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第7話 スランの家族

草原を抜け、さらに奥へと進むと、岩壁がゴツゴツと立ち並ぶエリアに差し掛かった。

その岩壁のひとつに、ぽっかりと口を開けた洞窟がある。


「ここが僕たちの家だよ!」

スランはぴょんぴょんと跳ねながら、体をぷるぷると振るわせて楽しそうに言う。

洞窟の前にいくと

「帰ったよーーー!」

全身を振るわせ、叫ぶスラン。


すると、洞窟の奥の方からぷよんぷよんと音が近づいてきた。


「今日は人を驚かせることができたのか? おまえ、いつも失敗ばかりだからな」

ずっしりとした声とともに現れたのは、堂々とした大きなスライム。スランの父らしい。


「できたよ! しかもすっごく面白い反応だったんだよ! だからね、人間を連れてきちゃった!」

スランが体をくるっと回転させて誇らしげに言うと、後ろからやや小柄でやわらかそうな母スライムも現れた。


「人間を……連れてきたの?」

母スライムは少し驚いたように体を膨らませる。


「ど、どうも……」

旺真は気まずそうに、でもできるだけ笑顔を浮かべて挨拶した。


「なんで人間がこんなところに!!それに俺達の言葉を話している!!」

驚きすぎで顎が外れてそうな父スライム。

顎があるのか、骨すらないだろうが。


少し落ち着きを取り戻し、

「まさか人間に驚かされる日がくるとは、スライム泣かせめ……」

父スライムがそう言って低く笑う。


「なんかスライムジョークを言われてるんだが……」

旺真は苦笑しながら、場の雰囲気に少しずつ慣れていった。


そのうち、スランが「みんなー!」と叫ぶと、洞窟の奥から続々とスライムたちが現れた。


「兄のスラーム! 姉のスラー! 弟たちのスラリとスラル!」


「人間が……話してる!? 僕たちの言葉で!?」

「すごい! 人間ってみんなこんなことできるの?」


スライムたちは旺真の周りに集まり、ぐるぐると跳ねたり揺れたりしながら、興味津々で話しかけてくる。


(ほんとに……魔物って、こんなに人間っぽいというか、親しみやすいのか……)


スライム兄弟の質問攻めに頑張って答えていた旺真。


話疲れてきたと思っていた時、母スライムが「夕ご飯できたよー」と優しく呼んでくれた。


出されたのは、草の葉や水、そしてきのみを集めたもの。

「人間が何を食べるかわからないから……きのみを取ってきてみたの。口に合うといいけど……」


「ありがとう、すごく助かるよ」

旺真は心の底からそう言った。気づけば、外はすっかり暗くなっていた。


さらに、父スライムが洞窟の端の岩を体液で溶かして平らにし、草や木の葉を丁寧に敷いてベッドを作ってくれた。


「ここでゆっくり休むといい。おまえ、疲れてるだろう」


「……ありがとう。本当に、ありがとう」


心の奥でずっとどこか乾いていた何かが、じんわりと温かく潤っていくのを旺真は感じた。


「やったー!!今日は語り明かそー」

スランは夜になっても元気で居続けていた


「ほどほどでお願いします」とさすがに疲れてきた。

⸻——-


スランの家族と一緒に過ごした夜が、まるで夢だったかのように感じられる。

岩壁の間から差し込む光の筋が、朝を告げている。



「おっはよう、おうま!」

スランが旺真の体の上でぴょこんと跳ねながら挨拶してくる。


「いだい、いだっ、勘弁てしてくれ」

もう分かったというくらい元気なスランに朝から元気をもらう。


「昨日は本当にありがとう。いろいろしてもらったし……俺にできることで、何か手伝えることないか?」

母スライムや父スライムも起きてきていたので、昨日のお礼に何かさせてもらいたい。

お金もなく、寝る場所に困っていたからとても助かった。


旺真がそう訊ねると、父スライムが少し表情を曇らせながら言った。


「……実は、最近ちょっと困っていてね」


「うん……近くにゴブリンが増えてきてるの」と母スライムが続ける。


「前はたまに見かけるくらいだったんだけど、最近は群れで現れて、草を踏み荒らしたり、水場を汚したりしてるの」

「このままだと、この洞窟も危ないかもしれない。スライムは戦いには向かないから……」


スランが不安そうに言葉を添える。

「引っ越し、するしかないのかもって、他のスライム達も話してる」


旺真は顔をしかめた。

せっかく仲良くなったスライムたちが、住み慣れた場所を追われるなんて――。


「ゴブリンとは話せないのか?」と旺真が聞くと、父スライムが体を振るわせる。


「無理だね。種族が違えば言葉が通じない。そもそも話し合おうとする奴なんかいないんだ。」


そのとき、スランがパッと顔を上げた。

「オウマなら、できるかも! だって、僕達の言葉がわかったんでしょ?」


「えっ?」


「お願い、オウマ! オウマなら、きっとゴブリンとも話せる! ボクたちを助けて!」


スランの瞳は真剣だった。

家族を、仲間を守りたいという気持ちが痛いほど伝わってくる。


旺真はしばらく黙ったあと、小さくうなずいた。


「……わかった。やってみる。うまくいくかはわからないけど、話すことなら、できるかもしれない」


スキル:マルチリンガルがどれほど万能なスキルなのかわからないが、きっとどんな魔物とも話すことが出来るのだろう。どこからくる自信か分からないが、出来そうな気がしている。


スランの体が嬉しそうに弾む。


「やったー! オウマ、最高!!」

ここまで読んで頂きありがとうございます!


異世界に来て、人間には冷たく扱われた旺真。

魔物は人間よりも暖かな心で迎えてくれた。


異世界での優しさに答えたい旺真はゴブリン達と話をつけに行く。


ゴブリン達との交渉は上手くいくのか楽しみにしてもらえればと思います!

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