第15話 ゴブリン族の集落
木々の隙間から差し込む陽光の下、旺真は静かに息を吐いた。
初めて「ゴブリン」と聞いた時、そして彼らと遭遇した時、旺真の心にはやはり恐れがあった。
人間の常識では、ゴブリンとは“危険な魔物”であり、野蛮で、粗暴で、襲いかかってくる存在。実際、女性を攫っていた現場に遭遇したこともあり、最初の印象は最悪だった。
――けれど、今は違う。
「……不思議だな。こんなにも安心して見ていられるなんて」
旺真はスランにそう呟いた。
スライムのスランは彼の横でちょこんといて、小さく震えるように「うん」と頷く。
「ゴブろうたちが、悪いやつらじゃないって分かったからだよね」
「そうだな。ゴブリン達の夢が“頭を撫でてもらうこと”なんて……想像もしてなかった」
小道を進んでいると、木の柵に囲まれたゴブリンの集落が姿を現した。
その入り口、いわば“玄関”には、槍を手にした見張りのゴブリンたちが構えている。
「止まれ!!」
緊張した声が飛び、見守りのゴブリンたちが警戒態勢に入る。
見張りの目が、一歩下がった位置にいる旺真を捉えると、さらに険しい声になる。
「 なぜ人間の男がここにいる!? 女はどうした!」
その瞬間――
「うるせえッ!」
ゴブろうが、ビッと腕を広げて、旺真の前に仁王立ちになった。
「このお方は、俺たちゴブリン族の夢を叶えてくださった、尊いお方だぞッ!」
「そうゴブ! この人がいなかったら、俺たち一生人間の女に頭を撫でてもらえなかったゴブ!」
続けて、ゴブすけもゴブぞうも旺真の前に立ち、まるで親衛隊のように胸を張る。
「そうゴブ!人間の女が頭を! 撫でて! くれたゴブ!!」
「俺たち、感動して気絶したゴブ!」
三匹は声を揃えた。
見守りのゴブリンたちは驚いたように目を丸くし、ざわざわとささやき合い始めた。
「な、なんだって……人間の女に……触れてもらえたゴブ……?」
「それも、怖がらせずに……?」
「ほんとうに……“頭ナデナデ”が……!」
ざわめきの中、ひとりの見張りが目を潤ませながら、槍を地面につく。
「これが……本当なら伝説だゴブ……!」
「我々の悲願を果たした……救世主様がお越しになったゴブ……!」
見守りたちは一斉に槍を下ろし、道を開けた。
「オウマ様! どうか中へ……!」
「長老にもすぐにお伝えいたします!」
旺真は、ゴブろうたちに守られながら、どこか気恥ずかしそうに笑った。
「……なんだか、俺がすごい奴みたいになってるな……」
スランがぷるぷると震えながら、
「まあ、ゴブリンのみんなからすると凄いことしてるんだよ」
と、誇らしげに言った。
そして一行は、門の奥へと進んでいくのだった。
門を抜けた旺真とスランは、ゴブろう・ゴブすけ・ゴブぞうの3匹に囲まれるようにしながら、村の中へと足を踏み入れた。
「魔物の集落」と聞いて想像していたものとは、全く違う光景がそこには広がっていた。
「……うわ、すごい……」
旺真が、思わず声を漏らす。
整然と並んだ木造の家々。
土でできた簡素な道ながら、しっかり踏み固められ、雑草もほとんど見られない。
「野蛮で汚いって……イメージだったけど、全然……」
「いやマジで、普通に“村”だよな……」
旺真は感嘆の声を漏らす。
左手には畑。しっかりと耕され、とうもろこしのような作物が植えられている。
奥の方には何やら煙が立ち上っている――どうやら鍛冶場のようだ。
子どものゴブリンが跳ね回りながら笑っている。
老いたゴブリンが木陰でうたた寝している。
若いゴブリンたちが力を合わせて家の補修をしていた。
「スライムの家とは大違いだー」
スランは目を丸くして言った。
そんな彼らの会話を、前を歩いていたゴブぞうが聞きつける。
「当然だゴブ! 人間に負けないくらい、俺たちも立派に暮らしてるゴブ!」
「そうだゴブ! 人間に怖がられるけど、こうして仲間と助け合って生きてるゴブ!」とゴブすけ。
魔物と人間は別の存在だと勝手に思っていたが、今では“人間と変わらない存在”なのだと思っている。
そんなふうに思っているうちに、彼らは集落の奥――
大きな木に造られた、重厚な階段付きの家へと辿り着く。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
ついにゴブリン族の集落にたどり着きました。
これから旺真はゴブリン族とスライム族の橋渡しとなれるのでしょうか?!
どのようにゴブリン族と仲良くなっていくのでしょうか?!
楽しみにしてください!




