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第2話 異端者の通過儀礼

「……はぁぇぇ!!」


俺は思わず、よくわからない言葉を口にしていた。


その瞬間、誰かが振り向く。


「ん?今、何か叫んだ?」

「おい進藤、お前どんなスキルだったんだよ?」


数人のクラスメイトが、興味津々とこちらに近づいてくる。


「もしかして、すごいやつ? 叫ぶくらいだし!」

「やばい攻撃魔法とか?必殺技系?」


「いや、あの……」


俺は戸惑いながら、ウィンドウをもう一度見た。



スキル:《全言語理解》(マルチリンガル)

あらゆる言語を瞬時に理解・翻訳・発話が可能

文字の読解も可能



「……言語理解……?」


ポツリと漏らした言葉に、周囲が一瞬静かになる。


「……え、翻訳ってことか……なに?そのまんま?」

「通訳が出来るようになるのか? それって……」


「うわ、マジかよ!役に立たねぇ!」

「おいおい、語学スキルって!ここ異世界なんだろ?戦えなきゃ意味ないだろ」


「しかも“全言語理解”って、どこで使うの?TOEICでも受けるの? ハハハ!」


生徒たちは笑い出す。

まるでおもしろいオモチャでも見つけたように。


(なんでだよ……なんで俺だけ、こんな……)


胸の奥がじんじんと熱くなる。

顔が火照るのは怒りなのか、恥なのか、自分でもわからない。


そのとき──


「騒がしいな……何があった?」


重々しい声が響いた。

王、カリオスが、杖をついてこちらへと歩み寄ってくる。


「王様、進藤くんのスキルが……その、ちょっと変わってたんです」


「変わっていた、とは?」


王は旺真のステータスウィンドウを覗き込み、ゆっくりと顎に手を当て、しばし考え込む。


「……ふむ。なるほど。“全言語理解”……神の加護により与えられしスキルとはいえ、それは確かに……」


王の目が、真っ直ぐ俺を見据える。


「戦闘には、不向きだな。少なくとも、直接戦う力としては」


その言葉が胸に突き刺さった。

周囲のクラスメイトが、さらに笑いを噛み殺す。


「うわー……ハズレじゃん」

「マジかよ……本当にハズレスキルってあるんだな」


王は続ける。


「無念ではあろうが、今は力がすべて。我が国は今、悠長にしていられる情勢ではないのだ」


そう言って、王は背後に控えていた衛兵に視線を向ける。


「……彼を、街へ案内してやれ」


「はっ」


衛兵が一礼し、脇からすっと金貨の詰まった革袋を差し出した。


「……王よりの言付けだ。『せっかく異界より来てくれたのだ、しばし城下を散策し、自由に過ごすと良い』と」


その言葉は丁寧で、まるで厚遇しているかのように聞こえる。


けれど。


(……追い出されたんだ)


俺にだって、わかる。これは──実質、戦力外通告。


戦える仲間は王のもとに、戦えない者は外へ。


「え、ちょ、王様、それって……」

「えぐ……まじで捨てられた……」


生徒たちがざわつく中、俺は一歩も動けずにいた。

頭では理解しても、心が追いつかない。


その時だった。


「待ってください!」


澄んだ声が、広間に響いた。


白川 澪── 黒髪ロングの優しくて可愛い子。俺のこと、ずっと気にかけてくれてる。誰にでも優しいあの子が、真っすぐに王を見つめていた。


「進藤くんのスキル……確かに戦う力ではないかもしれません。でも、それだけで判断してしまうのは早すぎます!」


「言葉や文字がわかるって……戦場じゃなくても、きっと役に立つ場面はあるはずです!もしかしたら魔物の言葉も理解出来たりするのかもしれない」


その言葉に、王は眉を寄せる。


「心意気は立派だが、我らが求めるのは“即戦力”である。誤解なきよう言っておくが、余は彼を蔑ろにする気はない。ただ、この国の命運がかかっておるのだ」


そう言って、王は視線を逸らした。


だが――


「俺も、澪の意見に賛成だ」


低く、力のある声が響く。


神城 蓮。クラスのリーダー格で、正義感の強いヤツ。彼が一歩前に出て、俺を振り返った。


「最初は使えなくても、スキルって鍛えれば伸びるかもしれないだろ。オウマだって、これからだ」


「ありがとう……」


思わず小さく呟いた。


でも、その温かさが、逆に苦しかった。


優しくされればされるほど、情けなさと恥ずかしさで、胸が張り裂けそうになる。


俺は唇を噛みしめながら、一歩、前に出た。


「……ありがとう。でも、いいよ。受け取るよ、金貨」


自分でも驚くほど、声は震えていなかった。


衛兵の差し出す革袋を、ぎゅっと握りしめる。


「散策……してくるよ。俺、戦ったりとか……向いてないし。みんなが世界を救ってくれるなら、それをのんびり待ってる方が性に合ってる」」


そう言って、俺は振り返らずに歩き出した。

王の顔も、クラスメイトの表情も見たくなかった。


視界の端で、白川が手を伸ばしかけるのが見えた気がした。


でも俺は、そのまま城の大扉をくぐって、外の光へと足を踏み出した。


――これは、“冒険の始まり”なんかじゃない。


異端者への通過儀礼だった。

ここまで読んでいただきありがとうございます。


マルチリンガルと言うスキルは戦闘に不向きと判断され、城を追い出された旺真


これから旺真は集団ではなく、個人での行動をしていく。

果たして旺真はこの異世界でどのように過ごしていくのか楽しみにしてください!


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