第20話 女神生誕
工房の中央に立つ**白い布に包まれた“像”**を前に、旺真は深呼吸をひとつ。
「ようやく完成したよ」
彼の声に呼ばれて集められていたのは、ゴブろう・ゴブすけ・ゴブぞう・スランの四人。
「おおっ……ついにか!」
「早く見たいゴブ……!」
「ずっと待ってたゴブ!」
「わくわくするね!」
興奮した面々と共に、像を慎重に担いで集落の中心――長老の元へと向かう。
布に包まれた物体を見て、すでに待っていた長老が腕を組んで待っていた。
「遅いぞ、オウマ。どれだけ待たせる気じゃ……!」
声は怒っているが、どこか体がソワソワしているのが丸わかりだ。
「申し訳ありません、長老様。でも――最高のものができました」
旺真は一歩前に出る。
「これも、ゴブてつとゴブかの力があってこそです」
「ふふん、まぁ朝飯前ゴブ!」
「俺らの兄弟に作れないものはないゴブ!」
と自慢げに胸を張る二匹に、スランが微笑んだ。
「では――ご披露させていただきます」
旺真が合図すると、ゴブろうたちが息を合わせて布をサッと取り払う。
白川澪そっくりの美しい像が姿を現す。
穏やかな表情で、軽く膝を曲げ、差し出された“手”は撫でるためだけに作られた夢の手。
「おおお……!」
「美しいゴブ……」
「なんて……神々しいゴブ……!」
「人間の女……いや、これは女神ゴブ……!」
集まったゴブリンたちは、一様に言葉を失う。
そして長老も――
「ほう……よくできておる。だが、わしを満足させられるかどうか……試してやろう!」
目をギラつかせ、口角をニヤリと上げる長老。
完全にノリノリだ。
「では……この“手”に、頭を差し出してください」
旺真の案内に従い、長老は静かに頭を像の手元に差し出す。
「……」
像の手が、ほんの少し沈む。
長老の頭が、まるで自然に吸い寄せられるように撫でられていく。
ふにゅん。
「――はっ……! こ、これは……!」
長老は目を見開き、体を震わせる。
自分で頭を微かに左右に動かし、**撫でられている“雰囲気”**を最大限に楽しむ。
「これは……これは……! わしの……夢……!!」
その言葉を最後に、長老の体がふわりと崩れるように倒れる。
「ちょ、長老ぉぉぉぉぉ!!!」
「しっ、しっかりしてください長老!!」
「長老ぉぉぉ!!!」
慌てて駆け寄る護衛たち。しかし――
長老は幸せそうな表情で、気絶していた。
「……寝てるゴブ」
「すっごい笑ってるゴブ」
「これは……満足した証拠だゴブ……!」
旺真は呆れ半分、微笑み半分でつぶやいた。
「ゴブリン達って本当にみんな同じように気絶するだな……」
するとスランが、満面の笑みで言う。
「ねえ、オウマ。これでゴブリン達の夢、いつでも叶えられるね」
旺真は少し照れたようにうなずいた。
「うん。……まあ、ちょっと複雑だけどね。」
(白川、本当にごめん。)
白川澪は、自分が見知らぬゴブリンたちに**「女神」**として崇められているなど、知る由もなかった。




