

だからどうか……エルディアを、私たちの未来を、守る手助けをしていただけませんか?」



王族としての気高さに、少女らしい純粋さを乗せたお願い。

その言葉に、クラスの男子たちは奮い立ち、

女子たちも「この人のためなら」と自然にうなずき始める。


「よし、やってやろうぜ! 異世界なら力を使ってみたいし!」

「剣とか魔法とか……本当に使えるなら、夢みたいだよね」

「黒き龍……映画みたい!でも、怖いね」

「でも、あのお姫様のためなら、頑張ってみたいかも」


その場にはいなかった進藤旺真のことを、誰も話題に出さなかった。

彼がいないことで生じた空白は、いつの間にか希望という熱気で埋められていく――。


玉座の間で全員のスキルの確認が終わると、王は厳かに言葉を発した。


「皆のスキル、確かに確認した。異界の者とはいえ、その力は我が国の希望となろう。これより、それぞれの部屋へ案内させよう。疲れを癒すとよい」


案内役の騎士たちが整列し、生徒たちは豪奢な城の中を進んでいった。広く高い天井、金の装飾がほどこされた柱、長く続く絨毯の上を歩くたびに、足音が心地よく反響する。


案内された部屋のドアが開くと、まるで貴族が住むかのような豪華な空間が広がっていた。ふかふかのベッドに大きな窓、魔法で灯るランプに、洗練された家具の数々。


「これ……本当に俺の部屋?」

「まって、やばくない?一生ここで暮らせる……」

「異世界生活って、意外とアリなのかも」


興奮と安心の中、生徒たちはしばし、柔らかなベッドに身を投げたり、窓から見える景色に心を癒やされていた。


――そして、日が落ちる頃。


「そろそろ、夕食の時間でございます」


召使に案内され、大広間へと集められた生徒たち。長いテーブルには温かいスープや香ばしい肉料理、色鮮やかな果実が並べられ、甘い香りが立ちのぼる。


席に着き食事を楽しんでいると、王女が立ち、静かに語り始めた。


「皆さん。今宵、少し長い話になりますが……この世界を知っていただきたいのです」


広間の灯りが少しだけ落ちる。王女の声だけが、凛と響いた。


「黒き龍――それは、約千年前、突如として現れました。大地を焼き、空を裂き、多くの命を奪いました」


重く静かな空気が、場を包む。


「その時、立ち上がったのが、のちに“勇者”と“聖女”と呼ばれる2人。その勇者と聖女は私たちの先祖にあたります。勇者は唯一、黒き龍に対抗できるとされる伝説の剣を振るい戦っていました。激闘の末、聖女は命を代償にして龍を封印しました」


王女は胸に手を当て、深く一礼する。


「封印は今も、王都から離れた遺跡の地下に続いております。しかし、時の流れと共に封印の力は弱まりつつあるのです」


王が続けた。


「再び黒き龍が目覚めれば、この世界は再び破滅の淵に立たされよう。ゆえに我々は、神託に従い、異界の異能者を招いたのだ」


王女は一歩前に出て、生徒たちを見渡す。


「あなた方の中に、かの勇者のように、世界を救う存在がいると私は信じています。ですが、そのためにはまず――」


「――力をつけていただかねばならん」と王が続ける。


「伝説の剣は今、行方知れず。我らは封印が破られる前に、その剣を見つけ出さねばならぬ。そして探しに行くためにも、皆が成長し、この世界の魔物や危機に立ち向かえる力をつけねばならぬのだ」


沈黙が落ちる大広間。


だが、そこにいる誰もが、ただの“巻き込まれた存在”ではなく、何かを託されたような気持ちになっていた。


「どうか、この世界に――希望を」


その言葉に、静かに頷く者もいれば、不安げに視線を落とす者もいた。


それでも、物語はもう動き出している。


誰かの、そして世界の運命を乗せて――

ここまで読んでいただきありがとうございます。


旺真ないなくなった後の城の様子を書きました。


クラスメイト達はどれだけ成長していくのか楽しみにしてください!

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