第21話 新たな称号
長老がゆっくりと目を覚まし、ふと放心した表情のまま天井を見上げると、次の瞬間、旺真の脳内に電子音が響いた。
――《スキル『MINE』に新たなフレンドが追加されました:ゴブリン長老》――
それを受け取った旺真は少し驚きながらも、そっと微笑んだ。
すると長老はむくりと体を起こし、旺真の前で片膝をつき、深く頭を下げる。
「この度は…この老いぼれゴブリンの、長年の夢を叶えていただき、まことにありがとうございました…!
オウマ様…あなたは、ゴブリン族にとって偉大なお方です…!」
「お作りいただいた尊き像は、村の中心――大木の切り株の上に奉り、村の象徴とさせていただきます!」
その言葉に周囲のゴブリンたちが歓声を上げ、
「オウマ様ばんざい!」「女神さまばんざい!」と熱気に包まれていく。
「この村のゴブリンは、オウマ様のためなら何でもいたしますぞ!」
その雰囲気の中で、そっとスランが耳打ちする。
「ねえ、今ならスライムたちのこと、相談できるかな?」
旺真はうなずき、長老に向き直って語りかける。
「実は…スライムたちが困っているんです。最近、ゴブリンたちがスライム達の生活圏の水場を荒らしているらしくて。」
長老は目を細め、深く頷いた。
「……それは申し訳ない。粗暴な若者たちの仕業でしょう。今後はスライムの皆さんと共存できるよう、村全体で配慮していきます。」
「ありがとう、長老!」
スランがぱっと顔を明るくして礼を述べる。
「スライムの言葉まで分かるとは…それもオウマ様の能力か?」
「はい、そうです。これからは種族の壁を越えて、会話できるようになるかもしれません。」
「それは何より…この地では“言葉”が違うというだけで争いが生まれることも多いので…。本当にありがたい…」
長老は深く感動しながら宣言する。
「オウマ様のお力、そして女神像のお披露目を祝して――本日、盛大な宴を開きますぞ!」
夜が更けはじめ、ゴブリンの村に灯るたいまつの光が、祭りの始まりを告げていた。
集落の中央、大木の切り株の広場には全ゴブリンが集まり、ざわざわと高揚した空気が満ちていた。
長老が高台に立ち、大きな声で宣言する。
「皆の者――! 今宵は我らの夢を叶えてくださった救世主、オウマ様をご紹介いたす!!」
その瞬間、全ゴブリンの視線が一斉に旺真へと向けられた。
「紹介されてもねぇ……」と少し照れながらも、旺真は手を小さく振る。
スランがそっと隣で応援するように微笑んでいた。
「この方こそ、人間でありながら我らの願いを理解し、形にしてくださった――」
長老が手をかざし、広場中央に布をかけられた巨大な像が運ばれてくる。
「さあ、女神像のお披露目じゃ!!」
布が剥がされると――
現れたのは、白川澪を模した優しく微笑む女性の木像。
手は撫でるように前へ差し出され、ゴブリンの頭をそっと包むような造形。
「おおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
ゴブリンたちは感嘆の声を上げ、そして一斉に叫ぶ。
「女神様――ッッッ!!!」
「女神様――ッ!!」
「お触りの時間だーーーッ!!」
……だが、長老はすかさず制止の声を上げた。
「待てい!!」
どよめくゴブリンたちを前に、長老が厳しく言い放つ。
「女神様に撫でていただけるのは――1日1回までッ!!」
「えええええええええ!!」
「何度も触れた者には、罰則を与えるぞ!!」
「ぐぬぬぬぬ……!」
そんなゴブリンたちのやりとりに、旺真は苦笑いを浮かべながら見ていると、脳内に機械音が聞こえてくる。
──《MINEフレンドが登録されました:ゴブいち、ゴブに、ゴブさん、ゴブし、ごぶご…… てか多すぎるので後は省略、よろー》
「なんか声がどんどんチャラくなっていく……!」
そこにさらに電子音が響く。
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《スキル:マルチリンガル》
条件「フレンドが50名を超える」を達成しました
新たな効果を習得します
効果:「新たな称号「陽キャ」が付与されました」
「登録されたフレンドのスキルを一時的に使用可能になります」
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「……え、なんかめっちゃすごいこと言われてない?」
ちょっとびっくりする旺真。
でも今は――
「まぁ、今は考えるのやめよう。宴だしな……」
気を取り直し、振る舞われるゴブリンの手料理、楽しそうに踊る子供たち、女神像を順々に近くで見るゴブリン達、そして楽しげなスランの姿を見ながら――
旺真は、心から笑ってその夜を楽しんだ。




