看板受付嬢
私はリリア・フェルト。
ギルドの看板受付嬢。
自分で言うのもなんだけど――いや、むしろ私が言わなきゃ誰が言うの?ってくらい――
私はこのギルドの顔であり、受付嬢としての理想形。
可愛い、ってよく言われる。
仕事も、もちろん完璧。
ベテラン冒険者からも新人くんからも「リリアさんが受付でよかった」って言われるし、
たまに他のギルドからスカウトもくるくらいなんだから。
だからこそ、私はいつだって余裕の笑顔で応対する。
どんな相手でも、どんな依頼でも、冷静に的確にこなしてきた。
人の心を揺さぶることはあっても、揺さぶられるなんて――絶対にない。
……はずだったのに。
昨日、登録に来た少年。
進藤旺真。
あまりにも細くて、頼りなさそうで、正直「本当に大丈夫?」って思った。
でも、目を見た時、何かを背負い込んでいるような――妙に静かな強さを感じた。
そんな彼が最初に選んだ依頼は、「薬草摘み」。
初心者でも安心な定番中の定番。
草原の端っこに行って、少し草を摘んで戻ってくるだけ。
……なのに、彼は帰ってこない。
薬草摘みで帰ってこないなんて、めったにない。
危険な場所でもないし、迷うような複雑な地形でもない。
だからこそなんで?――
気になって、仕方がない。
魔物に襲われた?
それとも、薬草を見つけられずに、うろうろしてる?
まさか、もう……なんて。
ああ、もう……。
――ほんの少し、気になってるだけ。
そう、自分に言い聞かせながら、私は机の上の書類に手を伸ばす。
あのひょろひょろの新人くん、進藤旺真。
どこで何してるのよ。
早く戻ってきなさいよ……ちゃんと、私の前で報告するのよ。
でないと、落ち着かないんだから――もう。
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受付嬢のリリアの心配なんて露知らず、
旺真はスランと共に森の奥へと足を踏み入れていた。
目指すは、ゴブリンたちの住処。
情報によれば、彼らは森の中で木を組み立てて家のようなものを作り、そこに集落を築いているという。
「ねえ、オウマ。どうやって交渉するつもりなの?」
前を歩くスランが、くるんと体を回して問いかける。
旺真は少し肩をすくめて苦笑した。
「……正直、全然思いつかないんだよね。とりあえず、一目見てから考えようかなって」
「分かったー! でも慎重にいかないと、急に襲われたらひとたまりもないもんね」
スランは本当に危険なことを分かっているのかいないのか、ぴょんぴょんと前へ跳ねるように進んでいく。
森の空気は少し湿り気を帯び、木々の隙間からわずかに陽が差し込んでいた。
やがてゴブリンの住処が近づいてきたころ、スランが小さな声で言った。
「オウマ、ちょっと僕が先に行って、様子見てくる!」
旺真は頷く。
「気をつけろよ。何かあったらすぐ戻って来るんだぞ」
「はーい」
スランはコロンと転がるように低木の陰に消えた。
(緊張感のないやつだな)
と心の中で思う旺真。
数分もしないうちに、スライムらしい静かな滑る音とともに戻ってくる。
「見つけた! あの先にある木で作られた小屋みたいなのがそうだと思う!」
小さな体を振るわせて報告するスランに、旺真は小声で礼を言い、慎重に匍匐前進で近づくことにした。
二人は静かに地を這って進んでいく。
木々の隙間から見えたのは、確かにゴブリンたちの集落だった。
簡素な木の壁、木の枝で編まれた屋根。
焚き火の煙が細く立ち上り、数体のゴブリンたちが周囲を歩き回っている。
「……あれ、何か叫んでる」
旺真が耳を澄ますと――
「オンナ! オンナ! オンナアア!!」
とにかく「女」だ。
ひたすら「女」と叫び続ける、狂気じみた声。
「うわ……なんか、合コン前で気合の入っているみたいな空気だな」
旺真が思わず口にする。
「すごい叫んでるんだね……」
「……うん。一旦離れて、作戦立てよう」
そうして二人は森の中で距離を取り、木の陰に隠れて今後の行動を相談しようとした――その時だった。
「キャ――ッ!?」
微かに、女性の叫び声が風に乗って聞こえた。
「今の、悲鳴……?」
「うん、今の絶対、誰かの声だよ!」
慌てて二人は声のする方へ向かう。
ここまで読んで頂きありがとうございます!
本筋からどうやって外そうか考えた時に、ギルド職員が浮かびました。
いつまでも帰ってこない新人冒険者は気になるはずだと思い書きました!!
次回はゴブリンと出会います、これからどうなるのか楽しみにしてください♪